新たな人生⑨
「散開!」
アレン隊長の声を皮切りに殲滅隊全員が空へと飛び出した。
遅れた者はいなかったようだ。
足元には砲台より放たれた青い砲弾によって、原形の留めていない車軸が転がっていた。
少しでも遅れていれば、あの凄まじい威力の餌食となっていただろう。
「なんだよあの威力!!」
バカげた威力の砲台に度肝を抜かす。
「想定以上の戦力があの基地にはあるようだな。後続の機工隊に連絡しろ。固定砲台らしき物を確認したと。」
「了解です!」
隊のみんなは冷静に対処していた。
狼狽えているのは僕だけのようだ。
「ライル、俺達も知っていた訳じゃない。ただ何パターンもの可能性を考えて行動しているだけだ。」
「ロウさん……分かりました。大丈夫です少しびっくりしただけですから。」
「それならよかった。とりあえず空を飛びながら近づけばまず当たらないだろう。」
運がいいと言うべきか、強力な砲台は見える限り5基。
機工隊が持つ、炸裂式火砲があれば破壊できそうだ。
しかし機工隊が到着するまで敵は待ってくれない。
5基の砲台から放たれる死線を躱しながら接近する必要がある。
「一発撃てば次を撃つのに時間がかかるようだな、一気に行くぞ!ガスを出し惜しみするな!」
ジェットスラスタから聞こえる噴射音が至る所から聞こえる。
誰も尻込みしていないようだ。
「距離およそ500メートル!」
リオン副班長は、距離を測定できる望遠鏡のようなものを覗き込んでいた。
だからこそ、反応が遅れたのだろう。
パァン!!!
破裂したような乾いた銃声と共に落下していくリオン副班長。
何が起きたか分からず落ちていくリオン副班長を見つめていると、アレン隊長の怒声が聞こえてきた。
「ライル!ぼさっとするな!狙撃だ!!!!全員岩陰に身を隠せ!!!」
全員が地上へと移動し近くの岩陰に身を隠す。
班ごとに隠れられたのは不幸中の幸いだろう。
「ゼノン聞こえるか、リオンがやられた。銃声のような音が聞こえたからな、多分狙撃された。」
アレン隊長は耳に取り付けられている無線機でゼノン率いる第二班に連絡をとっているようだ。
「ざ、ザラさん、リオン副班長が……。」
「あれは多分即死だろうね。くそっ侵略者も厄介な武器を持ち出してくるじゃないか。」
いきなり目の前で知っている人が落ちたのだ。
動揺するなというほうが難しい。
「リ、リオンさんがあんな呆気なく……。」
「ライル、人は簡単に死ぬ。さっきのリオンみたいにな。お前もああなりたくないのなら冷静に対処しろ。」
仲間が死んだというのにみんなドライすぎる。
人の心があんたらにはないのか、と叫びかけたがロウさんやザラさんの顔を見て辞めた。
みんな口では冷静に言葉を放つが、顔はとても見てられない程悲痛な表情をしていたからだ。
あれだけ強かったリオン副班長ですらたった一発の弾丸で死ぬ。
そう思うとここにいるみんなも次の瞬間には死ぬかもしれないと、恐怖がせりあがってきた。
「ライル、貴方はできるだけ私から離れないで。」
「な!アスカ、僕は背中で守られてろってことか!?」
「今の貴方は冷静な判断が下せない。作戦に支障を来たす。」
アスカにそう言われるが何も言い返せない。
「このままここで機工隊の到着を待つしかないか、おいBB機工隊に連絡しろ。」
「了解です!」
「だが、狙撃できる者は1体だけの可能性があるな。もし複数の狙撃可能な銃があるのであれば、リオン以外にも撃たれたはずだ。恐らくリオンが狙われたのは計測器を覗いていたからだろう。遠目から見れば何かの銃口を向けているように見えたのかもしれん。」
確かに言われてみればそうだ。
もし複数所持しているのであれば、さっき空にいた際もっとやられてても可笑しくはなかった。
「アレン隊長!えー、ビリー隊長から伝言です。」
「なんだ、言え。」
「その、必ずその砲台を無傷で奪取しろお前ならできる、だそうです。」
「ちっ、あのくそ野郎。舐めた事いいやがって。おい、やるぞロウ。」
急にロウさんに話を振り、2人でなにやら話し合いだした。
「隊長、何をするつもりですか?」
「見りゃわかるだろ、俺とロウで突破口を開く。砲撃が止んだタイミングでお前らも来い。」
「なっ!無茶ですよ!相手には狙撃手がいるんですよ!」
「いくら狙撃がうまかろーが照準を合わせられなければ何の意味もない。俺1人でやっても構わないがロウなら頭か心臓をぶち抜かれない限り死なんからな。」
「そういう事だライル。先輩の動きをよく見ておけよ。」
アレン隊長は今から、ロウさんと共に飛び出し砲撃と狙撃が飛び交う中懐に潜り込み、砲撃手と狙撃手を真っ先に殺るというのだ。
そんな芸当恐ろしくて出来ない、と誰もが思うはずなのに他のみんなはその後の動きを相談している。
誰も失敗するとは思っていないのか。
「ライルきゅん、ロウは殲滅隊でも3番手よ?本来なら隊長とゼノン副長でやるんだけど、流石に2人の指揮官を危険に晒すわけにもいかないしね。この中なら一番最適なのがロウしかいないの。」
「怖くないんですか……僕だったらいつ撃たれるか分からない恐怖で動けなくなりそうです。」
「安心しろライル。俺だって怖いものは怖い。人間なんだからな、かろうじて。」
「だったら!」
「怖いから行きませんってか?そんなんじゃ殲滅隊は名乗れねぇぞ。ま、俺には失うものなんてはなからねぇからな、そういう意味でも適任ってやつだ。お前もいつかは辛い選択を迫られる時が来る。そん時に今と同じように迷いがあるなら兵士なんてやめちまえ。」
「わ、分かりました。すみません。」
ロウさんだって、帰りを待つ人がいるはず。
いくら孤児とはいえ、仲の良かった人だっていると思う。
そんな人たちが待っているのに。
僕にはまだまだ殲滅隊を名乗るには無相応だったのかもしれないと、思わされる機会となってしまった。
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