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トリカゴの外で⑨

偉い目にあった。

昔は鬼の副長と呼ばれていたらしく、3日間の稽古も死ぬほどきつかった。

体力のない僕は重点的に体力増加を目的とした稽古をつけられ、アスカは実戦を想定した稽古をつけられていた。

元遊撃隊副長というだけあって、戦闘面では圧倒されてしまった。

僕らも強くなったと思っていたが、上には上がいるということを嫌というほど分からされてしまった。

しかし、流石というべきか3日目ともなるとアスカは模擬戦でガロンさんと互角に打ち合えていた。

僕は変わらずボコボコにされたが。


3日間の休暇も終わり、兵舎へとアスカと2人して帰る。

「この休暇、全然休めなかったじゃないか……。アスカがガロンさんに張り合うからあんなことに。」

「でもいい訓練にはなったでしょ。感謝しなさい。」

「感謝?まあ、いい訓練にはなったけども、わざわざ休みの日を全部使わなくても……。」

「貴方の体力のなさは相変わらずだったわね。技術はあるのにもう少し体力付けないと持久戦になればもたないわよ。」


兵舎に着くと、みなに休み明けの挨拶を交わす。

ガロンさんについては、一応軍を抜けて逃げた事になっている以上下手なことは言わないほうがいいだろう、とのことで殲滅隊の者たちにも内緒にすることにした。


「おー!ライルきゅーん!元気してたかーい?」

「ザラさんは相変わらず元気ですね。」

「アタシはいつも変わらずなのさ~。」


ザラさんはいつも元気いっぱいなイメージだ。

今日もいつもと変わらず、肩を組んでくるとそれを見たアスカが睨む。

これも毎度お馴染みの光景となってしまった。


「今日もいつもと変わらない訓練ですかね。」

「いーや?ま、後で隊長からも話があるから楽しみにしてて~。」


珍しい、また訓練場できっつい訓練させられると思っていたが。


兵舎に着いた足でそのままザラさんに着いていき、集会所へと向かう。

既に他の面子は集まっていたようで、僕らが最後だったらしい。

時間には余裕を持ってきたはずだが、みんなの意識が高いのだろう。


「よし、集まったな。今ここにいるのは前哨基地にいる第三班を除いた面子だ。この人数で今回の作戦は実行することになる。」

第三班を除いたら約20名の殲滅隊員だ。

ただ殲滅隊全員での任務となると、結構な事だと思うが。


「前回にも話したが、ライル達が出会ったゼクトの件だ。奴が対話をしたければアイオリス山まで来いと言っていたのは覚えているな?アイオリス山までの道のりは長い為、今回は大遠征となるだろう。だが無理をして怪我人は出したくない、無理だと判断すれば即座に引き返す。」

対話が可能なゼクトとはいえ、よく軍司令部が侵略者の言う事を信じたものだ。


「ただし!ここでの会話は隊の中だけだ。他の者には話すなよ。」

「隊長!なぜでしょうか?」

BBさんが皆の代弁者となってくれたようだ。


「今回の任務は表向きでは前哨基地の周辺調査だからだ。」

「なぜ隠す必要があるのでしょうか?」

「軍司令部は何かを隠している。それを確信したからだ。今回のゼクトの件はもちろん上に報告した。だが手を出すべきではないとの回答しか貰えなかった。分かるか?ゼクトの件は侵略者の謎に迫るいい機会だ、それを軍司令部は無視しろという。」

「それは……知られたくない事があるからでしょうか?」

「そういうことだ。あのゼクトとやらが人間の言葉を理解している事も恐らく知っているんだろう。ただ、それが我々にバレれば厄介な事になるからこそ隠そうとしている。俺はそう確信した。」


アレン隊長もなかなか大胆な事をする。

もしこれが軍司令部の耳に入れば、ただでは済まないだろう。

軍を追い出されるだけならまだしも下手すりゃ殺される。

まあ、アレン隊長を殺せる人なんて存在するとは思えないけど。


「ただ、これは明確な軍規違反にあたる。バレれば全員処罰が下されるだろう。覚悟が出来たものはここに残れ。今この部屋を出たとしても俺は何も言わん。これは個人の判断に委ねるべきことだ。」


横を見るとアスカも同時にこっちを振り向いた。

当たり前だが僕は任務を降りるようなことはしない。

アスカはどうなんだろうと横を向いたが同じ気持ちだったようだ。

目で言葉を交わし再度前に向き直す。


1分程待ったが誰も部屋を出ようとしなかった。

「そうか、お前達。感謝する。」

「隊長、俺らはみんな隊長に着いていきたいんですよ。だからもしダメだって言われても全員着いて行ってましたよ!」

流石、全員が同じ気持ちだったようだ。


「今から2時間後に出立する。それまでに準備を整えておけ、解散。あと長期になる可能性は高いぞ、食料も多めに用意しておけよ。」


隊のみんなが準備に取り掛かるが僕は別の事で頭はいっぱいだった。

軍司令部が黒いと分かれば、潜入しているオルザが心配だ。

経過報告もなく、こっちから連絡の取りようもない。

ただひたすら無事に戻ってくることを願うばかりだ。


「何を考え込んでいるの?」

「オルザの事だよ、魔窟に忍び込んだようなものじゃないか。」

「ああ、そのことね。私は何か嫌な予感がしてならないわ。」

「おい辞めろよそういうこと言うの。お前のカンは当たりやすいんだから。」

「ごめんなさい。」

縁起でもないことを言い出すアスカにドキッとさせられた。

僕も嫌な予感がしないわけでもないが、口に出すとなおさら本当の事になりそうで怖い。


「でも、私達もこれからアイオリス山という名の魔窟を目指すんだからどちらも危険に変わりはないわ。」

「でもあのゼクトが来いって言ったくらいだぞ、流石に罠ってことはないだろ。」

「忘れたの?あの化け物は対話はできるけど、私たちの両親を殺しているのよ。何もかも馬鹿正直に信じるのは愚者よ。」

忘れたわけではないが、ただ今の所他に対話が可能な侵略者はいない。

だからゼクトの言葉を信じてアイオリス山に行く事になったのだが、改めて思えば僕にとっても親の仇である事に変わりはない。


ただ、ゼクトと対話し人類にとって有益な話を聞けた場合、その後どうするべきか、何が正解なのか分からなかった。

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