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三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地〜 家族愛の三国志大河  作者: 墨笑
短編・中編や他の人物を主人公にした話
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小覇王の暗殺者 最終話

 孫策は三人の記憶から決して消えない姿を残し、馬を駆けさせて去った。


 その背中が見えなくなってから、魅音がポツリとつぶやく。


「……これからどうしよう」


 この一言に、雲嵐は小さくない苛立ちを覚えた。


 魅音が無茶をした結果としてかなり危うい事態に見舞われたのだが、その謝罪は何もないのか。


「おい、魅音……」


「交州なんかどうかな?」


 機先を制すように、許安がそう提案してきた。


 それで雲嵐は妹への苛立ちをいったん納め、許安の方を向いた。


「交州?……って、最南端のか?」


「そう、その交州。孫策はああ言ってくれたけど、やっぱりこの辺りにこのまま住み続けるのはちょっと怖いだろ?だからいっそのこと端っこまで逃げて、そこで落ち着いた生活を送ろうよ」


「うーん……でも交州か……半分異民族の土地みたいな印象だけどな」


 雲嵐の抱いている印象は、この時代の多くの人間が持っていたものだ。


 交州は前漢の頃に征服されて編入された土地なので、漢民族でない民族も多かった。また中央からかなり離れているため、その文化も十分浸透しているとは言い難い。


 許安もそれは知っているが、その一方で多くの知識人たちが戦を避けて交州へ移住しているという話も聞いていた。


「だからこそ、この乱世でも比較的安全だって話を聞いたよ。実際、多少のゴタゴタはあっても大きな戦にはなってないらしい」


「そうなのか。でもせめて、そこで頼れる人でもいないと……」


「雲嵐は許靖様を覚えてるか?」


「許靖様?……ああ、よく覚えてるよ。許貢様の友人で、人物鑑定で有名な人だろ」


「そうそう。その許靖様が交州に避難されてるんだよ。頼りになる方だから、そっちを目指して動いてみるのもいいんじゃないかな?」


 そこで初めて魅音が口を挟んできた。


「最南端ってことは、交州は暖かいの?」


 この猫娘は本物の猫同様、寒いのが苦手だった。


 それに許靖が優しいおじさんだということはよく覚えている。


「ここよりだいぶ暖かいらしいよ。真冬でも秋くらいの寒さだって聞いたけど」


 許安の言葉に魅音は目を輝かせた。


「よ〜し、じゃあさっそく帰って準備しよう〜」


 上機嫌にそう言って、さっさと歩き始めてしまう。男二人の話し合いなどこれ以上聞く気もないようだ。


 雲嵐と許安は顔を見合わせて苦笑した。やれやれと思いながら、自由人の後を追う。


 それから三人はふと、同時に空を見上げた。


 よく晴れた、美しい空だった。


 自分たちがこれから行く道に不安がないわけではない。


 それでもこの空の下で家族と共に生きていけるなら、きっと幸せだろうと思った。

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