トリカゴの住人⑩
アスカは僕と同じ道を選ぶ?
何故?
頭の中にハテナが浮かんでは消え浮かんでは消える。
「あーそんなこったろーとは思ったぜ。」
リッツは分かっていたみたいだ。
「アスカちゃん!」
リコが珍しく怒った表情を見せるのはいつぶりだろうか。
「そうだったわね。ライル今のは忘れてちょうだい。」
「忘れろって言われてもすぐには……」
「そういえば、ゆっくりしてたけどそろそろじゃないかしら、試験の合格発表。」
あ、確かに。
時計を見れば結構時間が経っていた。
「まずい!急いで会場に戻ろうか!」
アリアの一声で全員支度を始める。
さっきのアスカの言ってたことが頭の片隅に残ったまま僕は、会場へと戻る事となった。
「よし、集まったようだな。これより、合格者を発表する!」
皆心なしかソワソワしている。
成績が低くても兵士にはなれる。
一番安全な兵士であれば、都市防衛隊だろう。
外に出ることを嫌がる者はみな内壁の部隊に行くそうだ。
「まあなんとなく想像できるだろうが、順位を発表する。1位アスカ・ラインハルト!流石ラインハルト家の血を引いているようだな。おめでとう。レオン隊長も喜んでいることだろう。」
やはりというべきか、全ての動きが洗練されていて貶める部分が何一つなかったアスカが首席合格となった。
「2位アリア・シスクード!3位レイス・ガーランド!4位オルザ・ル・ルイン!5位ライル・カーバイツ!以上が上位5名となる!!」
やったぞ、上位に食い込めたようだ。
リッツとリコは悔しそうにしているが、まさか僕が選ばれるとは思わなかった。
しかし、4位のオルザ・ル・ルインって人は知らないな。
何か有名な家系だろうか。
「アスカ、あのオルザって人知ってる?」
「いや、知らないわ。ル・ルインなんて家名聞いたこともない。」
アスカも知らないとなると、アリアなら知っているだろうか。
「アリア、オルザって知ってる?」
「残念ながら聞いたことがないな。アスカ嬢も知らないとなると、いきなり頭角を表した家系とでも言うのだろうか。」
誰も知らないようだ。
上位5名の者は全員の前に出て、希望する隊を言わなければならない。
オルザが出てきた時にじっくり見ておいて顔は覚えておいた方がよさそうだ。
1人ずつ名前を呼ばれ、前に出ていく。
「アスカ・ラインハルト、何処の隊を希望する?」
そう言われ、チラッと僕の方を見てきた。
一応軽く頷いておいたが、アリアの家で聞いた事と関係しているのだろう。
僕が殲滅隊に入るかの確認だったようだ。
「私は殲滅隊を希望します。」
「次!アリア・シスクード!」
「私も殲滅隊を希望します。」
「次!レイス・ガーランド!」
「俺も殲滅隊を希望します。」
「次!オルザ・ル・ルイン!」
来た。
男性のようだ、身長は割りと低い。
前髪で目元が隠れているせいで顔がはっきりとわからない。
「ボクも……殲滅隊を希望します……。」
なるほど、声は小さいと。
すごい大人しい人なのかもしれない。
「次!ライル・カーバイツ!」
「僕も殲滅隊を希望します!!」
「以上、5名全員が殲滅隊に所属することが決まった。お前達は元の場所に戻っていいぞ。これより6位から10位を発表する!」
「ライル、おめでとう。」
「ありがとう。アスカは流石というかなんていうか。」
「英雄の娘ならこれくらいやってのけなければならない。そう思われて今まで生きてきたのよ、努力と才能の結果ね。」
「いやー、良かった良かった。ライルもアスカ嬢も一緒に殲滅隊に入れて良かったよ。」
リッツ達も一緒に殲滅隊に行きたかったが、5名の中に全員入るのは難しい。
誰かが入れば誰かが落ちる。
それがたまたま僕とリッツ達だっただけだ。
「それにレイスも後でみんなに紹介しておくよ。言葉遣いは悪いが良いやつなんだ。」
「楽しみにしてるよ。」
少し合格した喜びを分かち合っていた所で、リッツ達も希望する隊を決めたようだった。
リッツは6位。リコは8位。ルナは7位でレインは10位だった。
僕達の班は割りと優秀だったようだ。
「あーくそぉ!ライルに負けたのが悔しいぜ!」
「ライルー!おめでとー!!」
リッツとリコが走り寄ってきた。
「ありがとう。それでリッツとリコは何処の隊にしたんだ?」
「俺もリコも討伐隊にしたぜ。」
「お互い頑張っていこう。」
「おお!あ、レインとルナも来たみたいだぜ。」
「ライル!おめでとう!!」
「ありがとうレイン。君達は何処に?」
「私もルナも討伐隊にしたよ。だからグラストン兄妹と同じだね。」
良かった。班のみんなある程度固まって部隊に配属されるようだ。
「よーし!全員の希望は聞き終わった!集まれ!」
教官から指示があり、皆は中央へと集まっていく。
「配属は決まったが直ぐに部隊に配置されるわけではない。まずは2年間全員訓練兵隊として任務を開始してもらう。明日から始まるからな、またここに集合してくれ。では解散!」
またみんなと共に学べるのが嬉しかった。
2年後にはそれぞれの部隊に配属となる。
そうすれば今みたいにリッツ達と会うことも減るだろう。
それが少し寂しく感じた。
「みんなちょっといいかな。」
僕達も解散しようとしていたところに誰かが話しかけてきた。
見たことはないが、軍服を着ている所を見ると何処かの部隊の人だろうか。
髪はボサッとしているし、何処となく頼りがいがなさそうな雰囲気がある。
「君たちが今期の優秀な者達で間違いないかな?」
「はい、私達が上位に名を連ねた者達です。」
アリアは胸を張って答えるが、恥ずかしくないのだろうか。
「そ、そうかい。いやぁ一応見ておきたくてね。同じ隊に所属する者として。」
どういうことだ?
殲滅隊の方だろうか?
「ああ、アリア君以外は知らないだろうから自己紹介しておこう。僕は殲滅隊副長ゼノン・ティーガーだ、よろしく頼むよ。」
「お久しぶりですね、ゼノンさん。」
「アリア君も立派になったもんだ。おじさんは感動してるよ。」
「ふっ、ゼノンさんはまだ30代でしょう?おじさんなんて歳ではありませんよ。」
「そうかい?いやぁ最近身体が重くてね、思うように動かないんだよ。」
えらく軽い雰囲気の人だが、この人が本当に殲滅隊副長なのか?
強そうな雰囲気はないが……
「ああ、ライル。この人はいつもこんな感じなんだが、戦闘になると殲滅隊副長に相応しい動きで魅了してくれるよ。」
「褒めても何も出ないよアリア君。」
「本当の事ではないですか。模擬戦で私の兄であるアレン・シスクードに傷を負わせた人物。それが貴方でしょう。」
あの殲滅隊隊長に傷を負わせるなんて、普通じゃない。
飄々としているのはあくまで表向きだけってことか。
殲滅隊の人は油断ならないな。
「あっ。その腕は。」
「ああ、気付いたかい?これがサウズだよ。間近で見たのは初めてかな?ライル君。」
「ええ、やっぱり格好いいですねサウズ。」
ゼノンさんの右腕に取付けられているサウズは橙色をしている。適合率が80%を超えている証拠だ。
「まあこれだけじゃないけどね、僕は。」
そう言って左腕の袖も捲ると、そこにも橙色のサウズが取付けられていた。
両足の裾を捲るとそこにもサウズがある。
全て橙色だった。
「僕は1度死にかけてね。四肢の全てがサウズなんだよ。酷いもんだろう?」
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