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惑星守護艦隊⑧

帝国の中心地、アルビオン。

巨大な塔を中心に広がる城下の街。

その塔の頂上に皇帝はいた。


「なんだと!?惑星守護艦隊と連絡が付かんだと!」

「は、はい!何度も通信を繰り返しているのですが、ずっと反応がなく。」

皇帝陛下は来るべき時が来たのだと項垂れる。

確実に今、地球のすぐそばでは戦闘が行われているに違いない。

火星から来た彼らと戦っているのだろう。


走り寄って来た別の男が報告の者に耳打ちする。

「あ!たった今連絡が!」

どうやら、速報があったらしい。


「アインスの艦長からの通信です。ん?これは……モールス信号?ですかね?」

えらく古い通信方法を使っているなと皇帝は訝しむ。

もう長く使われていない通信方法だ。

通信を傍受される事を避けたのか。



「解読しろ。」

「はい、えー、アインス艦長より……現在……戦闘中……敗北は必至。です……。」

敗北、その言葉をまさか守護艦隊の艦長から聞くことになるとは思わなかったのか報告の者は手が震えていた。


「という事はもうここに来るまでそう時間はかからんな……。」

「陛下!逃げましょう!地下に逃げ込めばなんとか!」

「駄目だ。ここで逃げては意味がない。逃げたい者は逃げるが良い。」

皇帝は既に腹をくくっていた。

もしもベータが自分を殺すと言うのなら受け入れよう。

もしも協力して欲しいと言うのなら喜んで手を貸そう。

長く続く虐げられる歴史は終わりにしたいと考えていた。


「あっ!」

誰かが小さく溢した。

誰かは分からない。

ただ誰もが窓の外を見ていた。

皇帝も同じ様に窓に近付くと、空には流星群が見えていた。

昼間にも関わらずだ。

大気圏でバラバラになった艦の破片が降り注いでいるように見える。

時たま爆発のような強い光を発する破片も見えた。


あれは恐らく守護艦隊の艦だろう、誰もがそう思った。

しばらく流星群を見ていると肉眼でもギリギリ見える黒い点が見えてきた。

時間が経つに連れて、その点は大きくなっていく。


「船だ……船が近付いて来ている……。」

その場に居た1人がそう呟く。

徐々に大きくなっていくソレは船の形をしていた。

後ろに連なっている船は見たことがあった。

過去に文献で見た船にそっくりだった。

見間違う事などない。

火星侵略の為に最初に地球を飛び出した輸送船イカロスだ。


「戦艦級輸送船バルバトスに輸送船イカロスか。もう1隻が見えないが、遂に来たようだな。」

レイナとの賭けに負けたのだ。

後は娘に任せるしかないとレイナの方を振り向くと、力強く頷いていた。


「全員!武器は使うな!!彼らを招き入れろ!」

「はっ!?陛下!それでは我々は殺されます!!」

「それがどうした。彼らにとって我々は殺したいほど憎い相手のはず。今まで彼らを支援せずただ見ているだけだった我々が武器を取って戦うというのか?」

「ですが、それはバルトステア王国の……。」

「彼らにとってそんなもの関係がない。全て地球人だ。誰もが等しく憎くて堪らないだろうな。」

戦う事は愚策だ。

人数差で勝てるだろうが、彼らの戦闘能力は比較にならないほど高い。

勝ててもそれなりに被害は出る。


「大丈夫です。私が最初に接触します。私ならいきなり斬りかかられる事もないでしょう。」

「姫!いけません!彼らは既に我々の同胞を!守護艦隊を撃沈させているのですよ。」

「それを言うならば、最初に火星へ送り込んだ我々に非がありますよ。」

レイナはライルやアスカの事を信じている。

何も言わず姿を消した事は言及されるかもしれないが、昔の仲間に手を掛けるような真似はしないと。


「輸送船が2隻、帝国領空内に入りました!」

その一言に緊張感が増す。

レイナもいきなり殺されはしないと信じているが確証はない。


「塔の前の広場ならあの船も止められるだろう。他の艦は別の場所に待機させよ。くれぐれも先に手は出すな。」

「……はい、畏まりました。」

聞きたくはない命令だが皇帝陛下の命令であれば聞かないわけにもいかず渋々返事をした男は急いで各所に連絡を取り始めた。


「バルトステア王国に動きは?」

「今の所ありません。ですがそろそろ連絡してくるかと。」

そんな会話をしていると間もなく王国から連絡が来たようだ。

勢い良く開けられた観音開きの扉から慌てた様子の男が駆け込んでくる。


「陛下!バルトステア王国から通信が!」

通信機を手渡され、受け取るとすぐに声が聞こえてきた。


「シュラーヴリ皇帝、先程の流星群は一体なんだね?惑星守護艦隊にも連絡が付かんが何か知っているのだろう?」

「これは国王陛下。我々も良くわかってはおりません。ですが少なくとも惑星守護艦隊は敗れたかと。」

「敗れた?誰にだ。まさか火星の奴らか?」

「その通りです。」

「フッ、馬鹿なことを申すな。火星の原始人共がこの地球に来たと?冗談にしては笑えんぞ。」

やはりというか案の定、バルトステア王国の国王は事態の深刻さを理解していないらしい。

ただわざわざ教えてやる義理もない。

適当に言葉を濁し通信を切ると、覚悟を決めたのか皇帝は立ち上がり声を張り上げた。


「歓迎の準備を!我々はこれより彼らと交渉に入る!!上手く行けば共にバルトステア王国をだともできるぞ!!急げ!!」

「「「ハッ!!」」」

久しぶりに見た皇帝陛下の凛々しく勇ましいその姿に誰もが覚悟を決めたのか綺麗な敬礼を見せた。


「レイナ、お前に全てかかっている。失敗は許されんぞ。」

「はい、分かっていますお父様。お任せ下さい。」

「ルイ・ジェイン。万が一があれば我が娘を守ってやってくれ。」

「ハッ!この命に変えても!」

皇帝陛下は過去の過ちを告白し許しを請う事しかできない。

彼らと関わりがあるレイナとルイだけが頼りだった。



「戦艦級輸送船バルバトスと輸送船イカロスが広場上空に留まっています。どうされますか?」

「青い信煙弾を撃て。彼らに敵対する意思はないと示せ。」


皇帝陛下は娘を連れ添って広場へと足を向ける。

この日、数百年の時を経て、火星人と地球人が手を取り合う未来を信じて一歩踏み出した。

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