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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ビビりの最強英雄はぎっくり腰で最弱です

作者: レッド

若人のぎっくり腰持ち程辛いものは無い。

人生で1番身近な激痛は確実に歯の治療とぎっくり腰です。そんなぎっくり腰に注目してみました。

ビビりの最強英雄はぎっくり腰で最弱です


「「「「うおぉぉぉぉぉ」」」」


城塞都市アルルの城壁では勝鬨の歓声が上がっていた。


それもその筈だ。

Sランクモンスターのベヒモスが5体も土埃を上げながら攻めてきていた絶望感の最中。


その禍々しくも神々しい矛盾を孕んだオーラを放つ何者かがベヒモスをぶった切り倒して消えてしまったのだから。



アルルの街はその日から次の日の朝までお祭り騒ぎになっていた。


そう街の人、中・高ランク冒険者はお祭りをして酒を浴びて。


低ランク冒険者はベヒモスの解体に。


「はぁ、俺達も早くあっち側に行って酒飲みてぇよなぁ……」


低ランク冒険者達は愚痴を言いながらも解体をしては肉を荷台積み次々に運んでいる。


そんな中


「おらー腰抜けしっかりしろよ!」


「ひっ」


グギっ!!


ビクンビクン……


「あぁーまた始まったよイビリとビビりの演劇が」


イビリとは先輩風を吹かせる30歳近いベテラン低ランク冒険者のガバス。

つまり、落第者だ。

気の弱そうな新人を見つけてはパシリにして新人潰しをして冒険者ギルドからもレッドカードを出されるギリギリだ。


そんな中、ロックオンされてしまったのがアルルでは有名なもう1人のあだ名は最低ランク冒険者ビビりのクルト。


そう15歳で冒険者になったばかりなのに気弱でビビりでぎっくり腰持ち。


クルトはガバスに驚かせられ、ぎっくり腰になりいつもビクンビクンと大地にキスするのがお決まりだ。

クルトが標的になってからガバスはクルトのみを狙う為。他の新人のイビリが消えた。


ギルドとしては役立たずのぎっくり腰野郎を生贄にアホのガバスを抑えられるのならと目を瞑っている。


「ガバスさんサボってないないで仕事してください!クルト?貴方もいつまでぎっくり腰になってるのよ。今回は特別よ?ヒール」


そんな2人を仲裁したのは今回のギルド側からの監督官であるメアリーでAランク冒険者の聖女様である。


「あはは、すみませんありがとうございます。馬車馬の如く働きますから無賃や減俸は勘弁してください。お願いしますお願いします」


メアリーや他の低ランク冒険者は驚いていた。

クルトが言う無賃や減俸等ギルドで依頼を受けていれば存在しないのだ。


冒険者は自由を愛する。

その代わり依頼は"成功"か"失敗"の2択しか存在しないのだ。


依頼報酬を渡した後に相手側に被害があれば罰金や弁償という形で請求されるだけなのである。


これには周りもドン引きである。


「アイツどんだけお人好しなんだよ。それって中ぬ……「言うな関わるな俺達の心象まで悪くなるだろう?聞かなかった事にするぞ」」


周りはコソコソとそんな事を言う。

メアリーはこれにもドン引きしていた。


最早アルルの冒険者ギルドや冒険者には自浄作用が働いてないのである。

不正はやったもん勝ち状態なのである。


つまり、実力主義でこのクルト少年は受付嬢やギルド職員よりも力が下に見られ不正されているのである。


「ねぇ?クルト貴方無賃や減俸なのにどうやって暮らして居るの?」


メアリーは恐る恐る先程から有言実行を体現し馬車馬の如くベヒモスの肉を運ぶクルトに質問する。


すると彼はにへらと笑顔を見せて。

「受付嬢のアンネさんが特別にお金貸してくれるって借りてます!」


周りはこう思うだろう。

カモが自分の肉を切り取って毎日鴨鍋を作って献上してると。


人を疑わないお人好しとはこれ程憐れなのかとそして受付嬢ってやばい奴多いなぁ、聖女様お綺麗女神様と思っていた。


クルトは見事に騙されていた。

減俸や無賃を受付嬢に横取りされ、尚且つその横取り分を借金漬けにされた上に利子をつけられ。

十分に稼いだからと勝手に受付嬢は中ランク採取クエストを斡旋して処分、証拠隠滅しようとしているのだが。


受付嬢から見ると運が良いのかボロボロになりながらも何時も帰ってきてしまうのである。


これにはメアリーもドン引きしながら

「借金の残高はいくらなの?」

と聞いてはいけないと思いつつも質問してしまう。


「ん?えーっとこの前霊薬草10枚を納品した時に残り金貨10枚で。あ、でも利子付くからんーわかんないです。多分金貨10~20枚の間だと思います。メアリーさんこれ以上サボると報酬が無くなってしまうので行きますね?」


「え……ええ。って霊薬草ーーー!!!」


メアリーの後ろで交代して休憩していた5組のパーティも皆一様に飲み物を吹き出す。


そう、霊薬草とは中ランク冒険者でも中位~高位のベテラン勢が採取に行くクエストなのである。


1枚あたり金貨5枚で10枚納入したという事はクエスト報酬を含めても金貨60枚位にならないといけない。


金貨60枚とは低ランク冒険者上位~中ランク冒険者下位の年収である。

しかも普通の冒険者は!4~5人1組のパーティである。

つまり、金貨60枚とは1人あたり12~15枚の報酬になる。


採取依頼では破格の値段である。

普通はその他にも魔物を狩って素材や魔石を採るのでもっと報酬は多くなるのである。


皆が皆、クルトを見つめる。

「あ、あいつ最低ランク冒険者じゃなかったのかよ……」


クルト、最低ランク冒険者と揶揄される正真正銘のEランク冒険者である。


ビビりで度々ぎっくり腰になってはパーティーメンバーに迷惑をかけて首切りに合うスペシャリストでもある。


「いや、あいつ前に見かけたけど。魔物と接近する前に誰かがしたくしゃみに驚いてぎっくり腰になってたぞ?」


「だ、だよな……」


「「「あはははは…………」」」


そう気付いたのだ。

そういえばクルトの戦闘シーンを誰も見た事が無いのだ。

彼が怯えるのは人間だけなのである。


「こらぁクルトてめぇもっとキビキビはたらぇーこらぁー」


「ひぃぃぃすみませんすみません。ガバスさんすみません」


「よし、しめしめこの部分は俺が運んだっと」


堂々と不正をするガバス。

それを見た周りは


「「「「クルトが強い訳無いな……」」」」

そう納得したのである。




解体が終わったのは深夜帯である。

低ランク冒険者達はゾロゾロと達成受領印を受付に貰いに行っている。


クルトは最後という暗黙のルールを守り皆が終わるまで待っていた。


結局クルトだけは1度も休憩を取らずにベヒモス解体と運搬に勤しんだ。


「ちっ、血臭いなぁ」

男性ギルド職員に文句を言われビクビクするクルト。


「ヒィッすみません。受領印お願いします」


ニヤニヤしながらギルド職員は

受領印を押し最後に捻った。


達成受領印は掠れる程度なら問題は無いが読めなかったり、この様に捻られ判子模様をぐにゃぐにゃにされると不正印として扱われる。


「ほらよさっさと帰れ。次の仕事が控えてんだからよ」


「はっはいぃぃぃ」

ペコペコとお辞儀をしてクルトは走って去って行く。

馬車はクルトを待たずに出発している為歩きでの帰りだ。


「ふん、馬鹿だなアイツ」

ギルド職員はもう1枚取り出し達成受領印をしっかりと押した。

架空の冒険者への依頼書だ。


「ボーナスボーナスゥゥ!」

上機嫌で彼らは撤収作業に入り馬車に道具を乗せて出発した。


すぐに小走りで走るクルトの横を通り抜け追い越しバカにする。


「職員も暇じゃねぇんだから待たせんじゃねぇぞーーギャハハハ」


職員3人のうち御者をしていた1人だけふと気付く。

「アイツそういや、さっき出たのに早いな。逃げまくってるから足腰だけはつよいのかもな」


そうクルトを追い越した場所はアルルとベヒモスの距離の中間地点だった。


あまり距離が離れてないとは言え8キロメルはある。

5キロメルで大体歩いて半刻掛かるのだ。


なのに4半刻位であの位置に居るとなると足が早いとなる。


その頃クルトは職員達が追い越した時点で自分が急ぎ過ぎてた事に気付きトボトボ歩いていた。


「乗せていってくれたって良いじゃないか……」


『だから言ってるにゃ、クルトはお人好しすぎるんだにゃ。もうあんなクソ共捨てて精霊の国に行こうにゃ!』


黒猫がフワフワと浮きながらクルトの周りを浮遊して体にスリスリしている。


『フンギャャーフシャァァァ!また風の精霊に匂いつけられてるにゃ。クソにゃペッペッ』


「クロ、女の子なんだからそんな汚い言葉使っちゃダメだよ?ほらおいで」


クロを手招きして抱き寄せると撫でてあげる。


『ふにゃ〜今回は許してあげるにゃ。にゃつらもクルトの手伝いしたかったみたいにゃしね……』

ゴロニャーンと喜び、ゴロゴロと喉を鳴らすクロ。


「ベヒモス解体してた時に切れ味が良くなったり、肉が軽かったりしたのは風の精霊のおかげか。相変わらず見えないんだよなぁ」


『そりゃそうにゃ、普通の精霊眼持ち以外で見えるのは上位精霊くらいにゃ』


この精霊クロは実は闇の精霊王である。

契約精霊ではないが気に入られてよくクルトの周りに来ては縄張り主張をしている。


猫の姿なのは、人型も猫型もどちらも本当の姿で尚且つ人型だと要らぬトラブルを散々引き起こしたからである。


そもそも人型だとクルトがカチンコチンに緊張してしまい一言も喋れなかった為の配慮でもある。


「はぁ〜今日も野宿かなぁ……」

そう言うとクルトは目の前の門をギルド職員が通り抜けた後、閉まり始めたのである


『は!?またかにゃクルトいい加減捨てようにゃこんにゃ所にクルトを置いておけないにゃ!』


「う〜んでもなぁ。借金返し終わってないんだよなぁ……」


クルトを縛っているのはまさかのクルトの報酬を使いクルトの借金になっているお金だった。


それから一刻後にクルトは門に着くもやはり閉まっていた。


「仕方ない、修練に当てるか。クロ頼めるかい?」


『任せるにゃ!クローズド』


クロの使った精霊魔法は視界妨害魔法である。

これは父の教えを忠実に守るクルトの意地であった。


ーー(おとこ)なら努力してる姿を見せるもんじゃねぇ。

ーー(おとこ)なら正体を見せるもんじゃねぇヒーローは誰だかわからん方がかっこいいだろぉ?


強さを侍らせて金金言う漢はダセェからな!ガハハ

と笑みを浮かべ語っていた父の姿を思い浮かべる。


「流演舞《焔》、開始」


アイテムボックスから大剣を取り出し大剣に炎を纏い綺麗な舞をするクルト。


最初は大きく滑らかに、時が経つほどにその姿は小さく素早く炎のゴォという音を置き去りにし始める。


『綺麗だにゃ〜……クルト!黒葬が見たいにゃ!私が居るし夜なんだから何時より簡単にゃ!』


「ふぅ、苦手何だけどなぁ。わかったよ手伝ってくれるクロ?」


『任せるにゃ!魔力解放』


クロが魔力を解放すると闇の精霊達が集まってくる。


「流演舞《黒葬》」


大剣が瞬く間に黒剣に変わり、演舞をすると、剣筋に黒い線が描かれ次元が切れる。


突きを放てば重力の収縮が起きテーマパークだぁと闇の精霊達が飛び込んで来る。

クルトが放つ魔力+クロの補助で闇の精霊達の魔力と同調出来る為傷付く事は無い。


魔物や人間、質量のある物がその筋に入れば塵芥に一瞬で変わる事は間違い無いのだが。

精霊達からすればあっちにこっちにと引っ張られジェットコースター気分なのだ。


2刻程汗を流すと空が白んできた。

そこで演舞を止め、クロに周囲の警戒を頼み。

クルトは木の上で寝る事にした。


さらに2刻程眠ると完全に朝になり、門が開いたのでクルトは驚かれながらもアルルの街の中に入り冒険者ギルドへと向かうのであった。




冒険者ギルド

どの国にも関わらない帰属しないかわりにどの国でも侵略戦争以外の依頼は受ける組織。


S〜Fランク冒険者までのランク付けをして依頼を振り分ける組織である。


大まかな強さの指針がある

Sランク:1人で国難に対応出来る人材

Aランク:1人で都市の苦難に対応出来る人材

Bランク:1人で都市の中規模の苦難に対応出来る人材

Cランク:1人で都市の小規模の苦難に対応出来る人材

Dランク:1人で村の苦難に対応出来る人材

Eランク:1人で個人の苦難に対応出来る人材

Fランク:見習い試用期間


対応出来る人材とは言え依頼内容によってランク振り分けされる。

他にも全員EランクでもDランク冒険者パーティーと力を合わせるとランクが上がる冒険者や特化型の冒険者。特殊ランク冒険者等が居る。


特殊ランク冒険者はある一定の内容の依頼において超法規的にランクを1時的に上がるシステムである。


俺はそんな中でEランク冒険者まぁ、試用期間が終わったばかりのルーキーである。


「ふう、やっと戻って来れた」


受付の方を見るとアンネさんが居たのでそこに向かう。


「おはようございます。依頼達成の報告に来ました」


昨日貰った依頼達成受領印の入った用紙を渡す。


アンネは不機嫌そうにそれを見ると机に捨てた。

「あ、アンネさん?、」


「達成受領印はちゃんとしっかりしたハンコ貰いなさいって教えたわよね?はい、不正印受理できません」


俺はすぐに依頼書を確認するとブレて押されていて、不正印ギリギリだった。


「え?でも、今回の依頼はギルドですよね?なら不正印でもここで押し直してくれれば……」


食い気味でアンネが言い返す。


「はぁ?何で昨日処理した依頼をあんたの為に掘り返さないといけないのよ?あんたが依頼をちゃんとしたのか今日休みになってる職員の家まで行って確認して来いとでも言うの?バカじゃない。はい、次の方邪魔だから」


手をしっしと振り払って後ろの冒険者に横に追いやられる。


「そんなぁ……」


もう俺は泣きそうだった。

毎度毎度、何かに付けてお金が貰えない減額されるのだ。


他の人は同じ事をしてお金を稼いでいるのに俺はその数倍持っていってもお金が貰えないのだ。


「ダメだ……死のう。もういいや」


フラフラっと立ち上がり俺は外に出ようとした。


「きゃ!」

扉を開くとそこにはメアリーが居て驚いていた。


「……」


俺は何も言わずに幽鬼の如く会釈だけをして立ち去ろうとした。


「ねぇ?クルトどうしたの??」


メアリーは異常を感じクルトの手首を掴み捕まえた。


「……死にたい。もう死にたいので離してください」


「!!!」


あんなに必死に頑張って居たクルトが1日経ってそんな事を言うなんて異常事態だった。

しかも先程からクルトの周りに棘刺す程の魔力が渦巻いているのだ。

高ランク治癒魔法を扱う時に精霊の力を借りるメアリーには精霊が怒っている事に気が付いていた。

このまま行くと精霊達からの虐殺が始まってもおかしくない程の殺気が放たれて居るのだ。


すぐにそのままお店に入り話を聞く事にしたのだ。


クルトはポツリポツリと今までの事や先程のアンネとの事。

もう疲れた事、お金が無くてお腹がいつも空いてる事、野宿ばっかりしてる事、対人恐怖症でビビりのせいでぎっくり腰ばかりしている事を話した。



メアリーは呆れるしか無かったのだ。

話を聞けば聞く程クルトほ最低ランク冒険者ではなく中ランク冒険者なのだ。


依頼内容がD良くてBランク下位の依頼まで受けているのだ。

しかもソロで。これで金が無い方が異常なのだ。


「ねぇ?クルト。その依頼書私にくれない?」


「え?」


優しく微笑むメアリーはクルトの隣に座り話しながら泣くクルトを撫でて落ち着かせながら。


「私が貴方を救うわ、だからもうちょっと生きてみない?ダメかなぁ?」


そんな質問をすると、クルトは急に顔を赤くしキョドり出す。


「ん、えっと、その依頼書はあげます。生き生きてみまふっ、ふぐぅ」


ビクビクしていたクルトはまたやったらしい。


メアリーはクスクス笑いながらも。

「もう興奮しすぎよ。落ち着いてねヒール」


と治癒魔法をかけてくれた。


「あり、ありがとうございます」


「クルト今日はどこの宿に泊まるの明日連絡するのに教えて欲しいのだけれど?」


「あ……お金が無いので多分スラム街で野宿です」


最後の方はボソボソと話すクルト。


「なら私の使ってる宿に行きましょう。もう1部屋借りるからね?ダメかな?」


こんなに優しくして貰った事の無いクルトはすぐにメアリーに好意を抱いていた。


「ダメじゃ無いですぅ……」

顔を真っ赤にして俯きながら答えるクルト。


「クルト……チョロ過ぎない?お姉さん心配何だけどなぁ」


とメアリーに笑われてしまうのであった。



連載版にするならば。

受付嬢のざまぁからスタートですかね?


お読み下さりありがとうございました。

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