新たな人生④
「ガハッ」
何が起きた。
今僕は空を見上げて大の字に寝転がっている。
四連の剣閃は確実にザラさんを捉え切り刻まんとするその瞬間まで目を離さなかった。
息が出来ない。地面に叩きつけられたせいだ。
「その技、ライルきゅんの必殺技?駄目だよ〜正面ガラ空きじゃ〜ん!」
「う……」
そんな訳あるか。
ジェットスラスタまで使った高速機動だ。
僕に合わせて接近し懐に潜り込み顔面に蹴りを入れれるのは貴方だけだ、と声を大にして言いたいが息を吸うのが精一杯だ。
「さあ!起きて起きて!まだまだ戦いは終わらないよ〜?」
なんとか呼吸を整え立ち上がる。
しかし、ここまでやられたのにあのアスカが何も反応を示さないとはどういう事だろうか。
前にビリー隊長がナイフを投げ付けて来た時は烈火の如く怒っていたが、今は無表情だ。
もしかして、ここで暴れれば周りは精鋭ばかり。
すぐに取り押さえられるのが目に見えているからだろうか。
「行きます!」
「いつでもど〜ぞ!」
その後何度も蹴られては立ち上がり蹴られては立ち上がり……。
足がふらつく状態になった時にリオン副班長に止められた。
「そこまでだザラ、それ以上新兵をいたぶるのは辞めにしないか。」
「え〜まだこれからだってのに〜。ざ〜んねん!ライルきゅんまたねぇ。」
結局1度もザラさんに勝てなかった。
勝てないどころか、ただ一方的に蹴り続けられただけだった。
「次を選べ。」
「はい、じゃあアスカ、頼む。」
「ええ、多分そろそろかと思っていたわ。」
アスカなら毎日訓練したお陰でどんな戦い方か良く分かっている。
それに今は前の僕とは違う。
もしかすると、サウズを着けた僕なら天才のアスカに勝てるかもしれない。
そんな少しの希望を胸にアスカを選んだ。
「貴方は弱い。」
「い、いきなりだなアスカ。」
「本当の事よ。反応速度だけは確かに人より勝っている。でもそれだけ。」
「ぐっ、そうだけども……。」
「強くなって貰わなければならない。貴方は死ねない理由が2つある。1つはもう既に貴方の身体は貴方だけのものではなくなった。」
「どういう、意味だ?」
「適合率100%という人類史上初めての偉業。その力を突き詰めれば必ず人類反撃の一手となるわ。だから死ぬわけにはいかない。」
確かに今の僕では話にならないが、極めればあのゼクトとも対等に戦えそうな気はする。
「もう1つは?」
「私の為。」
「わたしのため?」
「そう。私の為。貴方が倒れた時私はもうこの世の終わりだと思ったわ。でもなんとか生き永らえた。貴方と共に生きたいから、だから死んでもらっては困るの。」
無茶苦茶な理由だ。
でも、そう言われて嬉しく無いわけではない。
「だから貴方には死ぬほど努力してもらう。私にすら勝てないようならあの黒き災害には勝てないでしょうから。」
前言撤回。
やっぱり嬉しくなかった。
ボコボコにされる未来しか見えない。
「ま、負けてばかりいられるかぁ!やってやる!!サウズ!ドライブ!!!」
「威勢だけでは勝てないわ。」
日も傾き、訓練場には僕とアスカだけが残り他の者はみな、兵舎へと戻って行った。
結局アスカにボコボコにされ、その後全員と模擬戦をやらされまたボコボコにされた。
もう立つ気力もなく訓練場で大の字になって寝転がっている。
アスカは僕の横で座っていた。
「酷いもんだよ……アレン隊長除いて全員とやらされるなんて、こっちの身にもなってほしいもんだ。」
「でも、そのお陰でみんなと多少は気が許せる程度の仲間意識は芽生えたでしょ?」
「まあ確かにそうだけども……。」
「それに貴方の弱さがこれで良くわかったわ。少なくとも私には勝てるようにしなさい。でなければ次ゼクトと出会った時、確実に命を落とすことになるわ。」
「なんとか頑張ってみるよ。励ますために一緒に残っててくれたんだろ?」
「まあ、そうとも言うわね。」
煮え切らない返事だな。
それも少し顔が赤い。
「どうした、なんかいつもの調子じゃないな。」
「うるさいわね、さっさと起き上がって夕食の時間に間に合うようにしなさい。先に行ってるわ。」
「ええ!?待っててくれたんじゃなかったのか!?」
返事はなく、さっさと兵舎へと戻ってしまった。
僕はまだ足にきてるようで、立ち上がれない。
もうしばらくこのまま休んでいよう。
空を見上げてぼーっとしていると、足音が近付いて来た。
アスカが戻ってきたのかと、そちらに顔を向けるとゼノン副長だった。
「あ、副長。こんな体勢ですみません。」
「ああ気にしないでいいよ。ちょっと話がしたくてね。」
ちょっと話とはなんだろうか?
「ほら僕とライル君は4つのサウズを着けた同士だろ?だから何かアドバイスでも出来るかなと思ってね。」
「お気遣いありがとうございます。じゃあ聞きたかったことがあるんですけど、ゼノン副長の得意とする技とかって何かありますか?」
「あー必殺技ってやつかな?あるよもちろん。四重奏桜花。まあ何となく付けた名前だからあんまり意味はないけどね。」
四重奏桜花、どんな技だろうか。
「まあ名前聞いてもわからないよねぇ、まず前提に僕達は4つの剣を形成できる。それは理解してると思うけど。同じ箇所に4つの斬撃を同時に、というか同時に見えるほど寸分のズレなく叩き込む。その時音が4つに重なってるように聞こえて、最後は桜の花びらが舞い散るように敵の血しぶきが舞う。だから四重奏桜花。これならどれだけ硬い皮膚で覆われてても確実に傷つけられるからね。」
「同じ箇所に同時攻撃ですか……。」
言うのは簡単だ。
しかし実際にやろうと思ってもできないだろう。
両手両足全ての剣を同じ箇所に数コンマのズレのみで叩き込むなど不可能だ。
それこそ、何千何万と同じ動作を繰り返し、極めなければ無理だろう。
「じゃあ、何度も練習して会得したんですか?」
「まあそうだねぇ、1度四肢を失ってもう二度と同じようには戦えないと思ってたんだけどね、アレン隊長に言われたんだよ。お前はそこで終わるつもりか、ってね。だから意地でも戦力になってやろうと思ってこれをモノにしたんだ。」
「凄い……ですね。たったそれだけで血の滲むような努力が出来るなんて……。」
「うーん、ライル君も出来るよ。ほら、なんだっけ、今日見せてくれた四連の剣閃だっけ?あれも今日思い付いたばかりの技だろう?それを何度も何度も練習するんだ。そうすりゃ誰も避けられない必殺の一撃になるよ。僕が保証する。」
「僕が……出来るでしょうか。」
「出来る出来ないじゃないんだ、やるしかないんだよ、生きていくために。さ、そろそろオジサンの楽しくない話も終わりにしよう、夕食の時間だ、一緒に戻ろうか。」
ゼノン副長は決して言葉が上手いわけじゃない。
でも、僕を励ましてくれたのは分かった。
ゼノンさんなりの励まし方だったんだろう。
とても救われた気がした。
ゼノン副長は飄々としていて、頼りのない印象ばかりが目立っていた。
そんな部分しか見ていない者から嫌われているようで、あまりゼノン副長に近づく人は居なかった。
でも、今日話しをして見てわかった。
ゼノンさんみたいに僕もなりたい。
そう思えるような人だった。
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