アイオリス山脈⑥
「とりあえず、ここは安全だろ。人があまり来るような場所でもないし。」
「そうだね、こっからどうするかだけど……。」
リッツとリコが作戦会議を始めたあたりで今いる兵器庫内からかすかにうめき声が聞こえた。
「なあリコ。なんか聞こえねぇか?」
「リコも聞こえた。この部屋なんかいる?」
2人で静かに兵器庫内をうろつきうめき声の発生源を探す。
すると一つの大きなロッカーの前で2人の足が止まる。
「ここから聞こえるな。」
「開けてみようよ、リコが開けるからアニキは念の為サウズ構えといて。」
意を決しロッカーの扉を開けると中から人が倒れてきた。
「うわ!!」
「リコ声が大きい、静かにしろ。」
「ご、ごめん。でもまさか人が倒れてくるなんて思わなくて……。」
倒れてきた人は全身血塗れで満身創痍だ。
「なんか見たことあるやつだな。」
うつぶせに倒れている人を仰向けにすると2人は驚愕の顔になる。
「お、おいまじかよ。オルザか?」
「オルザだよアニキ、でもなんでこんなとこに?しかも怪我してるし……」
「と、とにかく止血だ。救急キット持ってるだろ、それ使おう。」
大怪我を負った彼の手当てを行い物陰に寝かせる。
ただ、2人ともなぜこんな所に血塗れで潜んでいたのかがわからず困惑していた。
本人から聞かなければ分からず、今兵器庫内から出ていけばオルザが見つかるかもしれない。
ロッカーに隠れていたほどだ。
見つかればまずい事は分かる。
しばらく待っているとオルザが目を覚ました。
「うっ、ここ……は?」
「あ、目が覚めたよアニキ。」
「おう、オルザ。久しぶりだな、ってまさか久々の再会がこんな所になるとは思わなかったが。」
「リッツ君にリコさん……?なんでこんな所に?」
「そりゃこっちのセリフだぜ。」
お互い自分がここにいる理由と目的を話すことにした。
「な、なるほど。テッド大隊長から信号弾か……それで緊急事態だと判断してここに忍び込んだと。」
「そうだ。それで逃げ込んだ先のこの部屋でお前を見つけたんだ。手当てが間に合って良かったぜ。あのまま俺達が見つけなかったらお前死んでたぞ。」
「本当に助かった……ありがとう。ボクはなんとしてもテッド大隊長に情報を持ち帰らないと行けないんだ。」
「その情報だけどここでは言えないのか?」
「うん、とりあえず逃げ帰ってから話したい。ボクも正直信じられないと思った内容なんだ。ただあくまでボクが見たっていう情報でしかないけど。持ち帰れれば良かったんだけどそんな余裕がなくてね……。」
リッツは考える。
オルザは自分より強い。
そんな奴がこんなボロボロになるまでやられた相手とはどんな奴だろう。
並大抵の兵士じゃオルザには勝てないはず。
それは殲滅隊に入隊している事が証明している。
「ボクがここまで大怪我を負ったのには理由がある。とんでもなく強いやつがいたんだ。恐らくあれは人間じゃない。」
「本当か?人間じゃないって一体なんだってんだ。」
「分からない……ただボクらと同じ形をしていた。人の形を。でも明らかに違ったんだ。確実に心臓のある部分に剣を突き立てたはずなのに死ななかったんだよ……。」
「化け物じゃん……リコ怖いんだけど……。」
オルザは何と出会ったというのだろうか。
そもそもここは軍司令部内。
こんな所に人間以外が居るとは思えないが。
「司令官の私室にあった物を盗み見たのはバレてるはず。だから意地でもボクを殺しに来ると思う。殺される前にテッド大隊長に伝えないと……。」
そう言って立ち上がろうとするオルザを抑えつける。
「馬鹿辞めろ!その傷では無理だ。とにかく痛みが癒えるまではここに居たほうがいい。俺達が司令官の私室にあるヤバイ物ってやつを盗んできてやるから。」
「だ、だめだよリッツ君。アレには勝てない。それにアレは司令官の私室を守っているように見えた。」
「じゃあさ、この兵器庫内で何か使える物を探そうよ。その間オルザは休めるしもし使える物があればこの状況を打開できるかもしれないよ?」
「そうだな、よし。オルザお前はここで寝てろ。ここなら物陰になってるし人が入ってきてもそう簡単にバレやしない。俺達が何かいいの見つけてきてやる。」
そう言って2人は兵器庫内を物色し始めた。
どれくらい時間が経っただろうか。
2人が手に色々持ってオルザの元へと戻って来た。
「なんか使えそうなのいくつか見繕ってきたぜ。」
「リコも!」
3人で輪になり持ってきた物を調べることにした。
「これはなんだ?炸裂式爆弾?ヤバそうな兵器だな……。」
「んーこれはなんだろ、プラズマライフル?何だこれ?良く分かんない。」
「こ、これは何?ナノマシン?」
オルザが手に取ったのは四角い箱にナノマシンと書かれた物だった。
「開けてみようぜ。」
蓋を開けると中には注射器と説明書らしき紙が1枚入っているだけだった。
「なんじゃこりゃ。」
説明書を見ても文字が読めない。
少なくともこの国の言葉で書かれてはいない。
「待って、この文字……司令官の私室で見つけた資料に書いてあった文字と一緒だよ。」
「な、じゃあこれもそういうことか?」
「多分ね。」
明らかにこの国が作った物ではない事が分かる。
「あ、でもこれ見て。」
リコが説明書の最後のページをめくるとそこには治療の文字があった。
なぜここだけ読めるのかは分からないが、少なくとも治療の為の物だと分かる。
「う、打ってみよう。」
「やめとけオルザ。もし毒だったらどうするんだ。」
「どのみちこのままここにいても僕は出血が酷いしいつか死ぬ。それなら可能性に賭けてみるよ。」
「でも……。」
注射器の中には液体が入っている。
恐らくこれが治療に使われる薬なのだろうとは思うが、未知の薬を仲間の体に打つのはやはり恐ろしい。
「打ってくれないかな、リッツ君。頼むよ。このまま死ぬわけにはいかないんだ。」
「くそっ。もしこれが原因で死んでも恨んでくれるなよ?」
リッツは右腕を差し出したオルザに注射器を刺す。
中の液体を全て注入すると、そのまま気絶するかのようにオルザは眠ってしまった。
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