邂逅
思い付きで書き始めてみました。
趣味全開ですので、よろしくどーぞ。
紅く光る刀身
朱に染まった顔
赤い血が作る水溜
人がいる
一人だけいる
周りに何かはある
それは人だったもの
果たして何があったのか
わかるものは一人だけ
一人だけがそこにいるのだから
「さあて、よってけよってけ、安いよぉー」「新鮮な肉はいかがかねー」「よってきなー」
「…」
賑やかな朝の喧騒が頭に響く。身体が重く節々も痛いが、それは周りが関係なく、昨日の自分のせいだと解っている。酒の飲み過ぎ、喧嘩に、路上で起床。
だが、この苛立ちを自己完結は無理なようだ。
「うるせぇー!」
立ち上がりあった木の棒を取り上げて、すぐ近くの場所で声を出してる男に向かっていく。
「ぶっ殺す!」
木の棒を振り落とす瞬間自分と男の間に人が現れた。咄嗟の事で驚くが誰でも良いと思い直してそのままの勢いで殴ろうとしたが。
「…」
しかし自分が浮いていることに、そして背中に衝撃を感じる。つまり自分が投げられたのだと今になって気付く。
その時世界は静まる。人が投げられたから、ではなく。この者がここにいることに、この世界に静寂が訪れる。
受け身も取らずに地面に落ちたら当然すぐには起き上がれない。
息が苦しい中自分をこんなにした人物を見てやろうと、睨み付けながら上を見ると
「…」
黙って見下ろす目と視線がぶつかり、その男の青く澄んだ目に、あまりにも澄みすぎた青色の目に恐怖を覚え、そして気付く。気付くと同時に気を失った。
「…」
気を失って良かったのかは誰もわからない。起き上がれたとして果たして何ができたのか。この男を前にしていったい何ができたというのだろうか。
さしたる興味はなく、ただただ見ていただけの男が、そのまま何もなかったように歩いていく。
「どうかされましたか?」
その男が止まっていたことに気付き追いかけてきた男が質問した。
「いや、何も」
特に気にした様子もなく、そのまま歩いていく。
「そうですか。では先を急ぎましょう。待ち合わせの時間に遅れます」
「ああ」
歩いていく。速度は変わらず、ただただ歩く。
着込んだ服の色は濃い青一色の袴。
この世界に生きる人間は知っている。
青の袴は許される者、青の目は異なる者、そして揃うは
「死を認め得ぬ者」
その騒動を見る男がいた。
青き男が歩く先を見つめながら、赤き目をした男は語る。
「死を認め得ぬ者。それを誰もが知ってはいるが、実際を知ってはいない。そう言われ続けている、世迷い言かもしれん。だが、事実だとすれば、良いことなのか良くないことか。だが、世界はそれを求めている、否。人が欲している、か。如何なる想いで、どこへ行く。俺には分からぬ、故に知りたい。だが、知るのもまた今ではない、か。はたまた知り得ぬ、か。先を思うは人の望みか願いか絶望か。果たしてどうなるや、青の者。ふっ」
語りをやめた男がその場を去りし時、遠く離れた青き男が振り返る。
「…」
「どうしました?」
「いや、何も」
青き者に追従する男は不思議だった。何もないと言っていた。だが足を止め、確かに振り返り笑っていた。いや、笑っていたというほどではないが、いままで共に歩いてきた中で初めての表情の変化があった。興味が湧いた。気になった。だが、聞けない。いったい何を笑っていたのですか、と。聞けば良い。だが恐らくは何もないと言う。何もないと先程答えを聞いているのだから。
「参りましょう」
だから先を促す。自分の役目を果たす。それが自分の為であり世のためと信じているから。
「…生を認め得ぬ者。さて何処で会おうぞ、赤の者」
先を進む追従の男に聞こえぬ声で語り、だが声の弾みは聞こえた者がいたらば歓喜と感じているほどの吐息であった。
先を歩く者に続いて歩く青の者。
青の者を見やり去りし赤の者。
青と赤、二人の男の邂逅。語るべくは、未だ無く。
だが邂逅したことが始まりか、全ての、否、終わりへか。
物語が終わりに向かい始まる。