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トリカゴの住人④

「ガロン副長!」

隊員が駆け寄ってきた。

向こうでの戦闘も終わったのだろうか。

「どうした。」

「何故かは分かりませんが侵略者は退いていきました。」

「なんだと?」

侵略者が襲ってくる事は数あれど、退いて行ったというのは初めて聞いた。


「損害は?」

「我ら遊撃隊に軽傷者は有れど、死者は無しです!」

「そうか……いやそれは間違いだ。」


隊員は首を傾げ、本当に意味が分からないというような顔をする。

「どういう事ですか?」

「死者1名。まさかレオン隊になって最初の犠牲者がレオン隊長自らとは……」

その言葉を聞いて横に目を向ける隊員が目を見開いた。


「た、隊長が!そんな!!」

「私が駆け付けた時にはもう……」

「ううぅ、隊長ぉ!!」

まさか隊長が戦死するなんて思いもよらなかったようだ。

ひとしきり泣いた後、隊員は遺体回収作業の為持ち場に戻って行った。


私も泣きたい気持ちはあるが、それよりも隊長が最後に言い残した言葉が気になっていた。

「黒狼のゼクトに人類の罪……か。信用出来るものにしか全てを話さない方が良さそうか……」



帰還した遊撃隊の勇姿を一目見ようと民衆は街道に集まっている。

しかしその遊撃隊の顔色は良くなかった。

それもそのはず、一番前で大剣を携えて腕を上げる人物が何処にも見当たらない。


その民衆の中にはアスカも居た。

尊敬する父上の姿を目に焼き付けようとメイドを引き連れて街道に出てきていたのだ。


父上の姿を見つけられず困惑したが、ガロンが先頭に居たのを見付けるとすぐに傍まで駆け出した。


「ガロンさん!!父上は何処!?」

「アスカ……おい、あれを」

悲痛な顔を小さな少女に向けながら、隊員にある物を持ってこさせた。


「アスカ、よく聞くんだ。レオン隊長は戦死した。」


その瞬間雷が落ちたかと思う程、アスカの身体には衝撃が走った。

いつも何事もなく帰って来ては武勇を聞かせてくれたあの父上に似合わない戦死という言葉。


「これは、いつも隊長が肌身はださず着けていたネックレスだ。多分亡くなった奥様の形見だろう。」

アスカの手に渡された物は、いつも父上が着けていた血に濡れたネックレスだった。

ああ、父上は本当に死んでしまったのか。

受け入れられなかった父上の戦死を受け入れてしまった。


「父上……父上ぇぇぇ!!!」

恥ずかしさもかなぐり捨て、ガロンに抱きつき泣き喚いた。

民衆の目があっても構うものか、というように。


「なぜ!!何故父上が死ぬようなことに!!」

「すまない……レオン隊長は特殊個体と1人で相対した。」

「何故1人で戦わせたのですか!」

「それは……隊長が望んだからだ……。」

「望んだら!1人で戦わせるのですか!!!貴方も共に戦っていれば!」

「そうだ!!兵士は命令に絶対遵守!上官の命令には逆らえん!それに……私では足手まといにしかならん……。」

悔しそうな顔でアスカの目を見ながらガロンは叫んだ。

初めて見るガロンのそんな迫力に気圧されたのか、アスカは黙る。


「それに……私が共に戦っていた所で死体が1つ増えただけだろう。」

ガロンは決して弱くはない。

アスカに訓練で負けたとはいえ、それは訓練だからだ。

実戦と訓練では違う。何より試作型サウズを取り付ける事に成功した1人。

弱いわけがなかった。

そんな男ですら無理だと悟った侵略者はどんな奴だったのか。


アスカの耳に顔を近付けたガロンは小さな声で言った。

「アスカよく聞くんだ、これから君は血の滲むような努力をして父上を超えるんだ。そしてあの化け物……黒狼のゼクトを……探し出し、人類の罪とは何か、聞き出せ。」


何の事かさっぱりだった。

何よりなぜ侵略者の名前が分かるのか。


「今言った事は忘れるな。しかし誰にも言うな。信頼できる者以外には必ず言うんじゃないぞ。」

「……はい。」


何故それを私に伝えたのかは分からないが、とにかく知っておけということだろうか。



父上の居なくなった家は引き払い小さな家に引っ越すことになった。

世話係のメイドも共に来てくれた。

戦死ということでかなり纏まったお金がアスカには入ってきたが大きな屋敷で住むには少し苦しい生活になるだろう。

父上との思い出が詰まった家を手放すのは嫌だったが今後の生活を考えたガロンの勧めで引っ越したのだ。




それから遊撃隊は、今までの戦い方を出来ず死者を複数出してしまい、解体されることとなってしまった。

精鋭揃いの隊員達は他の隊に吸収され、責任を問われたガロンは除隊処分。

アスカが12歳の時、ガロンは行方をくらました。

誰も居所は分からないが、父上を除けば強者の1人だ。

何処でだって生きていけるだろう。



アスカが15歳になった頃、今では母親代わりのメイドが唯一の心の拠り所だった。

夕飯の時、メイドから神妙な顔付きで尋ねられた。

「アスカ、本当に兵士になるの?」

「うん。父上を越えるために。」

「私がメイドとしてこの仕事に着いた時、貴方の両親は元気だった。でも奥様は病死、旦那様は戦死。もう、誰も死んでほしくないの……」

「私は死なない。父上に言われた、お前には才能があると。だから私は死なない。いや、死ねない。」

「戦場に出て、そんな保証がどこにあるというの。」


メイドが言うことも最もだ。

しかし、それが戦場から逃げる理由にはならない。

必ず、ガロンから伝えられた黒狼のゼクトを見つけなければならない。

その為には兵士になるしか道はない。

私にとって父上の仇であり、人類の罪とやらを知っている侵略者。


「安心して、フィーネさん。私は必ず帰って来るから。」

「そこまで言うならわかったわ。貴方を信じる。でも無茶はしないで。」

「勿論。心配してくれてありがとう。」

この人が居なければ、私は孤児となりどこかの施設に預けられる事となっていただろう。


フィーネさんは天涯孤独。

ようは捨て子だ。

母上が拾い上げ、家で雇うことになってから彼女は献身的に尽くしてくれた。

自分を救ってくれた恩を少しでも返せるなら、と。

まだ25歳になったばかりの彼女もずっと独身でいいのかと思わない事もないが、救ってくれた奥様の恩に報いる為にはこの子を立派な大人に育てなければならない。

だから、自分の事は後回しでいいのだ。


素人目に見てもアスカの身体能力には目を見張るものがあった。

しかし、それで安心できる事など何一つない。

何より、あの英雄と言われたレオン様ですら死んだのだから。


アスカが兵士になれば、今後も彼女の心労は絶えないことだろう。


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