新たな人生③
「うちの殲滅隊ってさ〜、討伐隊とかと違って班で別れてんのよ。だから一班二班ってね。」
聞こうとしたが先に言われてしまった。
「ちなみに!第一班はアレン隊長が班長だからね!より優秀な者の集まりってわけよ!」
「それは違うぞザラ。アレン隊長が出来るだけ戦力分散させるように班分けしているはずだ。」
また別の女性がやって来た。
ザラさんと一緒で目付きは鋭く少し男っぽい喋り方をするが、見た目は美女。
ギャップが凄い。
「先に自己紹介するのが遅れた。我はリオン・ニーズヘッグ。第一班の副班長だ。」
我!?
一人称が我!?
そんな人初めてみたぞ。
もう一度言うがギャップが凄い。
その後みな一様に自己紹介をしてくれたが、全員の顔と名前は流石に1度では覚えられなかった。
ただザラさんとリオン副班長だけは覚えれた。
「全員いるな。」
「はっ!!」
アレン隊長が声を掛けると、全員姿勢を正して気を付けの姿勢をとる。
隊の規律などは一番厳しそうだ。
「楽にしろ。ライル、ここにいる奴らがお前と共に戦う仲間だ。今この班に2人の新兵が揃った。これより本訓練を開始する。リオン、準備をしておけ。」
「了解!」
アスカも少し早く入隊したからか、みんなと共に準備し始める。
「ライル、我々殲滅隊は個々の戦闘能力が高い。それこそ討伐隊の小隊長か副長クラスばかりが集まっているようなもんだ。だからお前の戦闘能力をこれから確かめる。4つもサウズを着けているお前に手加減するつもりはない。死ぬ気で戦え。」
いきなりの模擬戦になるらしい。
サウズを使った戦闘はこれが初めてになる。上手く扱えるといいが……
訓練場にいるみなは端に寄って観戦の態勢に入った。
どうやら僕の模擬戦は全員が観るらしい。
「4つのサウズを着けたゼノンは過去に10人勝ち抜き戦をやったことがある。お前には手心を加えて3人で許してやる。3人勝ち抜くまで
終わらないと思え。」
「隊長もなかなか厳しいねぇ、僕は既にあの時にはそれなりの経験を積んでたからできた話であって、彼はまだ初戦だよ。3人は厳しいんじゃないかなぁ。」
タバコからいつの間にか戻ってきたゼノンさんがアレン隊長に掛け合ってくれている。
「ちっ、こいつはもう既に殲滅隊の一員だ。お前と同じ4つのサウズを着けているならそれなりの戦力ならないと役に立たん。それにこいつは適合率100%だ。お前より強いはずだろが。」
「適合率100%かぁ、うーん確かにそれなら僕より強いね、ライル君頑張ってくれ。」
駄目だった。
こうして僕は訓練場の真ん中に立たされ、これから3人勝ち抜くまで終われない地獄の模擬戦が始まった。
多分先輩方も4つサウズを着け尚且つ適合率100%の規格外だとしても、新人に負けたくなくて全力で戦ってくるだろう。
「よし、じゃあ選べ。誰とやる。」
「えっと……正直まだ全然誰が誰か覚えていなくて……じゃあザラさんお願いします。」
「おっけ~最初に声掛けたのもアタシだし、ライルきゅんからのご指名も最初ってわけね!」
ライルきゅん?なんだその敬称は。
気にしたら負けか。
「まあそうですね、一番話しかけやすい雰囲気だったので。」
「よ~し!じゃあやろっか!」
ザラさんも殲滅隊にいる以上、かなりの戦闘能力があるはず。
とても話しかけやすい雰囲気を纏っているが戦闘になったら人が変わりそうだ。
「おいおい、いきなりザラかよ……」
「あいつドSだからな……新人泣かされるぞ……。」
「慰めてやらないとね……。」
不穏だ。
他の隊員が喋っている会話が聞こえてしまった。
チェンジしたいが既にザラさんは兵装を取り付け、いつでもかかってこいと言わんばかりにこっちを見ている。
「あ、そうそう、いいこと教えてあげるよライルきゅん。この殲滅隊はね8割サウズ持ちだから。もちろんアタシもね~。」
そう言って軍服の裾を捲って見せてくれた。
ザラさんは両足がサウズだった。
いつかの戦闘で両足を失うような戦いがあったのだろう。
「残念ながら適合率は60%なんだよねー。色付きまであとちょっとだったのに!」
色付きであることは、やはり憧れのようだ。
「じゃあやろっか。本気で来なよ〜?じゃないと大怪我しちゃうよ〜。」
「サウズドライブ!」
僕だって四肢を切り飛ばされる地獄を見た1人だ。
覚悟はとうに決まっている。
「行きます!!」
一気に加速し接近を試みる、つもりが勢い余ってジェットスラスタの噴射を最大にしてしまっていたせいで想定より速くザラさんに近付いてしまった。
でも丁度いい、ザラさんも反応できていない。
構えて左手に形成した剣を横薙ぎに振るう。
あり得ない速度で加速したライルに誰もが、新人が勢い余ってガスを噴射した、ように思えた。
しかしライルは接近と同時に剣を振るう。
あたかもそれが想定していた動きであったかのように。
ザラも面食らってしまったが、実戦経験豊富である彼女はその程度で動揺はしない。
相手の動きに合わせて蹴りを放つ。
剣の腹に当てた蹴りは、剣先の軌道を逸らしライルの体勢を崩した。
そのまま倒れ込んでくるライルに向かって踵を落とすと背中を強打したライルはそのままジェットスラスタの推進力を抑えられず地面を転がりながら吹っ飛んでいった。
「いやぁ、さっきの速さは驚いたけどまだコントロールがなってないね〜!」
しっかり見て剣を振ったはず。
しかし結果はザラの蹴りでいなされ、更には追撃までもらう始末。
自分のミスとはいえ今までの最高速度が出ていた。
それを躱すだけでなく追撃を入れることができるザラさんの戦闘能力に唖然とした。
ただの一隊員でこれなのか、と。
副班長やアレン隊長なんかとやろうものなら、それこそ瞬殺されそうだ。
「駄目だよ〜ライルきゅん。しっかり相手を見て攻撃しないと今みたいに逆にもらっちゃうよ。」
「はい、すみません。ではこれならどうですか!四連の剣閃!」
サウズは形を好きな形に変えられる。
その特性を活かし、両腕の肘からと両足の膝から細い剣を伸ばし四方から襲い掛かる4本の剣。
ジェットスラスタで高速機動し、四方から襲い来る刃はまるで剣の閃きに見えることだろう。
これぞ四連の剣閃。
今名付けたが、我ながらいい必殺技が出来たと思う。
4つのサウズを着けているからこそできる荒技だ。
「剣が細すぎて簡単に折れちゃうよ〜」
見た目はとても細くレイピア程度の太さしかない剣を見てザラは笑いながら蹴りを入れる。が折れない。
適合率100%、黒色のサウズの硬さは伊達ではなかった。
適合率が高ければサウズ本来の性能を引き出すことができる。
圧倒的な硬さ。
それこそがサウズの持つ最大の性能であった。
「かたっ!折れない!?」
「おしまいです!切り刻む!!」
「きゃああああ!!!」
ザラさんの悲鳴が木霊する。
少し申し訳ない気もしたが、これも戦いだ。
ザラさんも分かってくれるだろう。
「なんちゃってぇ〜?」
顔面にハイキックを食らった僕は、上空へ高く舞い上がり鈍い音を立てて落ちた。
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