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服、着よっか?

女の子はみんな裸族になぁれ!(願望)

「あいつは一体……何だったんだ?」


 ギンの抱擁からやっと解放された俺は、意を決してさっきの男が何者なのかを尋ねることにした。


 少し思い出すだけで、体中に恐怖が駆け巡る。せめて誰なのかを知り、恐怖を和らげたかった。


「あれは、勇者」

「勇者!? あれが!?」


 ギンの答えに、俺は瞠目する。


 異世界もので勇者と言えば、正義の象徴を指すことが殆どだ。しかしさっきの男は、俺もギンも「あれ」扱いしてしまうほど不気味なやつだった。魔王だと言われた方がまだ信じられる。


「十人の勇者が、魔獣を狙ってる。さっきのは、かくぜつの勇者」

「隔絶の勇者……?」


 名前からしてヤバそうだけど、何よりあんな奴らが十人いる時点でこの世界はどうかしている。


「魔王様が死んじゃってから、ギンたちはずっと追われてる。昔は追う側だったのに。愚かな人間どもをじゅーりんする側だったのに……」

「表現怖いんだけどギンさん!?」


 本当にこの子が俺を襲わないのか雲行きが怪しくなってきたが、ギンからは相変わらず敵意が感じられなかった。それどころか、しょんぼりと肩を落とす姿はいたいけな少女にしか見えない。


「やっぱりギン達だけじゃ、勇者に勝てない……」

「…………」


 遠い目をする少女を見ている内に、俺は覚悟を決めた。言うべきかという迷いは捨てて、口を開く。


「じゃあ、俺に勇者と戦うのを手伝わせてくれないか?」

「……!」


 ギンは狼の尖った耳をピンと立てて、信じられないという顔をする。その表情からは、喜びと戸惑いが同時に見て取れた。


 自分でもどうかと思う提案だが、今の話を聞いてしまった後ではギンの敵にまわることなど出来そうもなかった。

 それに勇者なんていうヤバい奴に顔を見られてしまった以上、人間側につくのもかなりのリスクが付きまとうだろう。


「俺にどれだけ手伝えることがあるのかは分からない。でも、少しでも出来ることがあるなら……。俺は、君の力になりたい」


 さっきの勇者の顔を思い出して、弱気になってしまう自分はいる。でも、だからこそ。あんな奴らに追われている彼女を、どうにかして助けたいと思った。


 彼女の悲しそうな顔が、あまりに現実での自分と似ていたから。もし俺が、彼女を助けられるというのなら。それは、自分を助けることにも繋がるような気がしたから……。


「あり……!!!」


 ギンは泣きそうな顔で、言葉で表すのももどかしいというように再び飛びかかり、押し倒してきた。でもなんか、態勢や言葉だけ見ると誠意が全く伝わってこねぇな。


「ギン達の家! 案内する!」


 尻尾をワサワサと振りながら、ギンが嬉しそうに叫ぶ。彼女は二本の足で立ち上がると、俺を誘導するように森の奥へ進もうとした。


 歓迎してくれること自体はとても嬉しい。しかし俺はどうしても気になることがあったので、歩こうとするギンを押しとどめた。


「ところでギン。服とかは着ないのか?」

「ふく?」


 意を決して聞いてみると、案の定ギンは首を傾げた。


 外気は肌寒いにも関わらず、ギンは一糸纏わぬ姿で平然と歩いている。

 肘より先や膝から下だけは狼らしく鋭い毛で覆われているのに、大事なところは全く隠れていない。さっきまでは辛うじて尻尾でお尻が隠れていたが、尻尾を上に向けて振っている今ではもうフルオープン状態だ。


 どう考えても隠すところを間違えたデザインの彼女からなんとか目を逸らしながら、俺はなんとか言葉を紡いだ。


「ちょっとは体を隠してくれないと、目のやり場に困るというか、なんというか……」

「なんで? どこでも見ればいい」


 どこでも見て良いと言われて、反射的に再びギンの体に目を向けてしまう。


 相変わらず、全くの無防備。あぁぁ、童貞には刺激がきついいい!


「いや、やっぱ服着よう! 何か着るものとかないかな……」


 ギンから意識を剃らすため、必死に辺りに目を向ける。もちろん外に服が落ちているわけもないが、俺は首を向けた先にカブのような植物を見つけた。この葉を巻き付ければ、辛うじて大事なところは隠せるかもしれない。


 そう思って手を伸ばすと、土煙を上げながらギンが駆け、俺を先回りした。長く鋭い爪で、その植物を上から串刺しにする。


「うおぉ! どうしたんだギン!? そんなに服着たくないのか!?」


 植物を串刺しにすることで不満を表したのかと思ったが、ギンは人間のように首を振った。


「これ、マンドラゴラ。ふよういに抜くと死ぬ」


 言いながら、ギンがその植物を引っこ抜いて俺に見せつけてきた。根っこの部分にはおっさんのような顔があり、「キュー、キュー」と喉から細い息を繰り返していた。


 マンドラゴラは抜くと大声で鳴く植物のことだったはずだ。もしギンがいなかったら、俺の死因は植物採取になっていたかもしれない。あぶねぇ。


「ん!」

「あ、あぁ、ありがとうな」


 ギンが胸を張りながら、俺に植物を差し出してくる。表情こそ涼しいものだが尻尾は高速で動きまくっており、「褒めて褒めて!」という思いがだだもれだった。


 しかし植物はキモいわ裸を隠してもらうための採取なのに胸を張ってくるわで、俺は複雑な気分で彼女の頭を撫でることしか出来ない。

 ニヘヘ、と隠しきれない笑みが彼女の口許を歪めた。


「えーっと、じゃあこれを巻きつけ……いや、着せるね?」


 恐る恐る断ってから、彼女の大事なところが隠れるようにマンドラゴラの葉を巻きつけようとする。


 しかしマンドラゴラの根っこと葉をなかなか切り離せず、そのまま巻きつけるしかなかった。興奮するわ葉っぱを巻きつけるのに罪悪感あるわで戸惑うが、これからずっと動揺するよりマシだと思って無心で巻き付けていく。


 出来上がったのは、植物を体に巻き付け、恥部をおっさんの顔で隠した蛮族。なんかマンドラゴラの顔が、見せしめに吊るされた敵対部族の長の首みたいに見えてきたぞ……? こいつぁ良くない。


「うーん、どうしたもんかなぁ……」


 さっきまでとは全く違う意味でギンを直視できないので、俺は他の案を探す。ギンもマンドラゴラを体に巻き付けているのは抵抗があるようで、眉を顰めながらマンドラゴラの顔を突いていた。


「仕方ない、か……」


 この短時間に二度も重大な決断に迫られるとは思わなかったが、俺の精神安定のためだ、仕方ない。俺は意を決して彼女からマンドラゴラを剥ぎ取り、代わりに自分の着ていた灰色のパーカーを着せた。


「どうだ? そのパーカーも嫌なら、ほんとに手詰まりなんですが……」

「…………!」 


 聞いてはみたが、笑顔でパーカーの感触を楽しんでいるところを見る限り気に入ってくれたようだ。さっきの蛮族スタイルとは反応がえらい違うので、打ち捨てられた敵部族の長が可愛そうになってきた。


「おそろい!」

「うん、俺はパーカー奪われたからお揃いじゃないけどね?」


 喜ぶギンに、一応突っ込む。でもきっと、彼女が言いたいのは人間の服を着ているという意味でのお揃いなのだろう。


 この寒空の下パーカーを明け渡すのはなかなか覚悟のいることだったが、喜ぶギンの顔を見ていると後悔はなかった。


「ま、結局エロいのは変わらないけどな……」


 意外と背は高くないようで、なんとかパーカーに全て収まってるけど……。全裸の上からパーカーを羽織っただけなので、相変わらず刺激は強い。


 少しずつ慣れていこうと思いながら、俺はパーカーのファスナーを上まで上げてやるのだった。

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