第一章 トリカゴの住人
初めまして。
処女作です。
温かい目で見守ってください。
宇宙暦800年。
「おい!ガキ共!何してやがる!!!」
図体のでかい男が店先で大声を上げる。
「ちっ!見つかった!逃げるぞライル!」
「ええ!?絶対バレないって言ったじゃないか!」
「リコのやつしくじりやがった!」
満面の笑顔で走り寄ってくる小柄な女の子。
両手には抱えきれないほどのリンゴ。
後ろには般若の形相をした男を引き連れて。
「お、お、怒られるときは一緒だよー!!!」
「あのバカ!」
自分だけが捕まりたくなくて僕らまで道連れにするつもりだ。
「リコは諦める!行くぞライル!」
「仕方ない、しくじったリコが悪い!上手く逃げろよリコ!」
リッツ・グラストン、妹を即座に切り捨てるとは思い切りの良さは流石というべきか。
走り出した僕らを見て、リコは見捨てられたと理解した。
「許さん!許さんぞライル!アニキ!逃げきってもこのリンゴはあげないぞー!」
聞こえてきた声に思わず振り返ると涙目で怒った顔のリコ。
「逃げ切れるわけねぇだろあのバカ。あの店のおっさんはあんなでかい図体してるくせに足がめちゃくちゃはえーんだ。」
「そうなのか……詳しいんだなリッツ。」
「あの右腕いつも包帯巻いてるだろ?噂じゃ元兵士で右腕はSWSSだって話だ。」
人類が侵略者に滅ぼされかけて最後の叡智を絞り出し生み出した新兵器Sabre Weapon Solid System。
通称、SWSS。
僕も遠目からしか見たことがないが、失った部位に新たに取り付ける義手や義足なような物で、戦闘時にはそれが変形し武装となるカッコいい武器だ。
「でもそんなはずはないだろ、兵士がサウズを着けたまま脱走すれば、軍法会議ものだぞ。」
「あくまで噂だ。本当の所はわかんねぇよ。」
僕ら人類は先代が築いた3枚の壁と1枚の青白い半透明の障壁に囲われたトリカゴで生きている。
壁の外は荒廃し、滅んだ都市の残骸が至る所にあるらしい。
見たことはないが、僕の両親は兵士だった。
まだ両親が健在の時、サウズは試験的な物であり侵略者1体に対し小隊全員で掛からなければ勝てなかったそうだ。
小さい頃、いつものように僕は父と母の帰りを楽しみに待っていた。
帰ってくると今日はこんな化け物がいた、こんな場所があった、等と外の話をしてくれる。
僕はそれが楽しみで仕方がなかった。
しかし、その日はいつまで経っても両親は帰ってこなかった。
次第に家の食料も尽きかけ、死が目前に迫った時玄関のドアを叩く音が聞こえた。
やった!父さん母さんは生きて帰って来た!!
やせ細った体に鞭打つように立ち上がり玄関のドアを開ける。
目の前に立っていたのは見たことがない男女だった。
彼らは父さん母さんの仲間だという。
父さんと母さんがその場にいない。
辺りを見回す僕に、女性は困った顔をしながら僕の頭に手を置いた。
「君がライル君かな?」
「うん……それより父さん母さんはどこ?」
その言葉を聞いて、彼らは顔を顰める。
「すまない、ライル君……君の両親は我々を守って……」
「……どういうことですか?」
意味が分からずそう聞き返すと女性が僕を抱き締めた。
「ごめんね……ごめんね……私達が弱かったから君の両親は……」
涙を流し強く抱きしめる女性を見て、なんとなく雰囲気で理解ができた。
父さん母さんは小隊の隊長と副長だと言っていた事がある。
恐らく隊を守る為犠牲となったのだろう。
「父さんと母さんは死んだんですね……」
「……ああ、そうだ。俺たちが弱かったばかりに。本当にすまない。」
こんな小さな子供に頭を下げる彼らはどんな気持ちだったのだろうか。
「父さんと母さんは……人類反撃の一手になりましたか……?」
「ッッッ!!」
彼らは驚いたような顔を一瞬した後、悔しそうに下を向く。
しばらく黙ったままだった彼らだが、何かに気付いたような顔で僕を見つめる。
意を決し発した言葉は僕にとっては一番聞きたくなかった言葉だった。
「我々、第1小隊は!侵略者共に反撃の一手をいれることは出来ず!!2人を残して全滅致しました!!」
「うぅぅぅ……隊長達は私達を逃がす為、殿を努めました。しかし私達の目に映ったのは身体を切り裂かれ死に絶える隊長達の最後の姿でした……」
3人で人目も気にせず泣き喚いたあの日、僕は誓った。
必ず人類反撃の一手を僕がこの手で加えてやると。
「おい!ライル!何黙って下向いてんだ!!」
リッツに肩を叩かれ、はっと気づく。
サウズの話を聞いたからか昔の記憶が蘇っていたみたいだ。
「ごめん、昔の事思い出してた。」
「ああ、そうか……サウズの話したからだな、わりぃ。」
「いやいいって、そういえばリッツの父さんと母さんはまだ兵士で戦ってるの?」
「もう今じゃ第一小隊隊長と副長だってさ。ライルの父さんを継いだ形だな。」
実は僕の父さん母さんがいた部隊に所属していたのはリッツの両親だ。
あの日僕の家に報告しにきた男女がリッツの両親だった。
今ではかなり世話になっている。
義理の両親と言ってもいいくらいだ。
「ライルの父ちゃん母ちゃんのお陰だぜ、俺んちの両親が生きてるのは。」
「そんな事ないさ、努力の結果だよ。」
近くの路地に逃げ込んだ僕らはそんな話をしながら、静かに店の方を覗く。
「あ、リコが捕まった。」
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