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099 褒美

 許欽は寝台の上で上体を起こしていた。


 結構な怪我なので本当は横になりたいが、骨折と刺し傷のせいでそれも辛かった。


 肋骨の骨折は部位によって楽な姿勢が異なるが、許欽の場合は横向きやうつ伏せで痛みを感じた。


 唯一肋骨が痛まない仰向けになると、今度は背中の刺し傷が痛む。


(地獄だな……)


 医師からは全治二ヶ月ほどだと言われた。


 聞いたときはこれだけの傷が二ヶ月で治るのなら早いものだと思ったが、まさか五十日もこのままだと思うと暗澹(あんたん)たる気持ちになった。


「欽兄ちゃん、横になる時は背中の傷周りにこの布当てたらいいんじゃないかな?それから、少し角度をつけてみたら楽かも」


 芽衣はそう言って上半身が少し起きるような形に寝台を調整し、傷が下につかないように穴を開けたような形に畳んだ布を背中に敷いてくれた。


「……ありがとう、これはだいぶ楽だよ」


 許欽に礼を言われ、芽衣は嬉しそうに笑った。許欽はその笑顔をいつにも増して可愛いと思った。


 許欽は結構な重症だったが、芽衣の傷は多少の切り傷と打撲だけだった。


 激しい疲労でしばらくは動けなかったが、許欽と共に板に乗せられて街まで運ばれる頃にはだいぶ回復していた。


 まだ体はずいぶん重いが、動けないほどではない。許欽の治療が終わってからはずっと付きっきりで世話を焼いている。


「若いっていうのは良いわね」


 花琳はそう言っていたが、単一の意味ではなかったろう。


 今日は念のため軍の医務室に泊まるよう指示されていた。そう言われたのは許欽だけで芽衣は帰ってよかったのだが、自分も泊まると駄々をこねたためそうすることになった。


 すでに花琳たちは帰ったため、部屋には二人だけだ。


 許欽は芽衣をじっと見つめ、その髪を撫でた。小さい頃からそうされると芽衣は喜んだし、自分もそうすることが好きだった。


「芽衣、今日は本当にありがとう。芽衣が来なかったら私はもう息をしていないはずだ」


「褒めて褒めて。もっと褒めて。それから何かご褒美をちょうだい」


 許欽は苦笑いした。


 もうあんな無茶はして欲しくないというのが正直なところなので、あまり褒めたくもない。


 しかし、無邪気にこう言われると何もあげないわけにもいかなかった。


「そうだな……じゃあ、芽衣の欲しいものなら何でもいいよ。何だって、好きなものをあげよう」


「本当?じゃあ、そうだな……」


 芽衣は許欽の寝台に腕とあごを乗せて首を傾げた。少し考えてから、上目遣いに許欽を見上げる。


「私の幸せ家族計画だと、そろそろ赤ちゃんが欲しいんだけど……」


 許欽の頬は引きつったように吊り上がった。笑おうとしてみるが、妙な顔にしかならない。


 二人は目を合わせたまましばらく沈黙していたが、許欽はあきらめたようにため息を吐いた。


「……分かったよ。結婚しよう。私達は芽衣が生まれた時からずっと一緒にいるけれど、これからもずっと一緒にいて欲しい」


 その言葉を聞いた芽衣は跳ねるようにして立ち上がった。そして少しだけ間をためてから、人生で一番の笑顔を見せた。


「やったぁ!!」


 歓声を上げて許欽の胸に飛び込み、強く抱きしめた。


 しかし、許欽は肋骨が折れている。言葉にならない叫び声を上げた。


 翌日、医師の診断は全治二ヶ月から二ヶ月半に延びていた。

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