訓練兵隊⑤
「サウズドライブ!」
掛け声と共にオートマタへと加速し、高速機動へと移る。
ジェイドは前に、オレは器用になんでもこなせる、と自負していた。
頭は悪いが、器用さだけなら訓練兵隊随一かもしれない。
結果的にオートマタ2体を同時に破壊。
空中機動はまだ安定していないようだが、高速機動に関しては十分動けていた。
「おお!お前いいじゃねぇか!機工隊の試験はなしだ!お前明日から機工隊の兵舎に通え。試験は合格だ。」
「ありがとうございます!!!」
文句なしの合格であった。
「おめでとう、ジェイド。」
「やっぱやるときゃやる男だって事だなオレは!」
「馬鹿でも機工隊に入れるなんてな……」
「おいリッツ!!うるさいぞ!」
皆からからかわれているが、顔はずっと笑顔だ。
入りたかった部隊の隊長自ら、合格を貰えるのはとても嬉しいに決まってる。
「よーし、どんどんいこう!次は……お、カーバイツか。期待してるぜぇ?」
変にハードルが上がってしまってるが、大丈夫だろうか……。
装備している間、ビリー隊長はジッと黙って僕を見つめていた。
「なんか……お前を見てると昔に戻ったみたいだ……」
僕に父親を重ねて見ているのだろう。
「準備、出来ました。」
僕以外の訓練兵も全員用意ができたようだ。
「よし!じゃあ早速始めるとしよう!」
「サウズドライブ!」
各々が標的のオートマタに向かって高速機動を開始するが、コントロールが効かない。
上手く切りつけられても浅かったり、明後日の方向に飛んでしまったり。
僕はなんとかオートマタまで近付き切り付ける所まではいったが、破壊には至らなかった。
「よし、全員戻っていいぞ!」
あまり良い所は見せれなかったのが悔しかったが、この程度が普通だろう。
ビリー隊長がガデッサ教官と何やら話している。
今後の訓練内容でも聞いているのだろうか?
戻ろうとした時、殺気を感じ咄嗟に身体を傾かせると耳元で風切り音を捉え、そのままバランスを崩し尻もちを着いてしまった。
何事かと、辺りを見回すとアスカがビリー隊長に掴みかかろうとしてアリアやリッツ達に抑えられていた。
何が起きたのか分からない。
「なぜ今ライルに投げた!」
アスカは抑えつけられながら、般若の形相でビリー隊長を睨みつけている。
「まじかよ……ガデッサ、カーバイツは殲滅隊じゃなくてウチにくれねぇか?」
「私に言うな、アレンにでも言え。どのみち希望する隊に所属させなければ他の兵士から反発が大きくなるぞ。」
「おい!答えろ!!何故ライルにナイフを投げた!」
もはやお嬢様らしさなんて欠片も残っていないアスカを見てやっと理解した。
恐らくビリー隊長が僕に向かってナイフを投げつけたのだろう。
同じ隊の仲間に対して、褒められる行動ではないビリー隊長に怒っている、というのがアスカの行動原理といったところか。
「おいおい、お前ラインハルトの娘だろ?お嬢様って聞いてたんだが、オレなみに口が悪いな。」
「黙れ!!ライルが避けていなければ確実に死んでいた!!」
「避けるのが分かってたから投げたんだよ。それくらい分かれ。」
アスカの怒りは治まらない。
仲間思いな所は相変わらずだ。
「おい、アスカ!落ち着けよ!ほら!ライルを見てみろ、怪我はしてねぇ!」
「アスカ嬢、少し大人しくしてくれたまえ。君が暴れると止めるのに苦労するよ。」
アリアとリッツが咄嗟に止めていなければ、ジェットスラスタで加速しそのまま殴りかかっていたことだろう。
「アスカ!落ち着いてくれ!仲間思いなのは凄くありがたいけど、上官に殴りかかるのはまずい。」
肩で息をしているアスカだが、少しずつ落ち着いてきたようだ。
「ライル、貴方は今そこの男に殺されかけたのよ?それも貴方の背後、首を狙って死角からナイフを放った。」
「でも無傷だ。前にもアスカが言ってくれてただろ、僕の反応速度は常人を超えているって。それがビリー隊長にも証明されたってことでいいじゃないか。」
「はあ、貴方が許すのなら私が怒る事もやめるわ。ビリー隊長、次あんな真似はしないでください。もし武器を持っていたら殺していた所だわ。」
「へっ、お前にオレが殺せるか?」
「命と引き換えても必ず殺す。」
アスカの目は本気だ。
多分次同じ事があれば、死ぬ気で襲い掛かりそうだ。
「まじでやりそうだなお前。流石に殺されてやる訳にはいかねえが無事では済まなそうだ。悪かった、もうしねぇよ。」
とりあえず、なんとか無事におさまった。
まさかビリー隊長が僕を試してくるとは……
「ライル、お前に投げたナイフは確実に首を狙った。殺意を持って投げた。もちろん死角からな。なのに何故気づけた?」
「カン……ですかね?」
「カン……か。フハハハ!!!なるほどなるほど。今期は退屈しない奴ばかりじゃねぇか!!未だに殺気が抑えられてねぇアスカに常人を逸脱した反応速度を示すライルか!」
ビリー隊長がひとしきり笑った後は、また最初と同じように10人ずつ隊長の前に出て訓練、となった。
「おい、アリア。お前あれ避けれたか?」
「無理に決まってるだろう?死角からで尚且つあのビリー隊長が全力で投げたナイフだ。正直あの動きが出来るライルが恐ろしいよ。まあ訓練兵を殺す気で試した君の父親も大概だけどね。」
「俺はあれとは違う。一緒にするな。」
ライルの反応速度は全員の目の前で披露することとなってしまった。
誰もが死んだと確信したのにも関わらず、完全回避という形で。
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