新たな人生②
「ただな、お前の住んでいた地域。あそこの住人はほぼ無事だ。」
「どういう事ですか?あそこは壁に近くて被害は確実に出るはずです。」
「私もそう思った。住民から聞いた話では侵略者はその地域にも来たらしいが、何者かが戦い侵略者を圧倒し暴れる前に殺した、とのことだ。」
「その何者かって、何処かの隊の人が偶然そこに駆け付けた、とかではないんですか?」
「たった1人で戦ったらしい。腕にサウズを着けた者だそうだ。しかしサウズを着けているからといってたった1人で侵略者と戦い無傷で勝利するなどあり得ん。隊長級であれば可能だろうがあの時あの場にそれほどの腕利きが向かったという記録は残っていない。」
「じゃあ……誰が。」
「分からん。あの地域に住んでいた者で尚且つサウズを着けているなど……。聞いたことがない。」
結局誰かは分からないが、何者かの活躍により僕やリッツ達が住んでいた地域の人達はみんな無事だということだ。
僕が寝ている間に、訓練兵隊はみな所属する隊に異動したらしい。
退院すれば、殲滅隊の兵舎へ行けと告げられ教官は出て行った。
「私達もこれから任務があるから、もっと一緒にいたかったのだけれどもう行くわね。」
「では、ライル。次会うのは殲滅隊で。」
みな、別れを告げ部屋を出ていった。
1人になると寂しさが込み上げてくると同時にグラストン夫妻の戦死が脳裏をよぎり悲しさも込み上げてきた。
僕は望まずとも2度目の両親を失う機会を得ることとなってしまった。
3日程で退院し、兵舎へと向かう。
サウズ適合率100%と言われてはいたが、あまり言い触らされてはいないのか変に目立つことはなかった。
いずれバレるだろうが、今は余計な騒ぎを起こしたくないのが軍部の意向だろう。
殲滅隊の兵舎には既にアリア、レイス、アスカ、オルザがいるはずだ。
1人きりではないだけでとても心強い。
「失礼します!」
部屋に入るとただ1人だけが椅子に座って待っていた。
目に入ったのは赤い髪に長身。
思い付くのは1人しかいない。
「アレン・シスクード隊長、ライル・カーバイツ、本日より殲滅隊に入隊となりました。」
「聞いている。だからこうして待っていてやったんだ感謝しろ。」
「ありがとうございます!」
ぶっきらぼうな喋り方だが、怒っているのか?
「早速だがライル・カーバイツ。お前のサウズを起動しろ。」
「え、はい、サウズドライブ。」
隊長に促されるまま起動する。
「黒色……。それが適合率100%のサウズか。」
「そう、らしいです。」
「なんだ?えらく煮え切らない返事だな。」
「いえ、その僕も目が覚めてから聞いた話なのでまだ実感がないといいますか……。」
「そうか、お前あの黒き災害と戦って四肢を切り飛ばされたんだったな。」
「はい、そうです。ついこないだまで意識がなかったので。」
「ゼノンからも聞いてはいるが、その黒き災害と戦った時の事をお前の口から詳しく聞かせろ。」
どうやらアレン隊長は黒き災害の事が聞きたかったようだ。
「黒き災害……それって黒狼のゼクトの事ですか?」
「黒狼のゼクト?何だその名前は?」
「アスカから聞いた話ですけど……」
アスカから聞いたレオン・ラインハルトが残した遺言を説明した。
「あの英雄がそんな事を……それでそのゼクトとやらはどんな戦い方をしていた。」
「どんな……そうですね、動きがかなり機敏です。目で追うのがやっとでした。それと巨大な爪です。どんな物よりも硬く全てを切り裂く鋭利な刃、とでも思ったほうがいいと思います。」
「切られたお前が言うんだ、実際にそうなのだろうな。」
「はい、サウズは奴の硬い皮膚を貫通出来ませんでした。なので僕は目を狙い片目を潰しました。」
戦って分かったが、石で覆われているのかと思うほどゼクトの皮膚は硬かった。
確実に柔らかいであろう目を狙ったのは正解だっただろう。
「第一小隊から聞いた話だと、全身の毛を硬質化させハリネズミのように棘を出したらしいが、お前の時はどうだった?」
「針?いえそんな攻撃は1度もありませんでした。」
アレン隊長はなにか考え込むように手を口に当て俯く。
「となると、その針攻撃は時間をおかなければ使えないのか?それともただ使う必要がなかった?いや違う、周りに複数人いたはずだ、そうなると使ったほうが早いはず……」
なにやらブツブツ言い出したが、とりあえず思考が終わるまで黙っていた方が良さそうだ。
数分長考した後、急に顔を上げる。
「まあいい、それで以上か?」
「はい、その後は僕は意識をなくしたので覚えていません。あ、でもジェットスラスタに少し興味を持っていたように思えます。」
「興味?化け物が人間の兵装に興味だと?」
「僕も頭に血が昇っていて会話も程々に戦闘へ移ったので、何故かは分かりませんが仕組みを知ろうとしてきました。」
「ちっ、役立たずが。」
あの時もう少ししっかりゼクトと会話していれば、もっとわかることがあったはず。
感情に左右されるなと教官から言われていたのに、感情的に行動した自分が恥ずかしくなる。
「まあいい、表へ出ろ。お前を殲滅隊に紹介しなければならない。」
「はい、お願いします。」
アレン隊長に着いていき、殲滅隊の訓練場へと足を運んだ。
「隊長が来たぞ!整列!!」
「了解!」
ずらっと並ぶ30名の殲滅隊員。
普通の小隊が10名前後であることを考えると、ざっと三小隊が集まったくらいの人数だ。
「ゼノンはどうした?」
「はっ!ゼノン副長はタバコ吸ってくるといい、先程出ていかれました!」
「ちっ、まあいい、全員聞け。こいつがあの黒き災害と戦い四肢を切り飛ばされても奇跡的に助かったサウズ適合率100%の新兵だ。」
「おお、あいつがゼノン副長が言ってた……」
「なんか細いし頼りがいがなさそうね。」
「殲滅隊も一気に強くなるな!」
僕を見た感想は様々だった。
数人は良い意味で感想を言ってくれたが大抵の者は頼りなさそうといった内容ばかりだった。
しかし見知った顔もある。
アスカ、アリア、レイス、オルザだ。
オルザなんて小さく手を振ってくれている。
そのお陰が少し気が楽になった。
「今日から殲滅隊に配属となりました、ライル・カーバイツです!よろしくお願いします!」
「お前は殲滅隊第一班に入れる。第一班だけ残れ、後は自分の訓練に戻れ。」
「了解!!」
第一班というのが良く分からず、キョロキョロしていると見知った顔が近付いて来た。
「ライル、貴方は私と同じ班よ。」
「アスカ!そうなのか、良かったよ知らない人ばかりじゃしんどいなと思ってたんだ。」
「前にも行った通り、貴方と私はずっと一緒よ。」
「あ、ああ、そうか。」
以前よりアスカの積極性が増した気がする。
「へ〜あんたたち恋人同士かな?」
「え!?」
驚き振り向くと短髪で目付きの鋭い女性が立っていた。
「そうです。」
「いや違うだろ!」
アスカは息を吐くように嘘を付いたがすぐに修正しておいた。
「アハッ、いや〜なんかいいねぇ、仲良さそうでさ!アタシは同じ班のザラ・ホーネット、よろしくね!」
目付きは鋭いがとても明るい女性のようだった。
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