王国への挑戦⑦
ライルらはゼクトと合流し、最後の作戦を実行することにした。
建物に隠れながら進めば、被弾は避けられる。
しかし、城門前に飛び出た瞬間だけはどうしても無防備になってしまう。
それを避ける為ゼクトに協力してもらう運びとなった。
ゼクトを先頭に僕らは駆けた。
ゼクトの全速力は僕らがガスを全開にして噴射させたときと同じだ。
離されるとあまり意味がなくなるので一定の距離を保ちながら進む。
建物に激突しないよう飛ぶのは至難の業だが、今までアーレス星人と戦ってきた僕らにとっては朝飯前だ。
誰も僕らを止められない。
ゼクトが建物の隙間を抜けた瞬間凄まじい銃声や爆音が鳴り響いた。
一斉斉射されたのだろう。
だがゼクトの毛皮は硬質化されており一発たりとも身体に傷を付けることは叶わなかった。
ゼクトは暴れ狂い、城門上に設置された兵器を次々に破壊していく。
大きな咆哮を上げると、王国軍の兵士は尻もちをついて戦意を喪失した。
その勢いのまま城門に突進しヒビが入った。
二度目の突進で城門は完全に破壊されひしゃげた門は吹き飛んだ。
それが見えた瞬間僕らは建物と建物の隙間を抜け、城門前へと飛び出した。
「全部隊に告ぐ!各自展開し城の最奥を目指せ!!」
「「「了解!」」」
アレン隊長がサウズを掲げ号令をかけた。
王国軍は既に反撃する気もないようで城壁を飛び越えていく僕らをただ見ているだけだった。
城内へと侵入を果たした僕らに対峙したのは城内を守る近衛兵であった。
「武器を捨てろ!戦わないと言うのなら僕らは手を出さない!!」
無為に殺すのは気が引けた為彼らに警告する。
しかし彼らも引くに引けないのかライフルの銃口を向けてきた。
「貴様らこそ武器を捨てろ!ここを何処だと心得る!!」
「ライル、無理よ。甘い考えは捨てなさい。」
アスカに諭され僕はサウズを構えた。
まだどこかで甘い考えが残っていたみたいだ。
敵に情けをかけることは自分の命、もしくは仲間の命を危険にさらす。
分かっていたのに。
「死になさい。」
アスカは銃口から放たれたレーザーを紙一重で躱し瞬時に接近すると首を切り落とした。
いきなり真横にいた仲間が斬られた近衛兵は動揺したのか一瞬動きを止めた。
その隙を逃さないアスカは身体を捻り近衛兵の視界から自身を隠す。
戦闘中はたった1秒でも敵から目を逸らしてはいけない。
動揺した近衛兵はすぐさま目を動かしアスカを探すが、その時には既にアスカの刃が首元に添えられていた。
「まっ、待って……」
何かを言おうとしたが、アスカはそのまま腕を振り首を切り落とした。
廊下は既に血の海だ。
人間を相手にするという事はこうなるのは必然。
しかし、最後の人は命乞いをするつもりだったんじゃないだろうか。
「アスカ、最後の人って……」
「敵の言葉は聞いてはだめよ。何故貴方が指揮を任せられないのか分かる?そういうところよ。」
僕はアレン隊長から1度も指揮を任されたことはない。
実力だけで言えば既にロウさんやザラさんよりも強くなっていた。
なのに1度も指揮した事はない。
甘い考えは捨てろと何度も言われていたのに実際に現場に出るとどうしても捨てきれない。
自分の体たらくが嫌になる。
「でも、それが貴方の良いところでもあるわ。敵は私が排除する。貴方は後方から支援してくれればいい。」
「……分かった。ごめん。」
アスカは血に塗れた自身のサウズを近衛兵の服で拭う。
僕はいつかアスカを超える兵士になれるのだろうか。
2人で先を進むと、既に誰かが倒したのか数人の近衛兵が血を流し倒れていた。
どれも一刀で殺られていた。
銃撃の後がなかったところを見るに、恐らくアレン隊長かゼノン副長だ。
撃たれる前に殺している。
そんな芸当が出来るのはあの2人だけだ。
近衛兵の死体を乗り越えて、先を急ぐと戦闘音が聞こえてきた。
先で誰かが戦っているみたいだ。
「行こう!」
「ええ。」
ジェットスラスタで狭い廊下を疾走する。
戦闘音は徐々に大きくなっていく。
僕らは一瞬で近付き一撃、もしくは二撃目で片をつける。
戦闘が長引くということは数が多い事を意味していた。
廊下の角を曲がると戦っていたのはアリアとレイスだった。
「アリア!レイス!!今手を貸す!」
「!!ライルとアスカか!数が多い!!頼む!」
パッと見ただけでも数十人はいる。
既に数人殺したのか2人は血を流し倒れた近衛兵の死体を壁にし敵からの攻撃を防いでいた。
ジェットスラスタを起動し、廊下を風のように飛ぶ。
銃弾は見て躱す。
レーザーは着弾地点を予測し躱す。
僕には他の人にない特殊な力があった。
反射神経が異常なほど発達している。
その力を十全に使い銃撃の嵐の中被弾を許さず、接近した。
「コイツッ!!化け物共がぁぁ!!!」
叫びながら銃口を向けた兵士の首を一刀で切り落とした。
すぐに振り向き様もう一人の首を落とす。
集団の真ん中にいきなり僕が突撃してきたせいで彼らは撃つに撃てない。
ただ、一人一人相手にしていては体力の消耗が激しくなる。
だから僕は訓練に訓練を重ね、昇華した最高の一撃を放つ。
「四連の剣閃。」
四肢から生み出した刃を構え最高出力でガスを噴射させる。
近衛兵の最後方に到達した時には全ての兵士が事切れていた。
数十人をたったの数十秒で倒し切る僕も大概化け物のようだ。
「流石!やるじゃないか!!ライル!」
アリアが僕の戦いを褒めてくれる。
必死にやっただけだ。
しかし嬉しくないはずがない。
「ありがとう。」
僕は少し照れながら口を開いた。
「その調子よライル。さあ、先を急ぎましょう。もしかしたら既にアレン隊長が国王を始末しているかもしれないわ。」
――国王の居室――
城内には既に敵は入り込んでいる。
自身の元へ辿り着くまでもうそんなに時間はないだろう。
国王の部屋の前には精鋭の兵士を配置していたがベータ相手となると話にならない。
国王は部屋の中で震えていた。
「クソっ!!誰でも良い!!奴らを止めろ!!ここまで辿り着かれればこの国は終わるぞ!!貴様ら!今すぐ奴らの首を持って来い!!」
国王は近くにいた近衛兵に命令し、全ての兵士を部屋から追い出した。
部屋の中にいるのは、国王とその妻、そして子供達だけであった。
「貴方……」
「大丈夫だ。数はこちらの方が多い。それに精鋭ばかりだ、簡単には殺られんよ。」
国王は不安そうに呟く妻の肩に手を置き安心させる為に嘘をついた。
「……ガッ!」
「辞めっ!!……」
「化け物ォォ!」
外から近衛兵の叫び声が聞こえると、国王は近くにあった飾りの剣を手に取った。
少しすると外からの音は一切なくなった。
近衛兵の叫び声も聞こえない。
「おいっ!!どうなった!!奴らは始末したのか!」
扉に向かってそう声をかけるが返事はなかった。
しばらく扉を見つめていると、数本の線が入った。
と思うと扉はバラバラに崩れ落ちた。
「火星からはるばる来てやったぞバルトステア国王。」
姿を見せたのは返り血で全身を赤く染めたアレンであった。
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