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冒険者撃退

 翌日、とうとうダンジョンを狙って敵がやってきた。本当に敵が来る頻度やべぇな……。


 ギンに聞く限り、来たのはどうやら勇者ではなく一般の冒険者らしい。もし勇者が来ようものなら俺に構う余裕をなくした魔獣達が俺を殺していたかもしれないし、一般冒険者だったのは僥倖だ。


「じゃあギン、さっき言った通りに頼むぞ」

「ん、任された」


 隣にいるギンに指示を出すと、彼女は勢いよく頷いた。なんとか恩返ししようという気概が見えて、とても頼もしい。


 人の敵に回っていいのか、という迷いがないといえば嘘になる。

 しかしギンを痛めつけていた勇者のことを思い出すと、人間側につくほうが余程ありえない選択肢のように思えてしまうのだった。


「あれが冒険者ってやつか……」


 ダンジョンにやってきた冒険者たちはギンに説明されるまでもなく、装備からどんな役職に就いているのかを推測できた。

 三人のうち一人は鎧を着込み、大盾を手にした騎士。残り二人はローブを着込み、杖を手に持つ魔術師だ。


 一見するとバランスの悪そうな組み合わせに思えるが、この世界の情報が少ないので実際どうなのかは分からない。

 【ウィザーズ・デスマッチ】は魔法使い同士のバトルロイヤルだったので、そもそもジョブの概念がなかったのだ。


「なんでこの世界に似せたゲームがああなったのか気になるけど……今はそれどころじゃねぇか。よしギン、そろそろだぞ」

「うん!」


 俺達は現在、ダンジョン入り口の正面にある茂みの中に隠れて冒険者を観察している。

 これまで魔獣は後ろからの奇襲などを行ってこなかったようなので、冒険者たちはダンジョンだけに意識を集中させていた。相手が攻め気でいる時こそ、奇襲の絶好の機会だ。


 とはいえ背後から奇襲しても、相手の体勢が整うまでに倒せるのは一人が限度だろう。だから残りを倒す方法は、別に考えてあった。


「よし、今だ!」


 完全に意識をダンジョンに向けている冒険者達に向かって、俺の合図を聞いたギンが駆ける。最初の一撃は、打ち合わせ通り魔術師の一人に当てることが出来た。


 ギンの技、ドレインバイト。隔絶の勇者にも使った技であり、相手の力を奪って弱体化させる噛みつき攻撃だ。その弱体化能力は相当で、長期戦にならない限りは一人仕留めたも同然である。


「なっ、背後から!? ち、魔獣のくせに小癪な……!」


 やはり魔人がダンジョンの中以外で待ち伏せをするなど思ってもみなかったようで、騎士の男が苦い顔で叫んだ。今更にも鞘から剣を抜き放ち、彼はギンを攻撃しようとする。


「グルルル……。戦わ……ないっ!」


 彼女は思わず応戦しようとするが、俺が予め言っていた作戦を思い出したのか、騎士を無視してすぐに退いた。さっきまでいた茂みの方向へと駆け出し、またも姿を隠す。


「なんだ? また待ち伏せするつもりか? ふんっ、所詮は獣の頭だな」


 またギンが同じことをすると見越して、騎士が鼻で笑った。だが魔人を馬鹿にはしつつも、彼は追撃を仕掛けない。それは偏に、ギンが魔術師を状態異常にさせたからである。


 一人が動けなくなりしかも追撃が来なければ、まだ死んでいない仲間を放置してギンを追うという選択肢がなくなる。負傷者の回復を待つか負傷者を放置して逃げた方が効率が良いからだ。

 敢えて殺さない。こうすることで、彼らの選択肢を二択にまで減らせるのである。そして、それがギンの能力を最大限に活かす方法でもあった。


 彼らは負傷者の回復を待つようなので、今の内に俺は茂みを出て、冒険者たちに見つからないように隠れながら移動した。その間ギンには動かないよう言ってあるので、彼らは今、俺の足音をギンが移動している音だと思っているだろう。


「ふんっ、流石に同じ手は通じないと悟ったか……。もう破れかぶれの特攻しか手はあるまい……」


 冒険者達は俺の足音に警戒するが、その分ギンのいる方向には無防備になっている。作戦が上手くいきすぎて、俺は思わず笑いそうになった。代わりに、相手に聞こえないよう小声で呟く。


「ここまでは順調だな。どんなに下らない作戦でも、相手の意識を逆手に取れば通じるもんだ」


 【ウィザーズ・デスマッチ】から得た経験のお陰で、相手の判断を逆手にとるのはお手の物だ。


 防御力の低い魔術師は最後尾に置き、仲間が倒れれば追撃は控え、魔獣の足音は意識する。このように相手が理性的に立ち回る限り、逆に隙を突くのは簡単になる。俺はそれをギンに教えたかったのだ。


 今俺がしている準備というのも、ただ木と木の間に蔦を張り転ばせやすくするという簡易な罠。しかし冒険者がさっきまで通った道に重点的に設置することで、先ほどまではなかった罠に彼らが引っかかる可能性を高めている。


「おあずけした分、全力で噛むっ!」


 そして俺が5つほど設置し終わったタイミングで、再びギンが冒険者達のところへと飛び出した。


「な、なんだとぉぉぉぉ!? 足音を消して移動したのか!? それともまさか、二体いるとでも言うのか!?」


 騎士が今更俺の存在に気が付いたようだが、もう遅い。


 草むらの影から覗いていると、ギンが魔術師の内残った一人に噛みつき絶命させるのが見えた。もう敢えて殺さない理由はないという判断だろう。


「くそっ……! 魔術師に頼った俺が馬鹿だったか!」


 騎士は捨て台詞を残すと、一切の躊躇なくその場を離れた。最初にギンの攻撃を受けた魔術師はまだ生きているが、見捨てて逃げるつもりのようだ。


 しかしギンには俺のいない方に位置取るよう伝えていたので、彼が逃げるにはもと来た道を辿るしかない。そしてその道には、俺と俺の仕掛けた罠がある。

 騎士は案の定、さっきまではなかった罠に躓いた。


「なんで魔獣の分際で、罠なんか……! いや、そもそも、ここまで裏を掻けるのは一体……」

「よう」


 動揺しながら叫ぶ騎士に、俺が真横から声を掛けた。下手に接触する必要はなかったのだが、ギン達を完全に馬鹿にしているのが我慢ならなかったのだ。


 声を掛けられた騎士は、驚きを隠せぬままガバッと顔を俺に向ける。


「人間!? ま、まさかお前が入れ知恵を……!?」

「あぁ、そうだ。そんな俺から、一つだけ忠告させてもらうなら……」


 一拍置いて、俺は騎士に語りかける。


「あまり魔人をなめるなよ?」


 直後、彼は全速力で追ってきたギンの餌食になった。こりゃぁ、俺の罠がなくても逃げ切れなかっただろうな……。


 眼前で繰り広げられる食事風景がグロすぎたので、俺は全てから目を逸らした。


「やった、みんな倒したよ! しかも美味しい!」

「味の報告はいらないけど……俺も安心したよ。この調子なら、これからも頑張れそうだな」


 今回は冒険者側の油断を突いただけだが、ギン達の身体能力と知略が合わされば怖いものはない。他の魔獣達も協力してくれるようになれば、もっと色々な戦い方が出来るようになるだろう。


 俺は抱きついてくるギンの頭を撫でながら、【ウィザーズ・デスマッチ】並のやり応えを感じるのだった。

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