惑星守護艦隊⑩
目の前にはそれなりの格好をした大人が頭を床に擦り付け四つん這いになっている人がいる。
シュラーヴリ皇帝だ。
「本当にすまなかった。許してくれとは言わないがもしも私の首で済むのであればここで刎ねてくれても構わない!」
とんでも無い事を言い出したせいで会議室の空気が張り詰めた。
レインもルナも、いや本名はレイナとルイだった。
レイナとルイもそんな流れは聞いていなかったのか驚いていた。
「お父様!?私が話をすると言ったではないですか!」
「馬鹿者。彼らは被害者なのだ。直接私に罪は無いかもしれんが、私はこの国の皇帝なのだぞ。ならば責任は取らねばならない。」
なんだか話がややこしくなりそうだ。
そう感じたのかヴァインが口を開いた。
「立って欲しい。我々は確かに被害者だ。しかし貴方方も被害者だろう?謝って死んだ者達が生き返るわけでもないし、今はこれからの事を話し合うべきだと思いますがね?まあ恨んでいないと言えば嘘になるが貴方方を恨んでも益はない。」
ヴァインの言う事は最もだ。
僕らは確かに復讐を考えているが、それはこの帝国の人達ではない。
彼らも被害者という面では仲間だ。
打倒すべきは決まっている。
「我々の悲願はただ1つ。バルトステア王国を潰す。それに協力して頂きたい。」
「……それは願っても無い事だ。しかし……今や帝国の戦力は地に落ちた。たとえ君達と協力したとしても勝てるかは分からん……。」
皇帝は消極的な人だ。
そんな印象を受けた。
しかし勝てるかどうかは関係がない。
殺るか殺らないか、だ。
「フッ、皇帝よ。今目の前にいる者が誰か忘れたか?我はアーレス星人だぞ。人間なんぞ片手で捻り潰してくれるわ。」
ゼクトが鋭利な爪を見せびらかしている。
バルトステア王国を早く潰したくて仕方がないらしい。
でもこの場でその威圧感はやめて欲しい。
帝国の人が震えているから。
「ゼクト、もっと殺気を抑えてくれ。僕らは慣れていても彼らは慣れていないんだ。」
「ムッ。そうか。」
僕がそう言うとゼクトはスッと爪を隠した。
周りを見れば、明らかに恐れが顔に出ている。
護衛の兵士や皇帝、レイナやルイも震えている。
「我々の仲間が申し訳ない。怖がらせるつもりはなかった。だが見て分かる通り我々だけではない。彼らアーレス星人も力を貸してくれる。それでも勝てないと?」
「……いや、勝てるかもしれん。アーレス星人の身体能力は知っている。一体で凄まじい力を持ち人間が数十人程度で囲んだ所で返り討ちに合うだろう。」
「ならば、手を組みましょう。我々の共通の敵はバルトステア王国にある。ここで刃を交えるのは得策ではない。」
「君達がそれで良いというのならば従おう。我々シュラーヴリ帝国はバルトステア王国と袂を分かつ。」
皇帝とヴァインがお互いに手を差し出し固く握る。
今ここに協力関係が作られた。
詳細はこれから話し合うとの事で、僕とアスカ、それにレイナとルイは別の部屋に通された。
「ふぅ、肩が凝るよ。この格好は。」
部屋に入るや否や直ぐ様姫様らしからぬ態度になったレイナを見ると自然に笑みが溢れた。
懐かしい。
昔の訓練兵隊時代を思い出す。
「改めて、ごめんね。何も言わずに立ち去ってしまって。」
「それはもういいわ。貴方達にも理由があっただろうことは理解しているつもりよ。」
「ありがとうアスカ。それにライルも。」
僕らは全員で抱き合った。
久々に会えた喜びを噛みしめるように強く。
「そういや、レイナはやっぱり女の子だったんだな。」
「やっぱり?男だと思ってたの?」
まあそれは仕方がない事だ。
一人称はボクだし、胸の膨らみもそんなにない。
男だと間違えるのは僕だけじゃなかったはずだ。
「なんだか失礼な事を考えているでしょうライル。目線が胸にいってるわよ。」
アスカに睨まれすぐに視線を外す。
あの時はサラシを巻いていたようで、膨らみを抑えていたらしい。
今見ると胸が少し膨らんでいたので、ちょっと驚いた。
「エッチだなー!ライルは!ルイも言ってやってよ!」
「ワタシは姫様より胸があります。」
謎の煽りを入れてきた。
そのせいでレイナがギャーギャー騒ぎ、何事かと兵士が入ってきたくらいだった。
「おふざけはこの辺にしましょう。そういえばリッツやリコも貴方達の事を心配していたわよ。彼らに会ったら頭くらい下げておきなさい。」
「リッツとリコも来てるんだね!良かった……皆とまた会えて……。」
嬉しさで涙を拭うレイナは本当に友達想いのようだ。
誰も死なずにみんな生きているのは奇跡だ。
誰が欠けてもおかしくない戦いばかりだった。
それもこの戦いに勝てばすべて終わる。
僕らは共に生き抜こうと握手し誓い合った。
その頃会議室では、今後の段取りを確認していた。
「ふむ、バルバトスとイカロス合わせて約7000人近い戦力か。その中の数百人がアーレス星人……なかなかの戦力を持ってきたのだな。」
「もし帝国が首を縦に振らなければこの戦力で地球を制圧するつもりだったからな。」
「それは……また無謀な事を考えていたのだな……。」
ヴァインは同列に扱う為敬語を取っ払っていた。
皇帝もそれがありがたかったのか、仲間のように話し掛ける。
「帝国の人口は1億人。その中で戦えるのは半分といった所だ。」
「……5000万人か。途方もない数字だな。」
アレンは自分達の7000人の戦力がちっぽけに見えていた。
例え1人が千人を倒せても勝ち目のない程の差がある。
ゼノンは無駄に命を散らすことにならず助かったと安堵していた。
「バルトステア王国の戦力は如何ほどだ。」
「かの国に併合されたり、属国となった国もある。それらは全て敵に回ると考えていいだろう。数は凡そ50億人。内戦で数が減ったとは言えまだこれくらいはいるはずだ。」
もはや7000人などなんの足しにもならないほどに敵は多かった。
「内戦?」
「む、知らなくて当然か。数年前にバルトステア王国が覇を唱えたのだ。逆らう国は潰し属国となるならば受け入れようと。圧倒的な戦力差に何カ国も取り込んで行った。抗った国もあったが……抵抗虚しく国ごと滅ぼされた。」
「屑どもの集まりというわけか。ククク人間というのは本当に度し難い生き物だな。」
ゼクトの言う通り、人間は闘争から逃れられない定めだと言わんばかりに事を起こす。
度重なる戦争で何も学んでいなかった。
「ならば初撃はバルバトスの主砲を撃ち込めばいい。一気に数は減らせるはずだ。」
そんな中で、そう発言したのはアレンであった。
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