王国への挑戦①
皇帝とヴァインが手を組み共に戦うと話がついた所で一度僕らは船に戻った。
他の者にも伝えないといけないからだ。
それに当分は船が僕らの拠点になる。
未だ帝国民は僕らを恐れているらしく共存するには時間が必要との事だった。
船内に戻ると僕らが帰って来るのを待ち望んでいたのかみんなに囲まれた。
皇帝との話はどうだった?とか帝国と戦うのか?とか。
結構みんな好戦的なようで、嘘でも今から戦争だなんて言おうものならすぐに船を飛び出て戦いそうな雰囲気があった。
「全員落ち着け。まず帝国とは協力関係になった。我々の目的は共通している。バルトステア王国だ。あの国を滅ぼす。争いの種が消えれば自然と平和への道が拓かれるだろうからな。」
ヴァインが細かく説明し彼らを落ち着かせた。
皇帝との話し合いで決まった事はまず一つ。
油断している最初の一撃はバルバトスの主砲を使うと決まった。
威力は申し分なく最初の一撃で大打撃を与える作戦だ。
ただ、バルバトスの主砲は本来宇宙戦を想定して作られており、それを地球でぶっ放す行為というのは非人道的行為になるらしく他の国家も巻き込んだ世界大戦になることは間違いないらしい。
しかし元より僕らは敵国を全て滅ぼすつもりだ。
僕らみたいな火星生まれの悲劇を生むくらいなら最初からなかったことにしてしまえばいい。
敵国がなくなれば無駄な血を流すこともなくなる。
そう考える者は少なくなかった。
主砲を使うとしても今すぐには無理だった。
地球内戦闘を想定した主砲に造り変えなければならないらしく少なくとも1カ月はかかる。
その間、帝国内にバルトステア王国の人間を入れないようにしてくれるらしい。
まあもしも入ってきてこの船を見たとしても僕らが片付けるから問題はない。
人間より遥かに優れた身体能力を持つゼクトらがいればその程度の気配はすぐ読み取れるとの事だった。
「帝国内をうろつくのは出来るだけ控えてくれ。大きな戦いの前に小さい諍いは避けたい。」
ヴァインの指示により帝国内をうろつけるのは皇帝に許可を得た者だけにしてほしいと言われたそうで、ヴァインはその条件で了承したらしい。
だがこの戦いが終わればみんな仲間だ。
好きに出歩けるようになる。
一つだけ気がかりなのは輸送船アポロンだ。
イカロスは追従してきて一緒に降下したが、アポロンだけはどこに行ったか分からない。
信号もロストし通信も途絶。
中の人は生きているのか死んでいるのかさえ分からなかった。
ただ最後の通信では死神の存在が明らかになった。
もしかしたらもう全滅しているかもしれない。
帝国側も探してくれているようだが見つかる様子はなかった。
いずれ見つかる事を祈るしか僕らには出来なかった。
1週間が過ぎるとみな慣れてきたのかたまに窓の外を見て子供達に手を振っていたりしていた。
これほど巨大な船だ。
どんなものかと見に来る人が後を絶たず船の周りには常に人で溢れていた。
「まるで見世物だな。」
アレン隊長が呟く。
しかし仕方ない事だ。
彼らからすれば別の星からやって来た未知の生物。
一目見たいというのも分からなくはない。
「ふむ、我が知っている頃よりかなり発展したようだな。」
ゼクトは昔の地球と今の地球を比べているようだ。
そりゃあ400年以上も経っていれば見違える事だろう。
僕らにとっては全て真新しい新鮮な気持ちであったが、ゼクトにとってもその気持ちは変わらないようだった。
空を自由に飛ぶ鉄の翼、人を大量に運ぶ巨大な箱、無人の監視が目的の機械。
名前はよく覚えていないが、その3つは分かった。
確か飛行機、電車、ドローンだった気がする。
どれも火星にはなかった物だ。
そもそも自由に空を飛べると言うのが凄い。
僕らも飛んではいたが、あれは訓練の賜物であって誰でも飛べるわけではない。
しかし帝国の人達は自由に空を飛んでいる。
それが凄く羨ましかった。
ただ技術が発展したおかげで得られた恩恵とは別に良くない事もあったらしい。
それは戦争だ。
兵器も当たり前のように発展しているせいで大量破壊兵器が生まれた。
そのせいで大量の死人が出るそうだ。
一度戦争が起きると万の人が死ぬ。
僕らには考えられない事だった。
万の人が死んだらトリカゴにいる住民は全滅を意味するからだ。
そういえば帝国の人にまだ一度も見せてはいないが、僕らの戦い方を見せればどんな反応をするだろうか。
野蛮だと言うのか、それとも技術を褒めるのか。
サウズとジェットスラスタはこの国にはない技術でもある。
子供達には人気者になれるかもしれないな。
ずっと船内にいてもよかったのだが、ゼクトがある場所に行きたいと言い出し僕とゼクトで外に出る事となった。
皇帝が許可を出し専用の大型貨物車でその場所へ向かう。
どうしても行きたかったとゼクトが言うのは珍しい。
何か思い出深い場所なのだろうかと思い、聞いてみても行けば分かるとしか教えてくれなかった。
しばらく走っていると車が止まった。
どうやら目的の場所に到着したらしい。
帝国兵に促され降りると、そこには白い大きな建物が鎮座していた。
ここが何処かはすぐに分かった。
門の前に大きな看板が立っていたからだ。
そこに書いてあったのは(宇宙開発研究所)であった。
ゼクトが初めてカイルに出会った場所だ。
「ここも……かなり変わったな……。兵士、ここはいつからこんなに綺麗になった。」
「あ、ああ……確か100年前に建て替えられたって聞いた気がするぞ……。」
ゼクトに急に話し掛けられた兵士は狼狽えながらも答えてくれた。
流石は兵士だ。
肝が据わっている。
普通の人ならこんなでかい狼が人語を話せば驚いて逃げる事だろう。
「100年前か……ククク、我にとってはそう長い時でもないのだが、そうか。もうあの頃の建物はないのか。」
ゼクトが知っている建物は400年以上前の建物だ。
逆に300年も建て替えていなかった事が凄い。
中から見ていたのか白衣を着た1人の男が走ってきた。
こんな化け物がいたら何事かと思うのも仕方ない。
連れて来るなと怒られると身構えていたが、ゼクトが目を見開き予想もしない事を口にした。
「ば、バカな……何故生きているのだ、オスカー・ハインリッヒ!」
その名前は、かつてカイルと共に生きた研究者の名前であった。
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