トリカゴの外で②
「レインとルナが存在しない!?でも確かに居ましたよ!」
「知っている。作戦前お前達訓練時代の同期が集まり雑談していたところを見ていた。」
「なら!」
「もう1つ教えてあげようライル君。レイン・クリストファーとルナ・ジーンは過去に亡くなった兵士の名前だったんだよ。」
「ゼノンさん、意味が分からないです。」
「レインとルナは性別を偽るだけでなく、名前まで偽っていたということだ。」
「それの何の意味があるんですか!?」
「それが分からないからお前を呼んだんだ。そうか、お前も知らなかったか。であれば他のやつに聞いても分からないだろうな。」
レインとルナは作戦前に、また笑って夕食を共にしようって話をしていた。
僕らは信頼できる仲間だと思っていた。
それがまさか性別も偽り名前まで偽りだったなんて。
彼女達が何者で何が目的だったのか、結局分からずじまいだった。
「この話は終わりだ。同期達になら話していいがそれ以外には言い触らすな。あまり部下達に不安を与えたくはない。」
「わ、分かりました。」
部屋を出てすぐ、同期だった仲間を僕の部屋に呼び集めることにした。
リッツとリコは討伐隊でジェイドは機工隊であり兵舎も離れている為呼べなかったが、殲滅隊の仲間だけにでも話しておこうとアリア、レイス、アスカ、オルザの4人だけを集めた。
「ライル入るぞ。」
「どうぞ。」
ゾロゾロと部屋に入ってきた彼らにお茶を出し全員が集まって話をすることにした。
「それで、一体私達を集めたのは何故だい?今日君が隊長に呼ばれた事と関係しているとか?」
「そうだな関係はしている。」
レインとルナの事と隊長が調べた内容等、全て話した。
「は?あいつらが偽りの名前?意味が分からん。」
「ううむ、何やらややこしい事になっていそうだね……。」
「隊長達も何が何やら分からないって感じだったよ。」
「レインが男じゃないかも、とはなんとなく感じでいたわ。」
「そうなのか?」
「ええ、女の勘よ。」
またふわっとした推理だ。
しかし女の勘は馬鹿に出来ないというし、アスカならなんとなく気付いていたと言っても不思議ではない。
「大体、名前を偽る意味があるのか?彼女達は何が目的だったのかな?」
「分からないな……ただ行方不明になったのが作戦後だし、良くある話だと情報を何処かに持って帰る事が目的だったとか?」
「ああ、初めて前哨基地を手に入れトリカゴの外に人間の領土を得た、って情報かい?」
「多分ね。ただ何処に持って帰る必要があったのかは分からない。」
「あ!」
オルザがいきなり声を出した為全員がオルザの方を向く。
「どうしたオルザ?」
「いや、その、えと、前に僕は滅んだ国の末裔って話しただろ?」
「そうだったな、変わった名前のつけ方する国だよな。」
「そ、そう。僕が祖国はヒルンド・ルスティカ王国。それで気づいたんだ、ルナは僕らと変わらなかったんだけど、でも、レインは右目だけ青かったんだよ。だから、別の国の人、じゃないかな?」
言われて気づいた。
確かにレインだけは右目が青かった。
他にそんな人はいなかった気がする。
今更だがこの国の名は、シュラーヴリ帝国という。
昔は大陸に覇を唱え強大な国だったと歴史書には書いてあった。
故に他の国が滅びても唯一生き残れた国なのだろう。
「てことは、別の国からの諜報員?」
「いやいや、性急すぎる答えだよライル。そもそもこの帝国以外は滅んだと歴史書で学んだが?」
「だよな……じゃあもしかしてどっかの国がまだ存在してて、トリカゴの外の領土を得た帝国の情報を持ち帰る必要があったとか?」
「可能性は高いだろう。少なくとも友好的な国ではないのではないか?コソコソ動かなければならないというのならね。」
結局夜通し話し合ったが、レイン達の目的は分からなかった。
ただ一つ言えるのは、僕らと協力し合うような関係性ではない所に属しているのは確かだ。
翌朝、再度アレン隊長から呼び出しがあった。
今度は同期全員だ。
「失礼します。」
隊長室に入ると、アレン隊長とゼノン副長の他にガデッサ教官、リッツ、リコ、更には討伐隊大隊長のテッド・プライムまでが居た。
「リッツ!リコ!」
「おお!あの作戦時以来だな!それより聞いたかよ?レイン達の話。」
「ああ、昨日アレン隊長から聞いた。多分その話で僕らが呼ばれたんだと思う。ですよねアレン隊長?」
「そうだ、まず座れ。」
隊長に促され全員着席する。
「知っての通りだが、レインらの話で集まってもらった。我々の中で恐らく彼女らは別の組織に属する諜報員のような者だったのではないか、と結論付けた。お前達も昨日話し合って似たような結論に至ったんだろ?」
アレン隊長らと僕らの考えは一致していた。
やはりその可能性が高いことは否めない。
「それでだ、ここからはテッドに任せる。」
「諸君お勤めご苦労。わざわざ集まってもらっていきなりで申し訳ないのだが、君達にも別組織からの諜報員である可能性が高いと嫌疑がかけられている。」
「そんな!?僕らだって知らなかったんですよ!?」
「知らなかった、と言うのは簡単だ。我らとて共に戦った君達を疑いたくはない。知っていることを全て話してもらう。」
そこからは昨日話し合った事を一通り説明したが、正直これで何か分かるとも思えなかった。
「ふうむ、右目が青い……か。」
そこに引っ掛かったのかテッド大隊長は考え込むように目を瞑る。
しばらく待つと、顔を上げ何やら難しそうな顔をしている。
「アレン、この部屋は防音か?」
「ん?ああ、そうだが。」
「ならいい。いいか、ここで聞く話は全て他言無用だ。もしも外部に漏れれば殺される可能性が高い。その覚悟がなければすぐこの部屋から出たまえ。」
何を話すつもりなのか分からないが、確実に厄介事であることは間違いない。
周りを見ると全員が何とも言えない顔をしている。
正直なところすぐに部屋を出たいが、レイン達の話であるなら聞かない訳にもいかないだろう。
皆そんな事を考えていそうな顔をしている。
「ライル、どうするの?」
「僕は……残って話を聞くよ。」
「そう、なら私も残るわ。」
アスカはそう言い、テッド大隊長の方を向き直す。
「はー俺は出ていきたいけどお前が残るならしゃあねぇ、聞くしかねえな。」
「ふむ、なら私たちも残ろう。」
「いいのか?僕はただレイン達の事が知りたいだけだ。」
「リコ達にとってもレインとルナは仲間だよ、だから聞く義務がある、と思う。」
リッツやアリア達も残る決心がついたようだ。
「うむ、全員が聞くという事で構わないな?では話そう。私が知っている限りの話ではあるがな。」
テッドは全員が聞くということで話し始めた。
「右目だけが青くなる……それはシュラーヴリ帝国皇族の血筋の者にしか現れない身体的特徴である。」
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