訓練兵隊⑨
「第四第五小隊は6体ずつ殺れ!俺達第一小隊は8体だ!気合いれろ!」
サウズを起動し各々が高速機動に移る。
「先陣は俺が切る!後から続け!サウズドライブ!」
「了解!!」
侵略者の姿は二足歩行で体が硬い皮膚で覆われている。
トカゲを進化させて、二足歩行にしたらこんな化け物になるんじゃないかな、といった形だ。
「侵略者共め!!我々人類が無意味に過ごしていると思ったか!!死に絶えろ!!」
加速したまま、ガスを大放出させ侵略者の目をくらませる。
ガリアを見失い目線を彷徨わせる侵略者に向かって、上空から滑空する。
最高速度を保ったまま、一直線に首を切り落とす。
地面に激突する寸前で両足からガスを噴出させ、先ほど首のなくなった侵略者の左後ろに控えていた敵に向かって刃を振るう。
着地したときには2体の侵略者を殺していた。
後に続いた第一小隊が残りの1体を屠り、たった1分の戦いで3体もの討伐に成功していた。
「くそっ、ジェットスラスタ……これが4年前にあればあの時俺も戦えていたのに!」
「ないものねだりよそれは。」
分かっている。
実際この短時間で3体も屠れるようになったのはジェットスラスタ、高速機動及び空中機動が可能になったからだ。
左右に分かれた他の隊も1体ずつ殺したようだ。
20体中の5体が死んだ。
このままいけば、30分とかからずに殲滅できるだろう。
しかしガリアの淡い希望は黒い化け物の登場により掻き消えることとなった。
ソレはいつの間にかガリア達の目の前に現れた。何の前触れもなく。
「おい……こいつ特殊個体じゃないか?」
「くそっ!!なんなんだよこいつ!」
「どっから現れたのよ!!」
第一小隊に動揺が走る。
「隊長!命令を!!こいつは我々でやらなければ!」
「指示を!!いつでも動けます!」
しかしながら第一小隊は一番優秀な者の集まり、というのは伊達ではない。
現れた瞬間は動揺したがすぐに臨戦態勢をとった隊員達はもれなく優秀だろう。
「隊長、信号弾は撃ちました。」
ミアにそう言われ、準備が整ったことを知る。
「みんな、やるぞ!散開!!!方位討伐陣形を取れ!!!!」
方位討伐陣形。
ジェットスラスタが討伐隊に導入され、ミアが考案した陣形だ。
方位、すなわち目標の360度、全方向に隊員を配置する。
地上隊の攻撃が失敗した際、空中機動の利点を生かしミア率いる空中部隊が波状攻撃要員として弧を描く様に飛び回り攻撃。
最後にガリアが上空から一撃を加える。
1体のみ確実に殺すことを想定した陣形だ。
もはや対特殊個体専用の陣形と言ってもいいだろう。
全ての動きが合わさらなければ、隊員同士ぶつかり怪我では済まない。
第一小隊だからこそできる芸当だ。
「貴様に殺された人類は多い!その全ての仇を今ここでぇぇぇぇ!」
高速機動により目標へと接近する地上隊。
身動き一つしない化け物に若干の不安を覚えるが、もう止まることはできない。
一瞬だった。
黒い化け物が一瞬ブレたかと思った次の瞬間高速機動で接近した地上隊の全てが破裂した風船のように、弾けた。
今何をした?遥か上空から、見下ろしていても分からなかった。
しかし前足の大きな爪は血で濡れている。
さっきまではなかったものだ。
あの巨大な爪を振るいながらその場で回転した、としか考えられなかった。
辺りには地上隊と思わしき臓物や四肢の一部が散乱している。
サウズを握る手に力が入る。
4年前に隊員を補充し今まで共に戦ってきた仲間がたった数秒で死んだ。
また俺から全てを奪うのか。
許さない、許される訳がない。
怒りに震えるガリアは特攻を仕掛けるつもりだ。
遥か上空から最高速度で落下し突撃する。
人間1人分の質量がぶつかれば流石に化け物といえども無事では済まないはず。
殺すことは出来なくても傷くらいは負わせられるだろう。
「駄目!!ガリア撤退しよう!!あれには勝てない!強さの次元が違いすぎる!」
落下を開始したガリアはもう止まれない。いや止まるつもりがないのだ。
刺し違えてでも、その気持ちだけが先走っている。
「くっ!ガリア……貴方はそんなにも責任を感じていたのね。ならば!全員死ぬ覚悟があるものだけ続け!奴の気を引く!」
全員がミアに続く。
隊長副長への信頼が厚いことがよくわかる。
「波状攻撃を仕掛けろ!無駄死には許さない!」
空中で孤を描き飛び続けていた者達は一気に化け物へと襲い掛かる。
ガリアの攻撃まで残り3秒。少しでも空中部隊に気をそらせれば、もしかすればガリアの攻撃が致命打となるかもしれない。
そんな希望を胸に皆は刃を突き立てんと化け物に接近する。
「食らえええええ!!」
「我らの刃をその身で受けろぉ!」
そんな気持ちなど、知った事かと化け物は全身から黒い棘を生み出し、その棘は空中にいたほぼ全ての者を貫いた。
ミアは辛うじて躱したようだが、腕を貫かれもう二度と右腕は使い物にならなくなった。
2人ほど奇跡的に躱し、串刺しからは逃れられた。
「終わりだァァ!」
上空から超高速で落ちてきたガリアの叫びが響く。
鉄を鉄で叩く音が聞こえた。
ガリアの刃は硬質化された化け物の皮膚で弾かれ、折れた。
その瞬間悟った、この特殊個体にはどう足掻いても勝てないのだと。
「人間よ、特攻するその勇気、見事なり。」
化け物の身体に衝突する瞬間、そんな言葉がガリアの耳に聞こえた気がした。
空中で棘を躱したミアの耳に、また風船が弾ける音が聞こえた。
「生き残った者達は全速力で撤退しろ!!」
夫を失った悲しみに暮れる暇はない。
撤退を示す信号弾を撃ち、すぐさま地上機動へと移行する。
また第一小隊は奴にやられた。
もう反撃する気力もない。
残ったのは右腕が使い物にならなくなったミアと、出血が酷く逃げる途中で死んでしまうかもしれない者と目の付近に棘が刺さり片目を失った者だけ。
撤退していくミアの目から零れ落ちた涙が、地面を濡らしていた。
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