アイオリス山脈④
殲滅隊第一班と第二班がアイオリス山脈へと向かっていた頃トリカゴ内では。
「どういう事ですか!!!!」
軍司令部のとある一室では怒号が響いていた。
「もう一度言わなければならないか?テッド大隊長。討伐隊は拘束。当分兵舎から出ることを禁ずると言ったのだよ。」
「何故ですか!?我々討伐隊がいなければトリカゴの防衛に支障をきたします!」
部屋で怒号を放っていたのは討伐隊のトップであるテッド・プライム大隊長であった。
「貴君らには反逆の疑いが見つかった。勝手に動かれれば国を危険に晒す事になるだろう。故に討伐隊兵舎の敷地内から出ることを禁ずる。」
「何を根拠に言っておられるのですか!!!」
「まだしらばっくれるつもりかテッド。おいあれを持ってこい。」
テッドの目の前に座る司令官は部下に何かを取ってこさせるよう命ずる。
何のことか分からず、司令官の持ってくる物が何かも想像が付かなった。
しばらくして部屋に戻ってきた部下はテッドの目の前の机に一つの箱を置いた。
「これは……何でしょうか司令。」
「それが裏切りの証拠だ。開けてみろ。」
司令官に促され箱をゆっくりと開ける。
中に入っていたのは血まみれのサウズと灰色の軍服であった。
「こ、これは……。」
「見覚えがないかね?テッド。お前ならよく知っているのではないか?」
覚えはある。
軍司令部を調べる為、オルザに潜入を頼んだ時だ。
あの時、潜入するには出来るだけ目立たない服ということで灰色の軍服を用意させた。
しかしここで馬鹿正直に話してしまえば、テッドすらも危うい立場となる。
もしかすれば見間違いかもしれない、オルザのものではないかもしれない。そんな淡い希望を持ちながら、歯を食いしばり司令官の質問に答える。
「い、いえ。見覚えがありません。」
「ほう?これを見てもまだそんなことを言うか。ならば問おう、オルザ・ル・ルインという名前は知っているな?」
もうだめだ、司令官の口から名前が出ている以上この血まみれの服はオルザの物であると確信してしまった。
潜入などさせたばかりに優秀な若者を失ってしまった事に呆然としながら頷く。
「はい……殲滅隊に配属された優秀な兵士です。」
「ふん、最初からそう言えばよいものを。オルザという兵士はあろうことか私の部屋に侵入したのだよ。何をしようとしたかは知らんがね。大方私の命を奪いにでもきた暗殺といったところか。」
やはり潜入には成功していたようだ。
ただまさか最高司令官の私室に忍び込むなどとは思ってもいなかった。
確かに最高司令官であれば一番情報を握っているだろう。
ただし、それを盗み見るには相応の覚悟と代償がいる。
しかしオルザとて弱くはない。
殲滅隊に配属される以上相当な戦闘能力があったはずだ。
むろんテッドよりも強いだろう。
いくら最高司令官とはいえ前線で戦ってもいない者にオルザが負けるとは到底思えない。
「し、司令官はその際怪我は負わなかったのでしょうか?」
「ふっ、私の心配か?今更取り繕っても遅いが。まあいい教えてやろう。私の私室には優秀な護衛がいるのだよ。その者が私の不在時に忍び込んだ輩を成敗したのだろう。」
護衛なのに私室に待機?
もうそれはその部屋に絶対に隠さなければならない秘密があると言っているようなものではないか。
「ただ残念な事に取り逃がしてしまったようだ。かなり大怪我を負わせたはずだから長くは生きていけんだろうがな。だからこそお前達討伐隊が庇わないよう拘束する事にしたのだ。今は私の部下が追っている。いずれ見つかるだろう。」
「そ、そうですか……。」
オルザが生きている。
瀕死の状態かもしれないが生きている事に喜びを感じたが顔には出さない。
もしオルザと合流することさえ出来れば大きな秘密が知れる。
軍司令部の弱みを握ることができるだろう。
ただ血塗れの服を見る限りかなりの傷を負っている事は間違いない。
一刻も早く合流出来なければオルザは逃げ延びた先で死ぬだろう。
「何をしようとしたかは知らんがこの軍司令本部に潜入させるなど正気の沙汰ではない。殲滅隊も帰還次第同じ処分を下す。下がれ。」
これでテッドも自由に動く事はできなくなった。
だが、殲滅隊に伝えなれければならない。
でなければ、このまま殲滅隊も自由を奪われ侵略者が現れた時のみ戦わされる道具と化すだろう。
1つだけ助かった事がある。
司令官は機工隊は絡んでいないと思っている事だ。
実際処分が下されるのは討伐隊と殲滅隊のみ。
あの話をした際、ビリー機工隊長を呼んでいなくて助かったようだ。
なんとかして機工隊に連絡を取らなければならない。
あの場に居た機工隊は誰も居なかった。
ただ、現在討伐隊の中で数人機工隊と合同で任務に就いている。
その中にリッツとリコが居たはずだ。
彼らと連絡さえつけばオルザは助けられるかも知れない。
問題は連絡手段だ。
恐らくこれから兵舎へと戻る際監視を付けられる。
そんな時に機工隊に接触しようものなら、軍司令部は機工隊まで疑う事になる。
それは絶対に避けなければならない。
自室へ戻った時には討伐隊の兵舎の入口に軍司令部の息がかかった監視が張り付いていた。
彼らと連絡を取るにはもはやこれしか手段はない。
窓を開けると、黒色の信号弾を空に向けて1発放った。
外に出るものが使うサインの1つ。
撤退指示の際に使う緊急事態のサインだ。
これでリッツとリコに伝わるといいが……。
「何をしている!!テッド大隊長!!」
「監視の者か。なに、我々討伐隊は動く事ができなくなったとみなに知らせただけだ。上官からの指示がなければ部下は混乱するだけだろう?それとも君達が混乱し暴れようとする討伐隊を止めるというのかね?」
「ちっ。余計な真似はしないでいただきたい。貴方は既に拘束された身。反逆罪で処刑されなかっただけに過ぎませんよ。」
「分かっている。もう余計な真似はせんよ。」
案の定、外にいた監視の者から怒号が飛んできた。
適当にかわしておいたが、これ以上は下手な事をしないほうがいいだろう。
後はリッツとリコが察しの良い兵士であることを願うばかりだ。
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