表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/391

074 揚州

「許靖、よく来てくれたな。揚州(ようしゅう)はお前の思っている通り、中央近辺よりも安全だぞ。ここでゆっくり……」


 陳温(チンオン)はそこまで言ってから、急に咳き込み始めた。強い咳で、なかなか治まる気配がない。


 許靖はその様子に、猛烈に嫌な予感がした。孔伷(コウチュウ)がしていたのと全く同じ音のする咳だった。


 許靖はその咳が落ち着くまで待ってから尋ねた。


「陳温、医者には診せているのか?」


「なに、大丈夫だ咳くらい。世には恐ろしい戦が満ちている。これくらいで医者にかかっていては揚州刺史など務められんよ」


 陳温は白い歯を見せ、豪快に笑ってみせた。


 まるで雷でも鳴っているかのような大きな笑い声だ。体格も良いので、咳をしているくらいでは病人には見えない。


 しかし、許靖にとっては大切な知人を死に至らしめた咳と同じに聞こえるのだ。


「陳温、悪いことは言わない。早めに医者にかかってくれ。この戦乱の時代に、お前に何かあったら州の民はどうしたらよいのだ」


 自分も揚州の民になる予定の許靖にとって、切実な願いだった。


 が、陳温は大柄な腕を振って許靖の言葉をかき消した。


「心配などいらん。ただの風邪だよ。そもそも儂はこの齢まで風邪すら引いた事のないほど頑丈な身体をしているのだ。見ての通り、元気だよ」


「なら余計に今の咳には気をつけなければならないだろう。今までになかったことが起こっているわけで……」


 許靖は口を動かしながら陳温の瞳を見て、どのように言えばこの豪快な善人を医者にかからせられるかを必死に考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ