王国への挑戦⑥
ライルらが王都に入り空を飛び回っている頃、バルトステア王国の王宮内では慌ただしく人が入り乱れていた。
帝国が攻め込んで来た情報が比較的早く入って来たが、次に持ち込まれた情報が厄介だった。
[帝国軍、王都入り。異星人のような化け物も複数確認。]
だった為、王宮内とてもじゃないが穏やかではいられなかった。
帝国軍だけであれば、物量で押せば押し返せる。
しかし異星人が参加しているとなれば話は変わってくる。
強さもさることながら、数も良く分かっていない。
王国からしてみれば未知の恐怖でしかなかった。
「全戦力を王都に集めよ!前方で暴れている化け物共は皆殺しだ!」
「国王陛下!異星人の事ですが、火星人であると報告が入ってきています。」
「火星人だと?まさか帝国に降りたあの巨大な船は火星人共が侵略しに来たとでもいうのか?」
「その可能性が高いかと……。」
膝をつき頭を垂れる側近の者は冷や汗が止まらなかった。
万が一にでもこの場で自分へと八つ当たりされれば間違いなく殺されるからだ。
国王とはそういうタイプの人間であった。
しかし国王の反応は思ったものとは違っていた。
「アーレス星人……遂に来たのか……。この王城には絶対に近寄らせるな!!あれは、正真正銘の化け物だぞ。囲んで叩け!」
「は、はっ!!」
国王の指示通り、城門前には多数の兵を配置し、兵装の類いは惜しみなく使う事にした。
国王は何か知っているようだったが他の者達はいまいち火星人の事を分かっていなかった。
国王の焦りは指示にも表れていた。
戦力を総動員させても構わないから城には近付けさせるなという指示だ。
今までであれば、出来るだけ各国へ威圧をする為守りを固めると言うよりかはいつでも攻め込めるぞというような半ば脅しのような配置をしていた。
それが火星人が現れたと聞いた瞬間、守りを固めろという。
定石を覆した国王に他の者達が不振に思うのも仕方がなかった。
しかし国王陛下の命令は絶対だ。
出来るだけ多くの兵器を城壁の上へ設置し、今集められる最大数の兵士を配置した。
空を飛び回る帝国兵も妙だった。
今まであんな戦い方をする帝国兵は見た事がなかったからだ。
銃や砲をメインで使う時代に誰が好き好んで剣を使うだろうか。
最初はそんな気持ちで撃ち落とそうとしていたが速すぎて弾丸は当たらなかった。
次第に距離を詰められ気づいた時には身体と首は離れている王国兵。
そんな光景を何度か見れば異様さに気づく。
火星から来た何者かと化け物が帝国に味方をしている事は明らかであった。
機銃掃射や対空砲撃を集中的に行い、やっと数人落とせるようになったがそれでもまだ数がいる。
王国軍も徐々に余裕を失っていき帝国の飛行兵が城に近づいて来る頃にはもう笑う余裕なんてなくなっていた。
帝国兵などと戦っても互角にすらならないと舐め腐っていた王国軍は徐々に崩れていく。
最初こそ舐めた態度でちょっと撫でてやればすぐに崩壊する、何て言うやつもいたが、王都に入られれば帝国軍の印象は牙を剥く獣へと成り代わった。
そんな戦いがしばらく続くと王国軍の戦意を削ぐ決定的な瞬間が訪れた。
王都全てに聞こえる声量で獣の遠吠えが聞こえたのだ。
人為的な物ではないと誰もが感じた。
身体を震わせるような、なんとも言えない悪寒が王国軍を襲った。
その遠吠えを聞いたであろう帝国兵は明らかに士気が上がっている。
特に空を飛ぶ奇妙な兵士はさっきよりも速く、目で捉えるのも一苦労な程に。
しかし王国軍も準備は整っていた。
空を飛ぶ兵士が射程距離に入れば、城門前に設置された全ての銃器が火を噴く。
今か今かと誰もが待っていると、飛行兵が急激に落下し始めた。
操作ミスによる墜落かとも思ったが、そうではない。
建物を盾にして近づく作戦のようだった。
建物をすり抜けながら飛べばコントロールミスによる激突のリスクが高くなるが、城門前まで撃たれることなく近づくことが出来る。
それを狙った飛行兵には脱帽であった。
「建物と建物の間に照準を合わせろ!!!奴らが出てきたところをハチの巣にしてやれ!!!」
レールガン、重機関銃、レーザーガトリング砲、小型ロケット等様々な兵器の照準が一か所に向く。
ここで止められなければ門は突破されるだろう。
指揮を任されている王国軍の指揮官は一筋の汗が額から流れた。
出てきてから門を超えるまで恐らく10秒。
たったの10秒しかないが、飛行兵からすれば10秒はとてつもなく長く感じるはずだ。
銃器の引き金に指をかける兵士は皆固唾をのんで見守っている。
指示が来た瞬間、発砲する為の指が少し震えている者もいるくらいに。
指揮官の耳に音が聞こえてきた。
近づいて来た証拠だろう。
片腕を上げ、いつでも発砲許可を出す準備は万端だ。
後は腕を降ろした瞬間ハチの巣になる。
簡単な仕事だ。
しかしもう二度とこんな役目は引き受けるものかと、指揮官は心の中で毒づいていた。
ドドドドッッ
地響きのような音が聞こえてきた。
指揮官の頭の中にはてなが浮かぶ。
空を飛んでいるはずなのに地響き?
嫌な予感がした。
次第に音は大きくなっていく。
誰が聞いても重量がある音だ。
決して空を高速で駆ける時の風切り音ではない事は確かだった。
足音のようにも聞こえる。
指揮官は理解した。
この音は人間ではないと。
火星人だと。
「全員撃てぇ!!!!!一発残らず正面にぶち込めぇ!!!」
急な指示に他の兵士は戸惑いを見せたがすぐさま引き金を引き撃ち始めた。
様々な兵器の一斉掃射だ。
壮観な光景ではあったがそれを楽しむ余裕など指揮官にはなかった。
「オオオオオオオオオオオオ!!!」
唸り声を上げながらビルの隙間から姿を現したのは報告にあった化け物。
口を大きく開け覗いている牙は人間の腕より太い。
目は王国軍をしっかり見ている。
火星人の化け物など初めて見たが地球の動物にそっくりであった。
誰もが全弾撃ち尽くさんと引き金を引き絞る。
王国軍の前に現れたのは飛行兵ではなく、黒い大きな狼であった。
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