新たな人生
僕はずっと外に出ることを夢見ていた。
両親が外に行くのを子供の頃から見てきた。
話を聞けば聞くほど外への憧れが強くなっていった。
いつか平和になった世界で家族みんなと旅行をするのが夢だった。
もう今では叶わない夢となってしまったが。
「うっ……」
目を開けると見知らぬ天井。
確か黒狼のゼクトと戦い両腕両足が無くなった所までは覚えている。
その後はアスカ達の声が聞こえた気がしたが、そこからの記憶がない。
ベットから起き上がると医療品が置いてある棚が目に入った。
基地の医務室のような気がする。
ベットから降りようとすると、地面に足が着いた。
何故?
足は切り落とされたはず……。
下を向くと黒色の義足のような物が本来足がある所についていた。
しっかり地面を踏む感触も分かる。
手を伸ばすとそこにも黒色の義手らしき物がついていた。
僕の両腕両足全てがサウズに付け替えられていた。
何が起こったのか理解できず、ただ立ち竦む。
「サウズ……ドライブ。」
すると頭の中で思った形の刃が両腕から出現する。
やはりサウズで間違いないみたいだ。
誰か人は居ないのか、部屋を出て廊下を彷徨う。
すると反対側から歩いてくる白衣の女性と目があった。
その女性は目を見開き、驚いているようだった。
「ライルさん!目が覚めたんですね!!部屋でお待ち下さい!今呼んできます!!」
それだけ言うと走って何処かへと去って行った。
とりあえず言われた通り部屋に戻って待つことにした。
数分が経っただろうか。
外が騒がしくなり、ドアがけたたましく開かれる。
「ライル!!!」
ドアから飛び出してきたのはアスカだった。
ライルに抱き着き勢い余ってベットに二人して倒れ込む。
「ア、アスカ?どうしたんだ?」
「やっと起きたのね!あの時はもう生きた心地がしなかったわ……。」
「えっと、何が起こったのか良くわからないんだけど……。」
後からゾロゾロと人が入ってくる。
アリアにレイス、リッツやリコもいた。
「ライル無事か!」
「ふむ、流石はライルじゃないか、しっかり適合したようだね。」
「こんな人数でどうしたんだ?というよりあの時確かに両腕両足は切り落とされたはず。一体どうなってるんだ?」
「そうねまず何処から話しましょうか。」
あの時、僕が意識を手放してからの話を聞くこととなった。
ライルは四肢を切り落とされ地面に伏していた。
その間代わりに戦っていたのは援軍に駆けつけたゼノン・ティーガーであった。
黒狼のゼクトは強いが、ライルが命懸けで片目を潰したお陰で満足に戦えていなかった。
だからこそゼノンが善戦し、果ては黒狼のゼクト及び侵略者の撤退、という結果に繋がったらしい。
「あの時私達はまだライルの所に駆け付けていなかったわ。もしゼノン副長が居なかったら貴方は殺されていたでしょうね……。」
「後でお礼をしておいた方が良さそうだな。」
そしてアスカやリッツが駆けつけた時にはライルはもう瀕死の状態であった。
出血は酷く四肢は切り飛ばされ無くなっている。
いつ死んでもおかしくはなかった。
しかし、ゼノンも1度四肢を全て失っている。
だからこそ、医務室へ運ぶのではなく機工隊の拠点に行くことを勧めた。
もはや今の状態で治療しても助かる見込みはない、それならば適合しなければ死ぬかもしれない賭けに出てもいいのではないか、もしかすると助かるかもしれない、そうゼノンに説得されたアスカ達はライルを担ぎ急いで機工隊へと向かった。
機工隊の拠点の中には、サウズ開発部門がありゼノンもそこでサウズを取り付けたとのこと。
ライルは到着次第すぐに手術室へ運ばれていった。
その時ゼノンに、サウズが適合しなければそのまま死ぬ、その可能性は高く成功率は3割前後と言われたらしい。
しかし今僕は生きている。
サウズが適合し、なんとか首の皮一枚繋がった命だと理解した。
「でも貴方のサウズは黒色よ。今まで見たこともない色だったの。だから開発部門の責任者は適合率を調べた。」
「なんと驚き、ライル!君のサウズは適合率100%の黒色だったんだよ!」
アリアが興奮し説明を先取りしたせいで、アスカは少し不機嫌な顔を見せる。
「アリアの言う通りよ。貴方はこの世界初、適合率100%のサウズを着けた唯一の人になった。」
「だから違和感を何も感じなかったのか。自分の腕が生えたのか思うくらい何の違和感もないんだ。」
僕四肢は兵器になった。
それも適合率100%という前代未聞の事態。
喜んでいいのか悲しむべきか、何とも言えない気持ちになってしまった。
「あ、それより僕はどれくらい眠ってたんだ?」
「1週間よ。それともう1つ伝えなければならない事があるの……。」
少し悲しそうな顔を見せるアスカをみていい話ではないことは分かった。
「そこからは俺が話してやる。」
「リッツ?あ!そうだ!リッツ達の父さん母さんはどうなった!?」
「それを今から言おうとしてたんだよ……、俺の父さんは死んだ。母さんは生き残ったが腕を失ってサウズを取り付ける手術をした。適合率は2%。手術失敗で死んだよ。」
理解が出来なかった。
ガリアさんは戦死、ミアさんは手術失敗で死亡?
そんな馬鹿な事があってたまるか。
何よりせっかく生き残ったのに、死ぬなんて……
死ぬに死にきれない……
「そんな……」
「母さんは適合率が低ければ死ぬって分かっていたのに、可能性があるなら、って手術を受け入れた。」
ミアさんは討伐隊に必要とされる人物だった。
そんな人を手術失敗で失うなんて、考えてもいなかっただろう。
「こんな死に方ってあるかよ!!何のために戦ってたのか分からねぇじゃねぇか!!!」
膝から崩れ落ち泣き叫ぶリッツに、手術に成功し生き永らえた僕がかける言葉は見つからなかった。
ひとしきり泣いた後は、すっと立ち上がり背中を向けながら手を挙げた。
「じゃあなライル。先に隊に戻る。お互い生き残ろうぜ。」
「あ、ああ、リッツも頑張ってくれ。」
「ライル……お父さんお母さん死んじゃったよ……だからライルは死なないでね……これ以上家族が死んじゃったらもうリコ耐えられないよ……。」
それだけ言うとリコもリッツの後を追い、部屋を出て行った。
リッツ同様、リコにも掛ける言葉は見つからなかった。
家族。
僕にとってもグラストン夫妻は家族であった。
自分達の子供に接するように育ててくれた。
気付くと僕の目から涙が溢れている。
「悪いが泣いている暇はない。」
そんな言葉を投げかけたのは、今しがた部屋に入ってきたガデッサ教官だった。
「第一、第四、第五小隊は壊滅。討伐隊の戦力は一気に下がってしまった。」
「教官……。そんなことになっていたんですね……。壁はどうなったんですか?」
「壁は一部破壊されたが、機工隊により修復された。電磁障壁はまだエネルギーが溜まってないらしくて復旧には時間がかかるそうだ。」
「まだ修復できるレベルの被害で運がよかったというべきなんですかね。」
「さあな。とにかく今回侵略者に初めて街中まで侵入され暴れ回られた結果、多数の死人を出した。すぐに動ける兵士は復旧作業に取り掛かってもらいたい。」
都市防衛隊や外壁防衛隊もかなりの損害を出したようで、本来であれば街の復興は外に出る隊の仕事ではない。
しかし今回ばかりはそんなことも言っていられず、誰もが協力しあい元の状態に戻せるよう尽力しているようだ。
「ただな、お前の住んでいた地域。あそこの住人はほぼ無事だ。」
「どういう事ですか?あそこは壁に近くて被害は確実に出るはずです。」
「私もそう思った。住民から聞いた話では侵略者はその地域にも来たらしいが、何者かが戦い暴れる前に殺した、とのことだ。」
「その何者かって、何処かの隊の人が偶然そこに駆け付けた、とかではないんですか?」
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