トリカゴの外で④
数日前、レイン達の話を聞いてから考えることが多くなった。
僕達が学んできた歴史書は嘘ばかりではないのか?
敵は侵略者だけではないのか?
偽りの歴史と黒狼のゼクトが言っていた人類の罪は関係するのではないか?
考え出すとキリがなくなる。
「ライル、また何か考え事?」
「ん?ああアスカか。そうだな、なんかレイン達の話聞いた後だと色々考えすぎてしまうよな。」
「そうね……私達が知っている歴史はどこが正しくて何が偽りなのか良くわからないわね。」
「このトリカゴを作ったカイル?だったっけ?その人も本当にいたのか怪しいもんだよ。これだけの技術だ。明らかに侵略者側の技術力だろこんなの。」
高く聳え立つ壁を見上げれば青白い障壁が目に映る。
前哨基地から発射されたあの砲台も青白い砲弾だった。
こんな技術が人類にあるのなら、あの砲台も作れるんじゃないのか?
「偽りの歴史の話を聞いた後じゃこんな技術が数百年前にあったとは到底考えにくいわね。」
「そうだよな、どうやってこんなとんでもなくデカい障壁が作れたのか。」
「もしかすると私達がトリカゴと呼ぶこの壁は、侵略者にとっての鳥を閉じ込めるトリカゴなのかもしれないわね。」
「おい、やめろよ怖いだろそんなの。僕達が侵略者に囚われた鳥だなんて、あってほしくない話だ。」
「あくまで推測よ、本気で言った訳ではないわ。」
アスカの冗談を適当に流したが、実際あってほしくない話だ。
でも、辻褄は合うかもしれない。
侵略者は捕らえた人間を娯楽感覚で殺し、楽しむ為だけに壁の中へ収容している、とか。
「それより今日から前哨基地で滞在になるのよ?準備は出来てるの?」
「当たり前だろ、久しぶりにあの基地に行くなぁ、大分様変わりしてるかもな。」
僕達殲滅隊は今日から前哨基地へと向かい、侵略者が逃げて行った方向に足を伸ばす。
少しずつではあるが侵略者の本拠地となる場所には近づいているはずだ。
今回は殲滅隊のみでの調査任務となる。
援護がない戦いにはなるだろうが、本来殲滅隊とはそういうものだ。
支援を必要とせず単独で侵略者を撃破する、個々が精鋭中の精鋭なのだ。
今度こそ黒狼のゼクトと出会う機会があればいいが。
2時間ほどかけて、前哨基地へと辿り着くと既に青白い障壁が覆っていた。
どうやったかは知らないが、トリカゴと同じような障壁がここにも作られていた。
障壁を展開する為のエネルギーは何処から持ってきているのかは誰も知らないらしい。
一部の研究者達が黙秘を貫いているからだ。
アレン隊長にも聞いてはみたが、知らなかった。
知っているのは恐らく軍司令部だけだろう。
研究者と軍司令部は繋がっていると考えて良さそうだ。
「ライルきゅん、どした?考え事?」
また一人で考え込んでいたらしい。
「いえ、なんでもありませんよ。」
「ほんとに~?結構多くない?長考すること。」
「そうですか?すみません任務中に。」
「いやいや怒ってるわけじゃないんだけどさ~戦闘中は気を付けてよ~。一応アタシも守ってあげるつもりだけど、いつも守れるとは限らないからねぇ。そこでアタシを睨んでるアスカちゃんもいつも守れる訳じゃないしね。」
「はい、気を付けます。って僕も自分の身くらい自分で守れますよ。」
「まあ~?こないだアタシが模擬戦負けちゃったけどさぁ、まだまだ経験値でいえばひよっこだよライルきゅんは。」
それでも模擬戦での勝利には変わりない。
「そ!れ!に!たった一回勝っただけじゃん!!次は負けないよ~。」
「ぐっ!勝ちは勝ちですよ!」
「あの女……いつもライルにちょっかいかけてくるわね……。」
アスカの目が人殺しの目をしている。
怖いから何も言わないでおこう。
触らぬ神に祟りなしっていうし。
基地内に入ると、そんなに様変わりはしていなかった。
ただし、立入禁止の場所ができており多分そこに障壁のエネルギー源があるのだろう。
前哨基地に滞在していた討伐隊や機工隊の人たちに軽く挨拶して指示されていた広場に移動する。
「全員集まったか?」
「いえ、ゼノン副長はタバコと行って何処かに行きました。」
「またか……。まあいいアイツ抜きで話をする。前回侵略者共が逃げていった方向に調査目標を定める。距離はここと同じく100キロ地点までを調査範囲とする。」
「ただいま戻りましたー。」
ゼノンさんの気の抜けた挨拶で全員真面目な顔で聞いていたのに、間の抜けた顔になった。
「遅い!……で、続きだが、今回の作戦目的で重要視されるのは他の基地があるかどうかだ。わざわざ遠くにいる侵略者と戦闘は行わなくていい。接近してきた場合のみ戦闘を行う。100キロ地点まで調査し見つからなければそのまま帰還。見つかれば帰還したのち報告。基地奪取作戦を練ることになるだろう。」
見つかっても見つからなくてもさっさと帰るといった内容だ。
割とあっさり終わるかもしれないな。
「ただし、特殊個体を見つけた場合に限り最優先で討伐する。何よりも優先しろ。以上だ。」
「隊長、作戦名はなんです?」
「そんなもんどうだっていいだろうが、たまには真面目に聞いておけゼノン。」
「いやぁ作戦名は大事だと思いますけどねぇ。ほら、士気にも関わりますし。」
「ちっ。ロウ、お前一班の副班長だろ、何か作戦名を決めろ。」
「え!?俺がですか!?」
いきなり話を振られたロウさんは驚きながらも作戦名を考え出す。
「じゃあこういうのはどっすかね?領土拡大調査作戦ってのは。」
「安直だな。」
「じゃあ、隊長が決めてくださいよ!」
せっかく考えた作戦名を安直といわれ拗ねてしまった。
「ちっ、作戦名はライトニング。これでいいだろ。」
「なるほど、ぱっと行ってぱっと帰る。電撃作戦ってことですね。かっこいいですねぇこれなら士気も上がるかと。」
隊長も安直じゃないですか、と思ったのは僕だけではないはず。
「1時間後出立だ。準備が出来次第門に集まれ。」
「「「了解!」」」
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