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背中に気をつけて![YOUR6!]  作者: B2F(びーにえふ)
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page 3 茅吹かざねの背中② ベッドにて

私帰(きさき)ののか ・・・ 主人公。無事家に帰りたい

茅吹(かやぶき)かざね ・・・ 仲良くなったポニーテールのクラスメイト

入学した更信(さらしな)高校には特殊な七不思議があった

制服は紐リボンのセーラー服

「ねぇ、一緒にベッド行こ?」


茅吹さんのこの言葉。

私が茅吹さんのグラビア活動を想像してたから、飲み物をブーしてしまっただけであって、

この保健室には気絶した私がベッドで休むために来たんだから、水分補給した後にそう促されるのは、何もおかしくなかった。

ひとえに私のヨコシマな考えが、ヨコジマな水着を考えていただけなのです…。


なんだけど…、

結果的にホントに妙なことになって……。



page 3 茅吹かざねの背中② ベッドにて



仮眠をとる前に、保健室すぐ近くのトイレへ用を足しに行く。今はまだ怪異を警戒すべきということで、茅吹さんと連れだって行った。

2人でおしゃべりしながら一緒にトイレを済ませる。

「茅吹さんがこの学校にトイレの七不思議が無いって教えてくれたの、めちゃくちゃデカくないですか!? この学校のトイレ大好きになりましたもん! 水が流れるこのでっかい音も立派に聞こえる! おっきな貼り紙を学校中のトイレにでかでかと貼って回りませんか!?『大安心』と!!」

「…いちおー、まるで私帰さんが大をしてるみたいに聞こえちゃうから、言葉選んどかない? してたらごめんね」

「してませんっ!!」

「ん~…でもあたしも七不思議のうち、たったの2こしか知らないしなぁ…」

「……! 茅吹さんちょっと……、おしっこ出ないから……っ!」



保健室の奥に2台並んだベッド、その片方に、上靴を脱いで膝から乗り上がり、

お待ちかねとばかりに身を投げ出す。五体をマットレスにゆだねるようにして骨休め。

…こうして仰向けになると、天井照明とカーテンレールという2つの長方形で、催眠術にかけられたみたいに、一気に患者気分にさせられる。

一方、茅吹さんは"女子高生メイドかざね"となり、そのレールに仕切りカーテンを滑らせていて、

閉めきった個室を完成させるなり、掛けぶとんを広げてうやうやしく私にかけていった。

そして、慈愛の微笑みで寝かしつける。


「ごゆっくりお休みなさいませ。おきさき様」


本人も真似事を楽しんでるようだけど、そのきさきじゃないんですけどー…。まぁ、悪い気分じゃない。

「あれ? メイドさ…じゃなくて、茅吹さんはどうするんですか? 隣のベッド使って寝るんですか?」

「それなんだけど……」


…?



!?!?!?


「こ……、これしかないかなって……っ」



…ただただ驚くしかなかった。茅吹さんがふとんの中に這入ってきて、密着の添い寝をしてきたのだ。

ふとんの中で茅吹さんの滑らかな脚も腕も絡んで、頭がおかしくなりそうになる。

気が動転しながらも、とりあえずスペースを半分こにするように、もぞもぞ動きあうと、

お互いの様子を見ながらだったから自然と向き合って寝る形となり、2人して顔をさらに赤くする。結局、両手両足は触れ合うままで…。

「かかか、茅吹さん!?」

「だ、だって、汚せない…ベッド…」

「えぇ…!?」

「あたし汗でびしょびしょで…そもそもあたしはベッド使えないし…」

なんとか言い分は汲み取れた。勝手にベッドを使える(汚せる)のは、私が建前を持って使っているこのベッドだけだと言いたいらしい。茅吹さんも寝っ転がりたいなら、こうするしかないと。で、でも、これはさすがに…。

茅吹さんはもはや声が震えて、ところどころ上ずってしまっていた。

「あ…あのさ……こ、こんな時なんだけどさ……!」

「ふぁ、ふぁい!? にゃにゃにゃんですか…!?」

…そう言ってる私のほうがひどいかも…。

私は目を大きく見張ってわなわなと、茅吹さんの二の句に備える。

茅吹さんは真っ赤にした顔でためらいがちに視線を外し、唇をまごつかせたあと、

すがるように上目で私を見つめた。

―― 彼女の唇が艶めいたのは、大切な言葉を口にするからだろう…。


「これからののかって呼んでいい……?」


「……!!」


い、いきなりすぎるよ茅吹さんーー!! しかもこのタイミングで!?


「はっ………、



 はい………っ!!」


どぎまぎしすぎて、何かの誓約のように力の込もった返事になってしまった。

胸の高鳴りが自分でもわかるけれど、彼女の目の前で胸に手を置いて確かめるなんて、誤解されちゃいそうでできなくて……。

「明日からもよろしく……」

「はい……」


……なんだこれ……。



「じゃあ…、おやすみねっ…!」

はにかんだ茅吹さんが照れ隠しのように背中向きになった。

私は苦笑しながら、暑すぎるふとんを足でずり下げていく。

「は、春だからふとんいらなそうですね……」

私の対面がポニーテールに交代してる。あ、なんか見慣れた光景…。

そうだ、ここから目を落とせば、また茅吹さんの背な……、


!!!!!!


仰天した。茅吹さんの背中におとずれた変化に気づき、私は密かに目を奪われてしまう…。もはや釘付けになる…。

茅吹さんは、

走って、おぶって、また走って、スポーツドリンクで水分補給して、

たった今私とふとんの中で照れあって…。

だから今彼女は、汗をたくさんかいていて……。

セーラー服の白いブラウスが、濡ればんだ背中にぴったりとはりつき、

背中の艶やかな肌が、制服ごしに透けて見えてしまっていた……。

背中一面が濡れているため、

茅吹さんが胸に付けているブラジャー……それまでもあらわに……。

水色のブラジャーだった……。その水色のバックベルトも肩紐も、本人の関知なく晒されている。ま、まぁ、人間って汗っかきな動物らしいから…?

見てはいけないものを勝手に覗き見てしまっている。それに、さっきグラビア活動を妄想したうえで下着姿を覗き見てしまっているというのも、妙な感じで…。

私はゴクリと唾を呑み込む…。茅吹さんの鮮烈な背中に…。

うっすら見えているようでも、くっきり見えているようでもある。

今やもう私の中で、あらゆる境界が曖昧だった……。



   茅吹さん……!! 背中に気をつけて……!!!



…今日一日ずっと、この背中を見ていた気がする…。

私の目の前に横たえている媚態は、絵画のモチーフとして媚びるようにくねりをつけ、扇情的な曲線を描いている。

私はその耽美を抱きしめようとして手を伸ばし……すぐに過ちに気づく。

…私は、失敗して帰らない ―― 。

自ら閉ざすように、その手で彼女の背中をベッドに伏せる。引き倒した茅吹さんと、今度は上下で見つめ合う。

「え…? ののか…?」

「すみません。ちゃんと向き合って、今ここで伝えないといけないことがあったので」

「え…?」

「今日は私と友達になってくれて…、やばい七不思議なのに助けに来てくれて…、保健室まで背負って運んでくれて…、本当にありがとうございました」

聞いた茅吹さんは小さく笑って、

「ありがとうはこっちのほうもだよ」

横座りしている私の、所在なくしている手に、茅吹さんがそっと優しく手を重ねる。

「あたしって面白い事言えないからあんまり人と楽しく喋れなくてさ、だからののかと話してるの、すっごく楽しかったんだよ? それに、あたしが思いきってののかと一緒に寝たのって、いつもあたしが1人で寝てるからなんだ。いやまぁ、けっこうな人がそうだと思うんだけど…、当たり前ではあるんだけど…。うーん、なんて言えばいいかな…」

茅吹さんはなかなか上手い言葉が見つからないみたいで、うんうん唸っていて、

私は、茅吹さんは面白い人ですけどねと一言言ってから、彼女と並んで仰向けに寝て、友達の話の続きをじっと待つ。

ようやく彼女の口から継いで出た言葉は、


 「どうしようもないものって、どうすればいいんだろうね?」


―― そんな予想もしなかった、全然茅吹さんらしくもない、泣き言のようなものだった…。

…また意識が遠ざかる…。私は気が遠くなること考えると気が遠くなるんだって、茅吹さん…。

私は切れかけの電源をめいっぱい使って、今の言葉を受けて、茅吹さんのことばかり考えていた。

彼女の言葉の背景は不明だ。話があまりにもしどろもどろだったから。でもとりあえず私が思うのは、

私は、茅吹さんがそんな事言うなんて思ってなくて、

だって茅吹さんは、どんなに果てしない世界でも挫けない、強い人だったから。

私は…、私は勝手に彼女を、カンペキチョージンだと思い込んでいたんだ。

友達の茅吹かざねさんが、

強い理由。 弱い理由。 挫けない理由。 優しい理由。 動ける理由。 喋れない理由。

ここで言う理由とは、わけだ。何かわけがあるのだと思った。だってそうじゃなきゃ、あんな言い方しないから…。

彼女が強いのは陸上部だからとか、そんなわけないって、今さら痛烈に思い直したんだ……。

「良かった。今の、ののかには聞かれなかったみたいで……」

―――― 。



……


……ん……? 少し離れた廊下から靴音が聞こえる……。

そうだ私、学校の保健室で寝てたんだ……。近づいてきてるから、保健室の先生が帰ってきたのかも。

…でも、私が足音で起きたってことは…。

「むにゃむにゃ……はれ? ののかぁ…先生来たの?」

「起こしてごめん。今、足音が聞こえる。もし保健室の先生だったら…怖い人かも…」

保健室前まで来た足音の主は、曲がってここに入ってきた。

入口で一度立ち止まってから、このカーテンで仕切られた個室へと、ツカツカと歩いてくる。

「あたし事情話してくる…っ」

茅吹さんが靴下のままベッドから降り、カーテンをサッと開け、

その人と対面する ―――。


「あ」

「あ」

「あ」


……クラスメイトの女子だった……。それも、唯一と言っていいほど見つかっちゃいけない人……。


君臨するように腕組みして立つその女子生徒は、

見た目は小動物的だし髪もゆるふわミディだけど、人当たりは全然ゆるふわじゃない。私が今感じているのは…ブルコワです…。

個室ベッドで憩っていた私たちを、怒りに燃える炎を背に、わなわなと歯噛みして見下ろしていた。無造作な毛先は、まるでその怒気で揺れ動いているかのようで…。

そう、この人は、クラスでも人一倍気の強そうだった…。


「上津原さん……!!」


1年萌木組、出席番号3番、上津原(うえつはら)美桜(みお)さん。


「アンタたち…バカなの…?」

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