アイオリス山脈⑦
「おいおい、やっぱやべえ薬だったんじゃねぇのか?」
注射を打ちすぐに眠ってしまったオルザを見ると嫌な予感しかしなかった。
「え?アニキ!ここ見て!!!」
いきなりリコがオルザの傷の部分を指さす。
何事かとリッツもその部分を見ると、ゆっくり傷が修復されていく。
「ど、どうなってんだよこの薬……。」
「こんなにすぐ治る薬なんて聞いたことも見たこともないよリコ……。」
やはりこの国で作られたとは思えないほどの性能。
傷が全て修復されるとオルザが目を覚ました。
「あれ?どこも痛くない?」
不思議そうにオルザは自分の体を見回している。
さっきまで血塗れだったオルザの体は綺麗に傷一つない状態になっていた。
「打って正解だったね。」
「賭けに勝ったってやつだ。それよりもこのナノマシンってやつ。これも持って行った方がいいかもな。どう考えても普通じゃねぇ。」
「そうだね、これも証拠になるかもしれない持って行こう。」
「あ!もしかして。」
何かに気づいたかのようにリコが急に立ち上がる。
「どうしたリコ。」
「テッド大隊長が撃った信号弾は黒。緊急事態を示す信号だった。でもそれってオルザを助けてやってくれって意味だったんじゃない!?」
「はっ、そうか!!そういう事か!ならもうここに用はねえさっさと出ないとな。」
先ほどお互いの話をした際、オルザは秘密裏にテッドの指示で侵入していたと言っていたが、リコの冴えた勘はそこに結び付いたようだった。
後は兵器庫を出て軍司令部から逃げなければならないが、それが一番難しい。
「いい事思いついたよ!」
「なんだよリコ。」
満面の笑顔でそうリコは答える。
「兵器庫にある物を使って基地内爆破しようよ、そうすれば騒ぎに乗じて逃げられるかも!」
「いい事言うなぁ、よしそれでいこう!」
「な、なかなか過激にいくね……。」
また3人は兵器庫内を物色する。
今度は騒ぎが起きそうな兵器を探して。
「これなんかどう?携行式拡散型多段ミサイルって書いてあるけど。」
「俺のもどうよ?携行式重迫撃砲だってよ!」
「ボ、ボクが見つけたのはこれ、対殲滅兵器拡散粒子砲。」
各々見たこともない兵器ではあるがどれも破壊力は凄まじそうだった。
流石にオルザの見つけた対殲滅兵器拡散粒子砲は文字の感じから威力が桁違いな雰囲気を察して辞めた。
騒ぎを起こすだけのはずが軍司令部ごと吹き飛ばしてしまってはとんでもないことになる。
結局携行式重迫撃砲を騒ぎを起こすために使う事となった。
オルザは単身侵入している為逃げ道を把握している。
もちろん内部構造も。
「兵器庫を出たら全員で右に行く。ドンつきまで行ったら後ろに向けて重迫撃砲を撃つ。これで後方は心配しなくてもよくなるはず。あとは前方からくる者たちを抑えないといけないけど、それはこれを使おう。」
オルザの手には少し前リコが見つけた炸裂式爆弾があった。
「完璧だな!」
「まああとはアレが追ってこないとこを祈るばかりだよ。」
全員が扉の前に集まる。外に耳をすまし人が居ないことを確認する。
「行くぞ!!!!」
リッツの掛け声と共に3人は一気に飛び出した。
廊下に人は見当たらない。
その勢いで右の壁まで走る。
壁に辿り着いた時には後方50メートル程に数人の見回りの兵士が走ってこっちに向かってくるのが見えた。
「やるぞ、食らいな重迫撃砲を!!!」
兵器を肩に担いだリッツが叫び、引き金を引く。
轟音が耳を劈く。
耳鳴りが止まないうちに砲弾は後方へと着弾し、爆ぜた。
轟音に続く爆音。
撃った反動で尻もちをついたリッツ達の所まで届く爆風が威力を物語っていた。
「と、とんでもねぇじゃねぇか……。」
撃ったリッツですら引くほどの威力であり、後方の廊下は完全に崩落しもはや誰もリッツ達の所へは辿り着けないほどとなっていた。
「すっごい威力!!!こんなの侵略者も木端微塵だよ!!」
リコの言う通りだ。
こんな武器があるならなぜ今まで討伐隊に配備されなかったのか不思議に思う。
「会話してる暇はないよ!!行こう!!!」
リッツは弾頭がなくなった重迫撃砲をその場に捨て走る。
「前方7人確認!!爆弾使うよ!!!」
一番前を走るリコが後ろを走る仲間に報告する。
「食らえー!!!炸裂式ばくだーん!!!!」
わざわざ叫ぶ必要はないが、リコの性格上叫びたくなるのだろう。
起爆スイッチを押し投げ込んだ炸裂式爆弾はその名の通り炸裂した。
これも先ほど同様威力は大きく前方から向かって来ていた7人はバラバラに弾け飛んでいた。
「うっ、きつい光景だよ……。」
辺りに散らばる臓物や血の臭いが吐き気を催す。
「そんな武器を選ぶからだ。ほらさっさと行くぞ!!それに……先に俺達を裏切ったのは軍司令部だ。情けは無用だぜ。」
「そうだよリコさん。ボクだって殺されかけたんだし。」
「うん、分かった。ごめんね行こう!!」
オルザの指示で3人は地下へと向かう。
地下にある倉庫の一部が崩落しておりそこからオルザが忍び込んだのだろうと想像できた。
「ここから外に出れば下水道に繋がる。アレが現れなくてよかったよ……。」
「おいばか辞めろ!こういう時そういう事言うとフラグって言うんだぜ?」
「ご、ごめんリッツ君。」
リッツはふざけたわけではないが、そのフラグは早くも回収される事となってしまった。
「侵入者発見、即座ニ排除シマス。」
倉庫の入り口から聞こえてきた声は無機質で抑揚のない冷たい声だった。
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