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112 連環

 翌日の明け方、芽衣は握っていた許欽の手から力が抜けるのを感じた。


 もうずっと握り返してはこなかったので芽衣が一方的に握っているだけだったのだが、それでも何かが消えていくのを感じた。


 芽衣は背中に冷水を浴びせられたような感覚を覚えた。一晩をかけて覚悟をしていたつもりだが、それでもやはり受け入れられるものではない。


「いや……だめ!いかないで!」


 芽衣は叫び、許欽へと覆いかぶさるようにして顔を近づけた。


 やはり息をしていない。


「待ってよ!お願いだからもう少し……」


 そう言って、隣りで寝ていた春鈴(シュンレイ)許游(キョユウ)を許欽の胸へ乗せた。


「ほら、あなたの子供たちよ!もう少しいてあげて!」


 芽衣は何度も呼びかけた。


 その叫びで起きた外科医が、部屋へと入って来た。許靖たちも見守る中、無言で許欽の脈をとる。


 そして無言のまま、首を横に振った。


「いやぁ!!」


 悲痛な叫びが部屋に響き渡った。


 芽衣は許欽の顔を両手で挟み、その上に涙の雫を何滴も落とした。


「お願いよ……あと一回、あと一回でいいから声を聞かせて……あと一回でいいから、この子たちに話してあげてよ……」


 許欽の目頭に芽衣の涙がたまり、その涙が筋を作って流れていく。


 その時、許欽の目が薄っすらと開いた。


 芽衣は幻を見たのだと思ったが、許欽の顔は芽衣を見てはっきりと微笑んだ。


 そして脈の止まっているはずの腕を持ち上げ、妻と子供たちとを抱きしめた。


「芽衣、春鈴、游。大好きだよ」


 それだけを言うと、許欽の腕は急速に力を失って芽衣から落ちた。


 芽衣はまた泣いた。許欽の顔に涙を流し続けた。しかし、許欽の体が動くことはもう二度となかった。


 芽衣は日が昇りきってもまだ泣き続けていたが、二人の赤子は父と母の体温に包まれて心地良いのか、幸せそうな寝息を立てていた。

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