惑星守護艦隊⑥
バルバトスの右舷側は完全に死んだ。
兵装もろとも主砲で撃ち抜かれ、溶けていた。
かろうじてバルバトスの主砲は生きているが、船体に甚大な被害をもたらしたようだった。
「損傷率30%。右舷側の設備はもう使い物になりません。」
アスカの淡々とした言葉が聞こえてくると、ヴァインは急いでロウさんに指示を出した。
「ロウ!主砲の充填は!?」
「まだだ!後20秒!!」
「相手の主砲は連射できん!!当ててしまえばこちらの勝ちだ!」
ヴァインはバルバトスの継戦能力が高い事を知っている。
損傷率が50%を超えなければ戦い続けられる程の高耐久でありエネルギー残量もまだまだあった。
しかし現在は地球に接近している真っ最中である。
早く戦闘を終えなければろくな準備も整えられずに大気圏へと突入することになると考えたヴァインは最後の手段を取った。
「主砲の充填が終わってもまだ撃つな!私がこの船を接近させる!出来るだけ近付いてから撃て!」
「おいおい、それはやべぇだろ!主砲の威力知ってんだろ!?衝撃波が襲い掛かるぞ!」
「構わん!損傷率50%を超えていなければ主砲の余波に耐えられる!行くぞ!!」
有無を言わせず、ヴァインは操縦桿を握り前進させた。
守護艦隊アインスの艦長は目を剥いていた。
まさかバルバトスが突撃してくるとは思わなかったからだ。
機銃やミサイルで弾幕を張ってはいるが、バルバトス程の巨大な船体には殆どダメージが入らない。
しかしそうこうしているうちに、徐々に距離を詰めてくる。
アインスの主砲も連射は出来なかった。
故にバルバトスを止める手段はない。
後退しながらサブ兵装を撃てるだけ撃ち込んではいるが、一切止めるどころか減速させる事すら出来なかった。
「くそ!!奴らは何考えてやがる!!止めろ!!なんとしてもここで落とせ!!」
「艦長!これ以上下がれば地球の引力圏内入ってしまいます!」
アインスにはもう手段は残されていなかった。
アインスからの猛攻撃を受けながら徐々に距離を詰めていくバルバトス。
船内はもう阿鼻叫喚であった。
「損傷率37%!!」
「きゃぁぁあ!!ここでアタシ達死ぬの!?」
「おいヴァイン!!何を考えている!危険だ!」
「近付かなければ、確実に主砲は当てれん。一撃だ、たった一撃当ててしまえばこの勢いで大気圏へと突入する!」
ヴァインには考えがあった。
それは、主砲でアインスを撃ち抜き破壊した船を盾にして大気圏を突破する作戦であった。
電磁障壁がなくなった今、安全に大気圏を突入する方法は何かを盾にするしか方法はなかった。
「ロウ!!ブースターは絶対に狙うな!あそこさえ避ければ何処に撃ち込んでも構わん!」
「無茶言いやがって!!」
確かに無茶であった。
アインスからの猛攻撃に加えて、加速していくバルバトス。
照準が定まらないのは当たり前である。
いくら距離が近くなったとしても、ブースターを避けて撃てと言うのは至難の業であった。
「距離300!もう至近距離だ!!撃て!」
「外れても文句は言うんじゃねぇぞ!主砲射撃用意!喰らえぇぇぇ!!!」
ロウさんの叫びと同時に視界は青に染まった。
――輸送船イカロス船内――
リクリットらは2隻目を撃沈させ、祝勝の余韻に浸っていた。
まさかこんな旧式の船で最新鋭の戦艦を落とせるとは思っていなかったからだ。
最悪の場合、突貫するしかないとも考えていたリクリットだったが、今は安堵している。
「こちらの担当は終わりましたね。後はアポロンとバルバトスが上手くやってくれれば良いのですが……。」
ふとリクリットは左舷の窓に目を向けた。
そこに映ったのは、遠くの方で青白い光が見えた瞬間であった。
丁度この時、バルバトスとアインスが主砲を撃ち合っていたのだった。
「ふむ、バルバトスも上手くやれているようですね。戦闘中なのはここからでも分かります。観測係さん、どうです?勝敗は。」
リクリットは隣りにいた観測係に話を振った。
イカロスはレーダーの性能が低い為、電子光学式望遠鏡で遠距離の観測をするしかなかったのだ。
「リクリット艦長!これを……。」
青い顔をした観測係が望遠鏡を手渡してきた。
何事かと、リクリットは望遠鏡を目に当てる。
そこで見たのは、バルバトスが火を吹きながら敵艦に突進している所であった。
「一体何が!通信!バルバトスと至急連絡を!」
「駄目です!さっきから何度もやっているのですが、通信が遮断されているようで……。」
何が起きたのか分からないが、少なくとも快勝している風には見えなかった。
「残弾はどれくらい残っていますか?」
リクリットは砲手の男に聞く。
返ってきた答えは、ミサイル数発と機銃のみだった。
たった数発でどうこうできる戦いのレベルではない事は確かだ。
しかしこのままただ見ているだけなのも悔しい。
リクリットは立ち上がり司令室にいる全員を見た。
「攻撃できるのはあと一度が限界でしょう。しかしバルバトスが落ちればもはやこの戦争、負けたと同意。救援に向かいます。異論はありませんか?」
誰も口を開かない。
異論などあるはずがなかった。
バルバトスに乗っているのは精鋭ばかり。
彼らを失えば地球に降りた所で勝てるとは思えなかったからだ。
「皆さんの気持ちは理解しました。ではこれよりバルバトスに進路変更!全速前進!急いで救援に向かいます!」
リクリットはバルバトスを指差し指示を出した。
誰一人として文句など言わなかった。
既にこの時点でリクリットの指示は的確だと分かっていたからだ。
2隻を落とせたのもリクリットの類まれなる指揮のお陰だった。
故にリクリットの新たな指示に反論する者など居なかった。
青い景色は晴れ、眩い光は消えた。
主砲を撃ち終わったようで、僕は瞑っていた目を開いた。
ロウさんの狙いは外れていなかったようでアインスの主砲があった辺りを消し飛ばしたようだった。
「よし!直撃してる!」
「全員衝撃に備えよ!このままぶつけて大気圏へと突入するぞ!!」
ヴァインが前進へと一気にレバーを倒した。
大きく軋む音と共に、目の前のアインスが大きくなっていく。
船内に凄まじい轟音が鳴り響いた。
鉄と鉄がぶつかり、重量物を破壊するような音だ。
アインスの船体にぶつけた時の衝撃は、今までのどんな衝撃よりも大きかった。
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