トリカゴの外で⑤
「これより!ライトニング作戦を実行する!!各自最良の判断で行動せよ!!出発!」
前哨基地の門を出て、30分。
未だ侵略者との遭遇はなかった。
それどころか人工物らしき物は一切見つからない。
一面荒野で、何処を見渡しても荒れ地があるだけだ。
昔は文明が栄えており、ビルと呼ばれる高層人工物が立ち並ぶ光景だったというが、本当なのか疑いたくなるほどに何も無い。
長い年月が経ち風化したとはいえ、ここまで何も無くなるものなのだろうか。
多少は建物の残骸程度残らないものなのか?
青く澄んだ水があり、緑豊かな大地であった地球は何処に行ってしまったのだろうか。
侵略者が来なければ今でも様々な生き物が存在し、綺麗な風景を見ることが出来たのだろうか。
そんな過去の地球を想像し、目を瞑る。
そもそも侵略者は何の為に地球に来た?
緑豊かな大地を荒野にしてしまうほどめちゃくちゃにして惑星を自らの物としても、なんの旨味もないだろう。
考え出すとキリがないが、最近は特に考え事が尽きる事がない。
「なあ、アスカ。」
横に座りずっと外を見つめているアスカに声を掛ける。
「こんなボロボロになった惑星を手にして、何がしたかったんだろうな侵略者って。」
「そんなの私達にはわからないわ。それこそ黒狼のゼクトにでも聞かない限りね。」
それもそうだ、黒狼のゼクトに出会えればその辺の話も聞いてみたい。
しかし、今ここにいる面子は侵略者キラーと言っても過言ではない者達ばかりだ。
静かに対話ができるとは到底思えない。
「ゼクトか、会えたら聞いてみたいな。」
「なぜあの化け物だけが人間の言葉を理解しているのか、それが全ての謎に繋がる気がするわ。」
「そうだな。」
今まで沢山の侵略に出会ってきたが、どれも咆哮するか言葉にならない叫びを上げるだけだった。
対話なんて出来たものではない。
あの巨大な特殊個体ですら言葉を話す事はなかった。
黒狼のゼクトだけが特別、とでもいうのだろうか。
「おい、何かある。止まれ。」
そんな事を考えているとアレン隊長の声がし、何事かと前を向く。
止まった車両の目の前には、明らかに他とは違う何かがあった。
「なんですかね、これ。」
「知らん、周囲を調べる。お前も下手に触るなよ。」
縦に3メートル程の石が5つ、一定間隔で円を描くように置いてある。
文字のようなものも書いてあるが何て書いてあるかは分からない。
ただ、どの石も中心に向かって黒い穴が空いていた。
周辺に何も無いことを確認し、数名が念の為周囲警戒を行う。
アレン隊長を含めた10人程が石の周りにいる。
「警戒しておけ、触るぞ。」
僕らは何があっても対処出来るよう、サウズを起動できる体勢を取る。
アレン隊長が触ると、何も起こらなかった。
「ほんとなんなんですかねこれ。」
ゼノン副長も足で石を軽く蹴るが何も起きない。
「中心に向かって何か穴が空いてます、真ん中に立てば何か分かるんじゃないですかね?」
僕はゆっくりと真ん中に立つ。
しかし何も起きなかった。
「なんか怪しいなぁ。ライルきゅんそこ立ったままでいてね。」
そう言ってザラさんは4人の隊員を石の近くに配置した。
「意外とこういうとこに何か意味あったりして。」
配置した4人に合図し同時に黒い穴に指を突っ込む。
「ちょっと!ザラさん!危ないですよ!」
「んーでも何も起きないねー、もういいよライルきゅん、そこから動いても。」
はい、と返事し動こうとした瞬間、足元に振動を感じる。
「なんだ!?」
「ライル!!」
異変を感じたのかアスカが側まで走ってきた。
「いや、揺れただけ?みたい。」
その刹那。
僕の足は地面に触れておらず、急な浮遊感に包まれる。
そう、足元が崩れたのだ。
「なっ!!」
「ライル!手を!」
直ぐ様アスカの手を握り、お互いに目を合わせる。
「おい!!お前ら!」
落ちていく僕らにはアレン隊長のそんな言葉が聞こえた気がした。
「うっ……」
目を開けると辺りは暗く、直ぐ側にアスカが倒れている。
どうやら落ちた衝撃で気を失っていたようだ。
「おい!アスカ!!」
「ううん…………何処かしら……ここ。」
アスカを揺さぶり起こすと、目を覚ました。
僕と同じく気を失っていただけのようだった。
「分からない、さっきの石のとこから落ちたみたいだけど。」
上を見上げれば微かに光が見える。
多分空が見えているのだろう。
それほどまでに深い場所に落ちたのだとわかった。
「こんな深いとこまで落ちたのによく僕ら無事だったな……。」
「確かに……そうね。」
こんな深い場所に落ちれば普通無事では済まない。
何が僕らの命を救ったのか。
「それは我が居たからだ。」
そんな事を考えようとした途端、暗闇から声が聞こえた。
「何者だ!!」
咄嗟にアスカは臨戦態勢を取る。
同じ様に僕も構えを取った。
「ふん、殺すつもりなら既に殺している。お前達は何用でここに来た。」
もし殺すつもりなら気を失っている間に殺せばいいだけの話。
今暗闇から声を掛けてきた者は僕らを殺すつもりがないと分かり構えを解く。
「それよりお前こそ何者なんだ。」
「声で分からぬか?」
ゆっくりと近付いて来る気配が感じ取れる。
次第に暗闇に目が慣れた僕らが見たのは、黒い化け物。
黒狼のゼクトであった。
「くそ!!!サウ……」
「待て、今は何もするつもりはない。」
サウズを起動しようとしたが、寸での所で待ったが入る。
アスカは黙ったままだが、構えは解いていなかった。
「そこのメスにも言い聞かせろ、今は何もするつもりはない。戦いたいのならば戦ってやっても良いが。」
こんな場所で二人きり。
戦った所で負けるのは目に見えている。
それが分かったからか、アスカも構えを解いた。
「それで、何故こんな所に来た。」
「5つの石に囲まれた場所に居たんだ、そしたら急に足元が崩れて落ちた。」
「ほお、あれを起動させたということか。機転の効くやつもいるようだな。」
「それよりここは何なんだ。」
クツクツと笑うゼクトに少し苛立ちが顔に出る。
「此処を何処とも知らず来たのか、なかなか面白い。ここはお前たちが侵略者と呼ぶ者達の墓だ。」
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