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204 慈しみ
戦時中ということもあり、ごく短時間で全ての官吏たちは集合した。
突然の呼び出しに何事かを感じているのか、誰も口を開く者はいなかった。皆、沈黙して劉璋が現れるのを待っている。
許靖もその一隅にいた。
街の噂になるような事をしたのだから気になる者もいただろうが、それほど好奇の視線は感じなかった。それよりも、これから起こる何事かに注意が向けられているようだった。
しばらくして劉璋が現れた。上に据えられた一段高い座につく。
皆が見つめる中、ゆっくりと口を開いた。
「私はもはや、民を苦しめたくありません」
その一言で、その場にいた全ての人間が降伏と終戦を理解した。その一言が、劉璋の心からの本音だということを皆が理解していたからだ。
涙を流す人間も多かった。皆、この民思いで優しい刺史が好きだった。
許靖も泣いていた。乱世が憎かった。優しい刺史が役目を終えねばならない、この乱世が心の底から憎かった。
劉璋が益州刺史を拝命しておよそ二十年。
民への慈しみの言葉とともに、この地における一つの治世がその幕を閉じた。




