トリカゴの外で⑥
「ガルオン?」
「そうだ、お前達が侵略者と呼ぶトカゲモドキをガルオンと呼ぶ。」
種族名のようなものなのだろうか。
「その、ガルオンとやらの墓だって?」
「そうだ、ここは過去に寿命が尽きて死んでいったガルオンの墓地。そんな場所に土足で踏み入るお前達は、墓荒らしとでも呼ぶべきであろうな。」
まさかこんな奴らの墓に落ちてしまうなんて、ツイてないな。
「それで?何故お前がこんな所にいる。」
「ククク、何を当然の事を。お前達にも墓参りという文化があるだろう。それと同じ事だ。墓に来てすることなぞ墓参り以外にあるまい?」
僕ら人間を小馬鹿にしたような話し方が、いちいち鼻に付く。
「せっかくこうして顔を合わせたのだ。聞きたい事くらいないのか?」
「聞いて答えてくれるのなら、聞く。」
「ふむ、内容によるな。」
「なら、なぜ人間の言葉を理解している。」
「それは話すと長くなる、我もそこまで暇ではないのでな、それ以外にしろ。」
一番聞きたかった事なのに。
仕方ない、それなら別の事を聞き出すしかない。
「じゃあ、人類の罪とやらはなんなんだ。」
「む、それも話が長くなる。他にはないのか。」
またそれか。
聞きたい事が全然聞けない。
「この世界に生きている人類はトリカゴの中だけなのか?」
「この世界……ときたか。この惑星でということでよいな?そうだな、その聞き方であればこう答えよう。トリカゴの中以外に人類は存在しない。」
ずいぶんと引っ掛かる言い方をする。
しかし、トリカゴの中以外には生存者はいないということは分かった。
あくまで、ゼクトの言葉を信じるのであれば、だが。
ただ、こんな所で嘘を付く理由もないだろうし本当の事なんだろう。
「最後に1つ聞かせろ。」
「む、1つだけなら良い。」
「お前以外に特殊個体は存在するのか?」
これは聞いておいたほうがいいだろう。
何より相手の戦力を知る事は将来的に意味のある行為だ。
「そうだな、我以外にも存在する。お前達が前に殺した愚者のトールも特殊個体であったがな。」
「愚者の……トール?」
「奴は言葉を理解しておらんからな。あの巨大な化け物がいたであろう、あれの名前だ。」
ゼクトの言いぶりだと、言葉を理解している侵略者は己以外にもいると言ってるようなものだ。
やはり、謎が多いな。
もっと知りたい。
この世界の事、そしてなぜ侵略戦争などという愚かな事を始めたのか。
「む、そろそろ時間だな。我は先にゆくぞ。」
「待て!!一度お前としっかり言葉を交わしたい。聞きたい事がありすぎるんだ!」
「仕方あるまい。人は罪深き生き物……探究心は抑えられぬのが性分であろうな。」
何のことを言っているか良くわからないが、ゼクトは少し思案するような顔を見せた。
「良かろう、ならばアイオリス山の頂上へ来るがいい。そこで全てを教えてやろう。」
「は?アイオリス山?どこだそれは。」
「上に上がれば辺りを見渡してみろ、遠くからでも巨大な山々が見えるだろう。そこまで来られれば教えてやる、人類の罪というものを。」
それだけ言うと飛び上がる為に足に力を入れだしたのかゼクトの肌に血管が浮き出てきた。
「最後に1つだけ教えろ!」
「む、最後が多いな。貴様の最後はいくつあるのだ。」
「なぜ……落ちてきた僕らを殺さなかった。」
しばしの沈黙が流れた。
ゼクトは僕の目をじっと見ている。
しばらくすると目を細め、哀愁漂う表情を見せた。
「奴に……飽くなき探究心を持つお前が……似ていた、からであろうな……。ではな、また会えることを祈っているぞ、ライルとその番いよ。」
ツガイ!?
「ま、待て!ツガイってなんだ!アスカの事か!?おい!」
既に飛び上がったゼクトには聞こえなかっただろう。
「番い……」
アスカはアスカで小さく呟き顔を赤くして俯いているし。
「うわぁぁあ!!!」
「なん!なんだこいつ!!」
「くそ!」
上から悲鳴が聞こえてくる。
穴からいきなりゼクトが飛び出してきたもんだから、みんな驚いているようだ。
「アスカ、僕らも上にあがろう。上手くジェットスラスタを使えば上がれるはずだ。」
「そ、そうね……。」
やたら気にしているな、番いと呼ばれた事を。
番いとは夫婦の事だ。
付き合ってもない男女に言う言葉ではない。
まあいい、とにかく今は上に上がって皆に蕪辞を伝えないと。
「お、無事だったみたいだね〜、それより!なんで黒き災害が飛び上がって来たのさ!君達2人共何もされなかったの!?」
「ああ、そのことなんですが……」
地下深くであったことを隊のみんなに話した。
「なるほど……アイオリス山か……。多分あれの事を言っているのだろう。」
アレン隊長が指差す方向には、果てしなく遠い所にアイオリス山らしきものが見えた。
「あそこまで行くのは並大抵の準備じゃ無理だぞ。前哨基地を奪取したのと訳が違う。」
前哨基地までは百キロちょっとの距離だったが、あの山脈の麓まで行くだけでも軽く数百キロの距離はあるだろう。
大遠征の準備が必要になりそうだ。
「とりあえずあの黒き災害は他の侵略者とは違い対話することが可能と分かっただけでも儲けものだな。」
「そうですね、少なくとも僕らの話を聞いてくれる、もしくは教えてくれるくらいのことはしてくれます。」
「かといって、奴に殺された罪が帳消しになることはないがな。」
対話はできたとしても、黒狼のゼクトが殺してきた人類は数知れない。
なぜそこまで親身になって質問に答えてくれるのかも謎だ。
「とにかく帰るぞ、あまり遅くなるようでは何かあったと言っているようなものだ。」
「了解です。」
「それと、アスカは何かあったのか?さっきからずっと俯いて何やら呟いているが。」
「き、気にしないで下さい。」
「そうか、ならいいが。」
アスカはずっとあの調子だ。
ゼクトに夫婦だと思われた事がそんなにも気に触ったのだろうか。
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