表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/115

新たな人生⑪

「討伐隊の後方から機工隊は援護射撃を行え!隊列は崩すな!」

「殲滅隊は出来るだけ温存させろ!特殊個体が近付いたら張り付いてもらう!」

「機工隊!援護が足りてないぞ!」

各所から様々な指示が飛ぶ。

僕らは基地内に留まり、特殊個体が近付いてくるまで待機だ。


「デカいのが来たぞ!討伐隊は補佐に回れ!」

「さあ、来たね。頼むよライルきゅん。アタシらが援護する!」

「はい!行きます!ジェットスラスタ起動!!!」

高速機動から空中機動へと移り、対象へと接近する。

僕の周りには第一班が飛び回っている。

それにしても、デカい。

10メートル級の侵略者なんて初めて聞いたが、ここまでデカいとサウズの剣なんて大したダメージにならなそうに思える。


「ちっ、なんだこのデカさは。まあいい、予定通り俺が最初に切り込む。ロウは全弾放射の用意をしておけ。ザラ、BB、奴の気を引け。ライル、アスカお前らは遊撃だ。行くぞ!」

「「「了解!」」」


自らの周りを飛び回る僕らに嫌気がさしたのか、手を振り回す。

当たれば致命傷だが、図体がデカいせいか動きは鈍い。


上空から弾丸のような速度で飛来したアレン隊長の刃が身体を切り裂く。

血は出ているがあまり効いていないのか怯んだ様子はない。

「くそ!身体がデカすぎて奥まで刃が届かねぇ!ロウ!やれ!」

「全員離れてろよ!耳を塞げぇ!全弾放射ぁ!!!」

合図と共に全員対象から離れた所にロウさんの切り札とも言える全弾放射が撃ち込まれる。

腕、掌、膝、脛、全ての部位が銃口もしくは砲口に変形し、内蔵されている全ての弾薬が消費されていく。

時間にして10秒は撃ち続けていただろうか。


火薬の臭いが辺りに充満する。

戦争の香りと言うべきか。


「やったか!?」

爆薬が炸裂した後の煙が晴れるとそこには多少傷を負った特殊個体が立ち竦んでいた。


「駄目だ!これで倒せねぇなら打つ手はねぇぞ!隊長!撤退しましょう!」

「まだだ!ゼノン!あれをやるぞ!」

「えー、あれ結構身体に負担かかるんだけどなぁ。」

「黙れ!さっさと位置に着け!」


ロウさんの圧倒的火力で倒せないとなると、剣で攻撃など言っていられないがアレン隊長とゼノン副長には何か手があるようだ。


「アレン隊長らに手を出させるな!アタシ達が気を引くよ!」

「おい!デカブツこっちだ!」

みなは何か知っているようで、各々が考えて動く。

僕とアスカは何か分からず、とりあえず距離を取ることにした。


遥か上空、見えるか見えないかの距離でアレン隊長とゼノン副長は待機した。

すると、僕の無線機に声が入ってきた。

「ライル、お前とアスカで目を潰せ。潰したら俺とゼノンが確実に殺す。」

「分かりました、やります。」

目を潰したら、恐らく高高度からの斬撃で首を落とすつもりだろう。


「アスカ!目を狙う!同時にやろう!」

「ええ、任せて。」

アスカとならやれる。

数年を共にした仲だ。

お互いに相手の動きに合わせて動くことが出来る。


特殊個体から距離20メートル。

左右に位置取り、目線を合わせタイミングを測る。

共同での合せ技は初めてだ。

上手く行く保証なんてないけど、ここでのミスは許されない。

ザラさん達の動きを目で追う。


額を伝う汗が一滴落ちた。

ザラさん達が特殊個体から身を引いた。

今だ!


2人のジェットスラスタが音を上げ、ガスの噴射音が重なる。速度は同じ。


「ここだぁぁぁ!」

鈍く少し柔らかい物体に剣が刺さる感触が手を伝う。

やった!

アスカに目をやると、アスカもまたこちらに目を向け微笑む。

成功した。


血飛沫が上がり、両目は潰れた。

すぐに特殊個体から距離を取り、最後の仕上げを待つ。


すると、ガスの噴射音と共に2つの矢が遥か上空から飛来してきた。

アレン隊長とゼノン副長だ。

地面に激突などしようものなら、身体はバラバラに弾け即死するであろう速度を維持しながら特殊個体に接近する。


「「我ら、狩り喰らう者!!!」」

2人の掛け声が重なり聞こえてくると共に刃が奴の首に沈んでいった。

地面スレスレで左右に飛び、激突を躱した2人を見てホッとする。

自殺まがいの攻撃は見ていられないほどヒヤヒヤした。


「浅いか。」

「んーあれは無理じゃないですかね?」

奴の首元に目をやると、確かに切創が見えた。

だが、首が太すぎたのか切り落とすには至らなかった。


「もう一度やるぞ。」

「そうですねぇ、あと一度で切り落とせそうですし。」

そう言いながら2人はまた上空へと飛び上がろうとした時、特殊個体の身体が震えだした。

何事かと、みな一様に動きを止める。


GYAAAAAAAAAAAA!!!!


すると耳を劈く咆哮が辺りを埋め尽くした。

特殊個体が大口を開けて、叫んだのだ。

咆哮が止まると一時の静寂が訪れた。


「断末魔ってやつか?うるせぇやつだな。」

「とりあえずもう一度やりましょうかね。」


すぐに正気を取り戻したアレン隊長とゼノン副長は再度攻撃に移ろうとしたが、ある一声で動きを止めた。


「緊急!侵略者共の後方から、再度数百体と思われる大群がこちらに向かって来ています!!!」

「何?そうか、貴様仲間を呼んだな?」


先の咆哮は断末魔ではなく、仲間を呼ぶ為の咆哮であったようだ。


「数が多すぎます!討伐隊が食い止めますがあまり長くはもたないかと……。」

「何分だ。」

「ええと、そうですね……15分……いえ20分もたせます!」

「それだけあれば十分だ。ゼノン!こいつだけは今ここで殺さなければならない!やるぞ!」

「まあこいつを生かしてたら危ないですもんね、やりますか。」

再度攻撃体勢に移るが、目を潰され怒り狂った特殊個体は暴れ回っていた。


「魔導隊を呼べ。あいつらに仕事をさせてやる。」

魔導隊?確か作戦に参加はしてると聞いてはいたが、どういう部隊か全然分からない。


しばらく特殊個体の気を引いていると紫色の軍服を着た部隊が地上に見えた。

「来たか、あれが魔導隊だ。覚えておけ新入りども。発展しすぎた技術は魔法と区別が付かないとか言って部隊の名を魔導隊なんて名前にした変態どもだ。」

「変態なんですか?」

「奴らの持つ装備がな。」


何のことか良くわからないが、近づいて来たメガネの男を見るとなんとなく想像ができた。

あれは、睡眠時間より新技術を発見する為に使う時間のほうが何倍も有意義とか言いそうな顔だ。


「どーもお久しぶりですねアレン殿。」

「挨拶はいい、さっさとあれの動きを封じろ。」

「お?そちらは新しく入った兵士の方ですね?見た覚えがありませんので。」

「あ、はい。ライル・カーバイツです。」

「おっと失敬。先に名前を名乗るのがマナーでした。ワタクシ魔導隊隊長のリー・オウレンと申します。」


ぱっと身は身なりの整った長身で博識な方に見える。

が、目の下にある隈が研究第一ですって言っているのを物語っている。


「ちょっと!!隊長!!気を引くのも大変なんですから早く魔導隊に指示をしてください!」

「ああ、すまんザラ。リー、あれの動きを封じてくれれば俺が始末する。」

「ふぅむ、なかなか大きい特殊個体ですねぇ。ですが我が部隊の前では赤子も同然!!!!見せてごらんにいれましょう!あれの用意を!!」

そうして運ばれてきたのは、人間1人と同じサイズの機械だった。

「これは重力加速装置です。簡単に説明致しますと、重力を加速的に増加させる事が可能になるのですよ。もちろん指定した対象のみですがね。特殊個体の重力を数倍にしてあげると身体が重くて動けない、となるわけです。素晴らしいでしょう!?これが私の開発した新兵器!!!!どうです?ライル殿、素晴らしいと思いませんか!?」

「あ、はい。凄いです。」


ぐいぐい来るこの人につい気圧されて、ふわっとした感想しか出なかったがよく考えてみると本当に凄い兵器だ。

あの黒狼のゼクトでさえも動きを鈍らせることができそうだ。


「ただしまだ試作段階ですので動きが封じれるのは約10秒。アレン殿、その間に倒せなければ打つ手はありませんよ。」

「問題ない。さっさとやれ。」

「聞いたね諸君!重力加速装置、起動!」


回転式ドラム洗濯機のような部分が凄い速度で回り始めると、奴に向いている銃口らしき所が濃い紫色に光りだす。

「発射!!!!!」


掛け声と共に紫色の光線は特殊個体へと伸びる。

そのうち特殊個体の下半身は紫色の光に包まれ、動きが止まった。


「やるぞ!!!!!ゼノン!!!」

「こっちは準備万端ですよ!」

「「我ら!狩り喰らう者!!」」


再度、上空から飛来する必殺の一撃が、特殊個体の首を切り落とした。

地面に落ちた際の衝撃音は重量物のそれであり首の重さを物語っていた。


「やった!!!やったぞ!!殲滅隊が特殊個体を殺した!!」

「流石殲滅隊だな!」

「これが人類の力よ!思い知ったか侵略者共!!!」

皆思い思いの言葉を吐く。


特殊個体が殺られたからか、迫ってきていた多数の侵略者は途中で止まりそのまま引き返していった。


この日人類は初めて、領土拡張を果たすことができた。

死者はリオン副班長を含めて、45人。

決して少なくない犠牲は出したが、人類史上初の偉業と捉えれば納得がいくであろう。


僕らは初めて侵略者に反撃の一手を加えることが出来たのだった。

ブックマーク、評価お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ