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憧れのステータス画面

 無茶なことを言ってしまったが、どうにかして約束を守らなければ殺されてしまう。


 少しでも活用できるものを探すため、俺はギンと一緒にダンジョンの中を見て回ることにした。


「罠はなくても、侵入してきた冒険者を倒すための工夫はあったりしないのか?」

「ない! 来たら倒す! それだけ!」


 一縷の望みを抱いてギンに尋ねると、とても元気よく否定されてしまった。


 うーん、元気なのは良いことだけど、良くないなぁ……。


 ここに住むことになったらダンジョンから改良しなければいけなさそうだが、今はそれどころじゃないので後回しにしよう。


「何か使えるものがあると良いんだけど……」


 辺りを見回しながらダンジョンの奥へと進む。すると正面の通路に、いくつもの動く影を見つけた。

 尾がやたらと大きい、地を這う生物。サソリに似ているものの、尾が三本もある。


 俺の事情はテラから聞かされているはずだが、やはり魔獣は人間や魔獣を良くは思っていないようだ。こちらを見ると、威嚇するように鋏を向けてきた。


「あれはトリプルテイル・スコーピオン。それ以上は魔獣の区域だから、近づいちゃダメ」


 ギンが少しだけ暗い顔で、俺に忠告してくれる。


 ビックリするくらい安直な名前だ。しかし俺はそれ以上に、目の前にいきなり現れた電子板のようなものの方がよほど気になった。


「これは……ステータス画面……?」


 今までは全く見えなかったので一瞬戸惑ったが、種族名と技の名前が列挙されたそれは、いわゆるステータス画面そのものだった。


 もしかして頑張れば皆のステータスを覗けるのか? そう思いながら、ギンを振り返る。出ない。サソリをもう一回見る。出た。


「どうしたの? 空腹で幻覚見えてる?」


 いきなり挙動不審になった俺を、ギンが不安そうな顔で見つめてくる。やけに独特な心配の仕方だけど、ギンはたまに幻覚を見るのだろうか……。


「いや、なんかサソリにだけステータス画面が見えるんだよ。ギンやテラのやつは見えないのに」

「すてぇき?」

「ステータス画面な。ステしか合ってないじゃん」


 食欲旺盛すぎるギンが首を傾げるが、説明しづらいので見えている文字をそのまま口に出した。


トリプルテイル・スコーピオンlv.4

・ポイズンテイル

・ミサイルテイル

・ヒートテイル

・テイルムーブ

・伸縮尾

・優先修復


 技名だけでなく、意識を集中すれば技の詳細まで見ることが出来た。


 どうやら三本の尾にはそれぞれ違う特性があり、それぞれの位置はテイルムーブという技で変えられるようだ。

 三種の尾で攻撃しつつ、尾の位置を入れ替えて相手を翻弄するのが基本戦法なのだろう。


 また、漢字で表示されているのはパッシブスキルのようなものらしい。尾が伸び縮みする伸縮尾と、尾を優先的に回復する優先修復はこいつ自身の特徴を表している。


「うぅん、知らない……」

「やっぱりステータスが見えるのは、異世界転移の特典か何かなのかな。それにしても、魔獣の生態ってすげぇななんか! 進化の歴史を感じる! うひゃあ!」

「タケルだけ楽しんでて、ずるい」


 いきなり騒ぎだした俺を見てギンがむくれるが、俺は元々普通のゲーマーなので許してほしい。ステータス画面とか、見るだけで興奮しちゃう人種なのよ。


「魔獣のステータスが見られるなら、同じ要領で自分のやつも見えそうだけど……。お、見えた!」


 同じ調子で自分に意識を集中させると、ようやく自分のステータスを見ることが出来た。


人間lv.1

・疾風属性lv.2

・支援属性lv.2

・知覚属性lv.1


 見えてきたのは魔獣と違い、【ウィザーズ・デスマッチ】の初期ステータス画面そのものだった。属性というのはどの魔法に適性があるかという指標だ。


 【ウィザーズ・デスマッチ】ではこの属性を基準に魔法を覚えていくものなのだが、今はどんなにステータス画面を突いても魔法を覚えられない。宙に向かって指を連打させる俺を、ギンがとうとう病人を見る目で見てきた。挙動不審でごめんな。


「この世界だと魔法を覚えるのにも手順がいるのか……。となると、やっぱり俺がいきなり戦えるようにはならないな」


 協力してくれない魔獣や、魔法を使えない自分のステータスばかり見えてもどうにもならない。あまりの収穫のなさに、俺は少し落ち込んだ。このままじゃ冒険者倒せないかも……。


 そんな俺を見て、ギンが気遣わしそうに声をかけてくる。


「私のすてぇき、見て良いよ?」

「いやぁ、見えないことにはどうしようも……ってうぉぉ!」


 ギンが許可を出した途端、彼女の目の前にうっすらとしたステータス画面が現れた。成る程、魔人の場合はステータスを見るのに許可がいるのか!


「ありがとうギン! もっと俺が見ていいって念じてくれないか?」

「んっ、……わ、分かった」


 何故か息苦しそうな顔で、ギンが頷く。すると、さっきまで薄かったステータス画面がハッキリ見えるようになった。ビンゴだ!


イルネス・ウルフlv.3

・ドレインバイト

・パラライズクロー

・セレクティブインフェクション

・状態異常活用

・駿足


・肉体属性lv.2

・疾風属性lv.1


「凄い、ここまで詳細に分かるのか! これなら作戦が立てやすいよ!」


 魔人のステータスは、魔獣と人間の複合型のようだ。技がある上に、属性の表示もあるため魔法も覚えられるのだろう。


 ステータス画面を見ながらハアハア興奮していると、何故かギンの方からも同じような吐息が聞こえてきた。


「おぉ、君もステータス画面の良さが分かるのか! 良いよなステータス画面、興奮するよな!」


 叫びながら振り返った俺は、ギンの有り様を見て絶句する。彼女は顔を赤くして内股を擦り合わせ、今にも倒れそうなくらい荒い息を繰り返していた。


「おいギン、どうしたんだ一体!?」

「うぅ、なんか、ムズムズする……」


 顔を赤くしたまま、ギンが俺にもたれ掛かってくる。タイミングから考えると、もしかしてステータス画面を見たことに原因があるのか?


 そう思いながらステータス画面をもう一度確認すると、ギンは「んんっ」という艶かしい声を出しながら体を逸らした。パーカー越しに彼女の胸が押しつけられて、気絶しそうになる。


「わ、悪い! もう見ない! もう大丈夫だから、ステータス画面を見せようとしなくて良いよ!」

「んっ……。よかった……」


 ギンが安心して呟くとステータス画面が消え、同時に彼女も落ち着いたようだ。あっぶねぇ、なんでステータス画面見るだけでこんなに大変なんだよ!


「なんか、タケルがギンの中に入ってくるみたいだった……」

「表現が生々しいな……」


 魔人のステータスがすぐには見えないことと、何か関係があるのだろうか。それにしても、何であんなことになるのかは分からないけど……。


 俺が考えていると、ギンが少しだけ怒った様子で窘めてきた。


「私のすてぇき、見すぎちゃダメ!」

「はい、ごめんなさい……」


 私のすてぇきって言葉が、今だと卑猥な言葉に聞こえるな……なんて思いながらも、ステータス画面に我を忘れていたことを反省する。今まで慎重さの欠片もないし、これからは頑張ろう……。


「じゃあ気を取り直して、作戦を立てていくか」


 自分のステータスが見えるのは当然としても、魔獣のステータスが見えて魔人のステータスが見えない意味は分からない。


 この能力に関しては後々調べなきゃとは思うが、今のところは冒険者を倒す道筋が見えたことに一安心だ。俺は冒険者の一般的な特徴をギンに聞きながら、作戦を組み立てていった。


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