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トリカゴの外で⑧

アスカの家へ着くと、いつものようにインターホンを鳴らす。

するとしばらくしてフィーネさんが出てくる。

毎日訓練で通っていたから対応も慣れたものだ。

違うのは隣に見知らぬおっさんがいることだけだろう。


出てきたフィーネさんは訝しげな顔をしながら僕に問いかける。

「あの?ライルさん、隣の方は?」

「久しぶりだなフィーネ。今までよくアスカの為に働いてくれた、俺が言う事ではないだろうが、ありがとう。」

「え?あの何処かでお会いした方でしょうか?あまり覚えがなくて……」

「おいおい、お前まで……。そんなに俺老けたか?ガロンだ、ガロン・バルムンク。」

「えええ!?ガ、ガロンさん!?す、すぐ中へ!!!!アスカにも知らせないと!!!」

あまりの驚き様にこっちまでびっくりしたが、フィーネさんは案内も程ほどに屋敷の中へと走って行った。


「おいライル。そんなに俺老けてんのか?」

「まあ、無精髭に汚らしい恰好ですからね。どこの貧民街から来たんだとでも言わんばかりで。」

「言い過ぎだぞライル。これでも商売人なんだ、恰好には多少気を使ってる。」

その恰好で?と言い掛けたがガロンさんの心を折りそうだから言わないでおこう。


「とりあえず、客間に行きましょう。」

「案内を頼む。」


フィーネさんの案内はなくなったが勝手知ったる屋敷だ。

客間まで迷いなく向かい、アスカ達を待つことにした。

しばらく待っていると忙しない足音が聞こえてきた。


「ガロン!?ガロンがいるですって!?」

いきなり大声を上げながら扉から入ってきたのはアスカだった。

一度僕に目を合わせそのまま目線が横にスライドする。


「え?」

「え?」

なんだ、え?って。

やっぱり気づかれてないじゃないか。

「あーそのだな、こんな成りだが俺はガロン・バルムンク、元遊撃隊副長だ。覚えているかアスカ?」

「嘘!?なんでライルといるの!?どうして!?」

「待て待て、とりあえず落ち着け。」

「落ち着ける訳ないでしょう!?いきなり何も言わず行方知れず!!それが今になって何故出てきたの!」

興奮状態では話もまともにできなそうだと思い、アスカを宥めソファに座らせた。


「落ち着いたか?」

「ええ、取り乱して恥ずかしいわ。それよりライル、説明しなさい。何故ガロンがここにいるの?」

墓参り中に出会った事、八百屋のおじさんをやっていて今まで近くに居たのに気付かなかった事を説明した。


「なるほどね、八百屋を隠れ蓑にしていた、ということね。」

「そうだ、先に謝らせてくれアスカ。済まなかった、お前の父親の部隊を解体させてしまった事、それに何も言わずに軍を抜けた事、本当にすまなかった。」

「別に怒ってはいないわ。父上が抜けた後の穴を埋めるのはそう簡単にいくわけがない、そのプレッシャーは到底計り知れなかったでしょう。だから行方をくらましたことに怒ってはいない。でも、せめて何か一言残して行って欲しかったわ……。」

「そう……だな。遊撃隊を解体されお前に合わす顔がなかった……。だから何も言わず出て行ったんだ。俺では……レオン隊長の代わりは務まらなかった。」

「あ、今更だけど僕とグラストン家の近所が侵略者に襲われたとき負傷者が出なかったのってガロンさんが戦ってくれてたってことですか?」

「ああ、そうだ。流石にあの時は戦わなければ死人が出ると思ったからな。ただ俺は軍を抜けた身。表立っては戦えん。だから正体を隠して戦っていたんだ。」

やっと合点がいった。

侵略者が現れ、僕の住んでいた地域にも来た時何者かが侵略者を圧倒し無事で済んだと聞いてはいたがまさかガロンさんだとは思ってもいなかった。


「とにかくガロン。貴方が生きていて良かったわ。せっかくだから貴方にも聞いてほしい事があるの。」


それから僕らはガロンさんに黒狼のゼクトの事を話した。

思えば最初に黒狼のゼクトと出会って情報を残してくれたのはガロンさんだった。

だからこそ聞いて欲しかった。


「あの化け物がそんな事を……対話を求むならアイオリス山の頂上へ来い、か。」

「そう。だから私達の当面の目標はアイオリス山へ行く事よ。簡単なことではないけれど。」

「しかし、そこにいけば人類の罪とやらも教えてもらえるということだろ?行く価値は十分にある。その黒狼のゼクトを信じるのであればな。」

「そこは信じてもいいと思います。わざわざ嘘をつく理由もないですし。」

「俺は軍を抜けているから行く事は出来んが、お前たちがいない間このトリカゴを守るくらいはしてやれる。だから安心して行くといい。」

「ふふ、元遊撃隊副長が言うなら間違いなく安全ね。腐っても精鋭だった頃の腕は落ちていないようだし。」

「ふん!流石にまだ戦えるわ。現役でないとはいえお前達のような新兵に負ける程衰えてはおらん!」

「そうかしら?今じゃ私たちは軍の中でも精鋭中の精鋭よ?それに昔模擬戦で私が勝った事を覚えていないのかしら?」

「あれは訓練だったから本気ではない!」


何やら昔話に花を咲かせているようで僕は蚊帳の外だが、仲良くしているようで良かった。

ガロンさんがトリカゴを守ってくれるというならとても安心感がある。

何より、現役を退いていながら侵略者と一対一で戦って無傷で倒している。

少なくとも殲滅隊の隊員と同程度の戦闘能力は保持しているようだ。


「よし!そこまで言うならやってやる!おいライル!お前も3日間休暇なんだろ!?俺が稽古をつけてやる!アスカもだ!みっちりしごいてやるからな!覚悟しろ!」

「ええ!?なんでそんな話になったんですか!嫌ですよ!せっかくの休暇が!」

「つべこべ言うな!今からやるぞ!アスカ、裏庭に来い!!」

「嫌だぁぁあ!せっかくの休暇なんだ!ゆっくり休ませてくれぇ!!!!」

「ふっふっふ、鬼の副長と呼ばれたこの俺が休みの間なまらないよう鍛えてやる!!!!来い!!!」


なぜそんな話になったのかは大体想像できるが、僕はガロンさんに裏庭へと引きずられて行った。

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