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王国への挑戦⑤

青白い破滅の光は障壁へとぶつかり弾ける様な音が響き渡る。

次第に光は小さくなり、障壁もろとも消えてしまった。

本当は主砲で王都を消し飛ばす予定だったが想定以上の障壁の硬さに対消滅してしまったようだ。


しかしこれで道が拓いた事に変わりはない。

僕らは王都を目指し進軍を開始した。


ただ王国も馬鹿ではない。

障壁が破られたと同時に各地へ兵を向かわせたようで、王都までの道のりでは外で戦闘が繰り広げられていた。

怒号や悲鳴が聞こえる中、僕らはじっと我慢して耐えた。

装甲車に詰め込まれた僕らの出番は王都に入ってからだ。

それまでは帝国兵で頑張ってもらうしかない。


ゼクトらは既に近くにいない。

恐らく一番最前線にいるはずだ。

特にガルム辺りは暴れ回っている頃だろう。


「戦争の真っただ中にいるわね私達。」

ふと隣にいるアスカが小さく呟いた。


装甲車の外では人が殺し合っているのだ。

でも僕らは手助けできない。

もどかしい気持ちになる。


まだ1度も戦闘行為をしていないからか、僕らは戦争に参加している自覚が薄い。


しばらく無言で乗り続けていると、不意に装甲車の扉付近を強く叩かれた。

車内には緊張が走る。


「商業地区も後半分で突破する!もうしばらく我慢してくれ!」

外を二輪駆動車で走っていた帝国兵の1人が声を掛ける為に叩いたようだ。

ホッとしたが、僕らの出番が近いと分かるとまた別の緊張感に包まれた。


商業地区も中程まで来たからか外から聞こえる声や戦闘音はより激しくなっていた。

何故こんなにもスムーズに進めているのか。

それはゼクトらのお陰だ。

アーレス星人の部隊が立ち塞がる敵を(ことごと)く排除しているからだろう。

圧倒的な力を持つゼクトやガルムにただの王国兵が敵うはずもない。


拓けた道を僕らの車両はただ走るだけ。

恐らくこの装甲車周りにいる帝国兵にもほとんど被害はないはずだ。

案外一番安全な場所と言っても過言ではないかもしれない。


徐々に反撃が激しくなってきているのか、爆発音がかなり大きくなってきた。

多分僕らの車両がかなり目立っているからだろう。

巨大な装甲車が何十台も連なって走っていれば嫌でも目に付く。

だが周りは数万の兵士が守っている。

装甲車まで攻撃が届く事はまずないと思っていいはずだ。



どれだけ時間が経っただろうか。

とても長い間装甲車に乗っていた気がする。

そんな時、また扉付近を強く叩かれた。


「後2分で王都に入るぞ!いつでも出れる準備をしておいてくれ!」

遂に来た。

僕らは各自サウズとジェットスラスタに不備がないか確認する。

ちなみに殲滅隊に関しては戦闘技術が高い為、宇宙開発研究所で改良されたジェットスラスタを着けていた。

ガスの噴射力を従来の1.2倍にしガスタンクも今までの2倍近くガスが込められている。

継戦能力と俊敏さを合わせ持った新型ジェットスラスタといったところか。


殲滅隊にしか配備されなかったのは、全員への配備が間に合わなかった事もあるがそもそも性能が上がったジェットスラスタを使いこなせるのが殲滅隊だけだったからだ。

一部の者は使えていたが、量産は間に合わなかった。


「全員準備はいいな。ここから出れば死地だ。隣の仲間が死んでも立ち止まるな。俺達の目的は国王だ。刃が折れても四肢を失っても前を目指せ。たった1人でもいい、奴らの首元に噛みつければ俺達の勝ちだ。行くぞ。」

「「「了解!」」」

装甲車の扉が開くと喧騒が耳を劈き、太陽の光が目を眩ませる。

しかしそれも一瞬の出来事。


帝国兵の1人が僕らに合図を送ってきた。

「今だ!……頼んだぞ。」

「任せておけ。」

アレン隊長はそれだけ言うと全員に目配せした。


「「「ジェットスラスタ起動!!」」」

全ての装甲車から一斉に僕らは飛び出した。

ガスの噴射音を置き去りに空へと上がる。


上から見た戦場は、凄惨な光景だった。

至る所で死体が転がり壁や地面に血が飛び散っている。

かと思えばすぐ真下で爆発が起こり、戦っている者達が吹き飛んだ。


空に上がった仲間を横目に見ると、みな一様に暗い顔で下を見ていた。

少し気圧されてしまう光景だった。

そんな僕らを勇気づけるかのように遠吠えが聞こえてきた。


アオオオオオオン


ゼクトの声だ。

戦場が広すぎて何処にいるのかは分からないが、多分ゼクトからは僕らが見えているんだろう。

その声に答えるかのように僕らは全員最大出力でガスを噴射し加速した。


空を飛んでいれば地上の敵に足止めされることはない。

だが空に向かって飛来する弾丸やレーザーは僕らに届く。

狙って当てるのは難しいかもしれないが、まぐれで当たる可能性は0ではない。

僕らは巧みにジェットスラスタを操り飛来する死を躱し前へ前へと進む。


全員が、殲滅隊と同等の技術を持っていればよかったかも知れないがどうしても個々で差が出来てしまう。

1人、また1人と飛来したレーザー等に撃ち抜かれ地面へと落ちていく様が見えていた。

だが僕らは止まらない。

いや止まれないのだ。

進むことに意味があり、引き返す事は何の得にもならない。

冷たいようだが、僕らに誰かを救うなんて高尚な事は似合わない。

ただ敵を殺す。

それだけだ。


王都の中心にある城が目視で確認できる距離まで近付いた。

後少し、もう少し近寄れば地上スレスレを飛び敵を斬り伏せながら目標へと駆ける。


しかし、その油断が命取りになった。

仲間の1人がまた撃ち抜かれて最高速度で地面へと激突した。

あれは確実に即死だろう。


見てはいけないと思いながらも見てしまう。

そんな僕の様子を見ていたのか、ザラさんから激が飛んできた。


「ライル!余所見なんてしてる余裕ないよ!前を向きな!」

「は、はい!!」

気持ちを切り替えて前を向く。

集団からはぐれてしまえば、いい的になる。

それだけは避けなければならなかった。


ただ、目の端で見えてしまった。

今さっき僕に激を飛ばしてくれたザラさんが撃ち抜かれた所を。


「ザラさんっっ!!!」

身体を反転させすぐさまザラさんの元に飛びかけたが、誰かに腕を捕まれた。


振り解こうと掴んだ者を見るとアスカだった。

「駄目よ!今は誰かを助ける余裕なんてないわ!」

「でも、ザラさんが!」

強く掴んで離そうとしないアスカに苛立ちが募る。


「行きなさい!!さっきも言ったでしょ!余所見なんてしてる余裕なんてないんだから!」

落ちていくザラさんから聞こえた言葉でハッとする。

反射的に動いた僕が悪かった。

誰であろうと見捨てなければならないと分かっていたはずなのに。


「ごめんアスカ。行こう、ザラさんなら簡単に死なない。」

「そうね、あの人は結構しぶといから。」

アスカに一言謝罪を入れもう一度前を向く。


僕は、涙を拭いガスを噴射させた。

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