訓練兵隊②
今日から訓練兵としての任務が始まった。
ガデッサ教官の顔付きも心なしか凛々しくなっている。
「今貴様らの目の前にあるのは過去の主要兵装となる、炸裂剣だ。柄の部分に銃の引き金があるだろう。それを引けば刃に内蔵された爆薬に火が付く。侵略者の身体に突き立て引き金を引くと身体はバラバラに弾ける。」
レオン隊長はこの炸裂剣で自殺特攻を仕掛けたと聞いている。
僕らに与えられた炸裂剣の数倍、爆薬が備えられていたそうだ。
「それともう1つ。横においてある銀色の金属製の物体。それが新しく配備された兵装、サウズⅡだ。元のサウズに比べれば性能は劣るが、取り付けるには欠損部位を補う必要があるサウズと違って、誰でも扱えるという万能性が強みとなる。」
持ってみると少し重さを感じるが、そこまで行動を阻害することはないだろう。
「まずはそのサウズⅡに全員認証を通さなければならない。今から言う言葉を復唱しろ。サウズドライブ。」
「サウズドライブ」
教官に習い、同じように復唱する。
銀色の四角い金属は柔らかくなり伸びたり縮んだりしながら、剣の形を作り出す。
ふと隣を見るとアスカも剣を作っていたが、リコは拳を覆うようなグローブを形成していた。
もしかすると、自分の思った形になるのかもしれない。
「今のでお前達の声が登録された。もうわかっていると思うが、頭に思い描いた形の武器になる。ただし、あくまでサウズの劣化版だ。耐久力は劣るし起動から形成まで3秒かかる。故に戦闘時には先んじて起動する必要がある。」
自分の得意とする武器を形成して戦えということだ。
でもこの小ささで武器を作り出すというのは画期的な方法だろう。
「そしてもっとも重要なのがこれだ。」
銀色の腕輪を皆に見えるよう頭上に掲げる。
「これは補助装置といって、足と背中に取り付けた高速起動兵装ジェットスラスタの操作を可能にする腕輪だ。」
今僕らの足には銀色のブーツが履かされていた。
足首の後ろ側あたりに2つ丸い穴が開いていて、そこからガスが噴射され前方への推進力を得る。
足の裏にも噴射口があり、そっちは上空へと推進力を得るらしい。
背中にはバックパックのようなガスボンベとガス噴射口が1つ。
足と背中のガス噴射を上手く操って空中での機動も可能となるらしい。
「その腕輪にはいくつかボタンが付いているだろう。緑のボタンを押すと起動する。よし、そこのお前、これを着けて押してみろ。」
一番前にいた男が指名され、ボタンを押す。
すると、銀色の腕輪は一瞬だけ光ってまた元に戻った時には黒い色に変わっていた。
「そうだ。起動したかどうか、視覚的に分かるようになっている。お前、名前は?」
「ジェイド・グラスです。」
「ジェイド、あっちに木で組まれた衝撃緩衝材が積まれてあるだろう。そっちを向け。」
何となく嫌な気がして全員一歩下がる。
「この補助装置には人間の神経の動きを感知し、作動する機能が備わっている。足にあるジェットスラスタの操作を戦闘時にも簡単にできるよう開発された。ジェイド、この木剣を握れ。」
戦闘時の再現を行う為、木剣を手渡されたジェイドは呑気に木剣を振っている。
「いいかお前達、戦闘時はこのように武器を手に動き回っている事だろう。そんな時に腕輪に手を伸ばしボタンを押してスラスタ起動、なんて悠長な事は出来ん。だからこそこの補助装置だ。ジェイド、木剣を握ったまま人差し指を開け。もちろん衝撃緩衝材を向いておけよ。」
誰もが吹き飛ぶだろうと思ったが、何も考えていないジェイドが指を開いた。
その瞬間、足と背中のスラスタからガスが噴射され耳を劈く噴射音と共に途轍もない速さで吹き飛んで行った。
もちろん衝撃緩衝材はバラバラに弾け飛んだ。
今ので全員が分かった事が2つある。
戦闘中操作を誤ると即、死に繋がる事。
そして、ジェイドは何も考えていないバカだという事だ。
「ふははは!!ジェイド!貴様は馬鹿か?私の言った言葉をそのまま鵜呑みにするからだ、そこで伸びていろ。まあ全員見ての通り一歩間違えれば死の危険がある装置だ。考えなしに起動しようとするなよ。サウズⅡ、ジェットスラスタ、補助装置の腕輪。これで兵士の装備は以上だ。」
「教官!!」
1人の訓練生が手を挙げ、発言許可を取る。
「なんだ?」
「防具は……ないのでしょうか?」
確かに今あげられた装備の中に防具らしいものはなかった。
防具もなしに侵略者と戦うなんて怖さが勝ちそうだ。
「ない。そもそも侵略者の攻撃は人間にとっては必殺の一撃となる。文字通り攻撃が当たれば死ぬ。どれだけ硬い防具に身を包んでも同じだ。強固すぎる程の防具を着ければ一撃くらいは耐えられるだろうが、そんなもの重くて身動きできず嬲り殺しに合うだけだ。」
「じゃあ、常に避け続けろって、事ですか?」
「そうだ。今説明した物はなんだ?ジェットスラスタは何の為にある?我々人間が高速で移動し戦う為の物だ。この2年間はほとんどがこの装置を使いこなす事に費やされる。必死で操作を覚えろ。でなければ待つのは死だ。」
侵略者は固い皮膚に覆われている。
ただのナイフが突き刺さらないほどに。
故にただ腕を振り回しただけで、僕らにとっては致死の一撃となってしまう。
それでは対等に戦う事などできない。
そこで開発されたのがジェットスラスタと補助装置だった。
高速機動で相手の攻撃を避け続け、隙を見て攻撃する。
この装置の存在は知らなかったが、レオン隊長の時代から存在していたらしい。
ただその時はまだ試作段階で、機工隊のみが所有していたそうだ。
実戦にも通用すると分かり、外部へ出る部隊全てに配備されることとなった。
そんな装備があれば昔からもっと対等に戦えていたのではないか、と思うがジェットスラスタは機工隊しか所有しておらず、尚且つ機工隊は数が少ないからだ。
今でも機工隊は全部で五小隊しか存在しない。
機工隊を希望する者は割と多いが、機工隊を選んでも機工隊専用の入隊試験が別途あるらしい。
なんでも機工隊は最先端の装備を扱う為、他の隊よりも早く、より効果的に運用できなければならない。
戦闘技術に長けた殲滅隊、兵器運用に長けた機工隊と二分されて呼ばれるくらいだそうだ。
だからこそ、試験では今説明を受けたジェットスラスタを1か月でマスターしなければ入隊することは叶わない。
最新鋭の兵器をすぐに受け入れ、運用できるほどの器用さがなければ到底務まらないだろう。
確か先ほど吹き飛ばされたジェイドは機工隊を希望していたと思うが、あの調子で大丈夫だろうか……。
1か月後に彼は機工隊の試験を受けることになるが……。
「何をまだ伸びているジェイド!さっさと立て!!続きを説明するぞ!!」
教官も大概だと、この時思った。
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