編入生の初日は大変だった
飛行機から降り、空港のホームで新しい制服を素早く着る。スーツケースを車の後ろに置き、スクールバッグを中から取り出し、中身の筆記用品と私物が盗まれていないか確認する。父が運転席、母が助手席、自分含めて四人兄弟はそれぞれの席に座り、ようやく出発した。時刻はかなり早いが、飛行機内で寝たため眠気はないが、気怠さがどうしても残ってしまう。兄弟達のはしゃぎ声をバックに外の景色を眺める自分。これから学校だと思うともっと怠く、面倒くさく感じる。
外国の生活と日本の生活を上手く変えていけるかが問題だ。後は慣れれば済む。だが、今一番心配しているのは学校生活の方だ。やっぱり外国と日本の考え方や文化自体がかなり違う。外国で生きてきた自分はここの常識や考え方が異なる。それが原因で笑われたりボッチにさせられたり、最悪虐めなどあり得るかもしれない。こう考え始めるとお腹がキリキリうるさい。できるだけ考えないようにしよう。
妹の呼びかけに気づいて現実に戻される。新しい学校の校門前で車を止めた。両親と兄達にさよならを言い妹と一緒に降りた。校門には美しい桜が数本生えていてとても綺麗だと思った。妹が俺の背中を押すので少し早足で前に進む。車から降りたのを見たのか周りの人達は俺達兄妹をじっと穴が開きそうな勢いで見つめていた。そんな視線をなるべく無視して何組かを確認するために人だかりができている方へと足を進める。こんな時期に人だかりができているということは喧嘩か張り紙を見るためだろうと推測する。俺の勘は見事に当たり、何組か見てみると俺と妹の菖蒲は同じクラスだ。知人が一人もいない気まずい空間は回避できて安心する自分がいる。ついでに体育館への道を地図で見て向かう所、前の方から大きな声がした。よく見ると男子二人と女子一人が大声で喋っていた。心なしか俺等の方を見て話しているように見えるのだが、そろそろ眼科通わないといけないのか?
「待って、あそこの男子見たことある?超イケメン!!身長高い、頭良さそう、カッコいいけど可愛いもあるよね!!そして後ろにいる子も可愛い!!妹かな?美男美女兄妹とか最高なんだけど!!」
「まぁまぁ落ち着きなよ……確かにイケメンだね。」
「見たことない顔だね、編入生かな?」
「ねぇねぇ、声かけようよ!!」
え、いや、来ないで下さい。なんていうか、面倒というより疲れるかな。何も見てない、何も聞いてないフリをして彼らの前を通り、地図通り書いてあった所に行き、体育館に着いた。見てはいけないものを見たかのような気分で少し複雑だったことは内緒にしておく。ここからは漫画やアニメでよくある校長という名の禿げの長い長いスピーチを聞かされるのだろう。そういうのは外国ではほとんどないことなので少しわくわくしている自分がいる。多分一か二分したら飽きるのは目に見えているが。適当に席に着き、入学式が始まった。他の生徒達は眠たそうにしているのもいればきちんと聞いているのもいる。まぁ、ほとんどが前者だがな。
「えー、次は生徒会会長からの一言。」
と先生が言い、上がってきたのはさっき俺達の話をしていた男子の一人だった。彼はマイクを近づかせ、話を始めた。さっきの校長の話や先生の話等は頭に入らなかったが、彼のはつい聞いてしまった。綺麗な声をしているなぁと思いながら彼の話を聞いていた。
「以上、三年B組、生徒会長大野翔」
そう言ったら拍手が起こった。それで入学式は終わった。彼を聞いていた時に目が合った気がするが、気のせいだろう。それに彼、というかさっきの集団に関わったら面倒なことになりそうで怖い。
「兄さん、教室いこう。じゃないと遅れちゃうよ。」
と菖蒲が声をかけたので席を立ち、教室へと向かう。向かう途中、主に廊下でチラチラ見られていたが、最初の時と同じく無視した。そしてクラス、二年A組の教室のドアを開けると既に数名かいた。俺達に視線が行き呆然と見つめている形になっている。お願いだからその目はやめてくれ、お願いだ。UFOでも妖怪でも何でもいいから注意を引き付けるものプリーズ状態だった俺は妹に助けを求めようとしていたが、いつの間にかクラスメイトになるであろう女子数名のグループへ話しかけて、話が弾んでいる…菖蒲のコミュ力を恨むことになるとは過去の俺は想像もしなかっただろう。そんな妹を横目に黒板に書かれている席に座り鞄の中に入れてあった一冊の本を取り出し、栞を挟んだ所から読み始めた。
何分経っただろう、教室内はすっかり賑やかな雰囲気になっていた。菖蒲はすっかり馴染んでる。コミュ力お化けめと呟き、また本に集中しようとするが、教室に先生が入ってきて皆席に座った。担任は自己紹介をして今年はどう勉強していくのか説明していた。意外とわかりやすかった。そして先生が思い出したかのように俺を見て言った。
「もう気づいている奴らもいるだろうけど、編入生が二人もいる。前に来て自己紹介してくれ。」
本気で言っているのかこの担任。渋々席を立ち、菖蒲と一緒に前に出る。先生は後ろで俺等の名前を書いている。俺は最初に話したくないと気持ちを込めた目線を妹に送り、彼女は察したのか笑顔で言い始めた。
「外国から来ました!雨宮菖蒲です!気楽&仲良くしようね!!」
そして拍手が起こった。第一印象は大事、流石菖蒲、イメージいい感じになっている。クラスメイトの数人がよろしくや仲良くしようねとか返している。いい人だ。次兄さんの番と言って背中を軽く叩く妹を見て深呼吸して覚悟を決めた。
「同じく外国から来た。雨宮椿です。な、なかよくしてくれると嬉しいで、す。」
最後に近づくにつれ恥ずかしくて顔が赤くなっていたのに気づいて声が小さくなってた。今は床しか見えない。嗚呼、これは笑われたなとへこむとよろしくなやもしかして恥ずかしいのと笑ってくるやつらがいて俺は驚いて顔を上げた。う、受け入れられているんだよね?
「うわ、顔真っ赤、トマトみたい。」
と笑うやつにデコピンした。そしたら教室中に笑いが起こった。俺も勿論笑った。担任はプリントを渡し、残り時間は自由時間だと言って教室から出た。出た瞬間俺等の席を囲んで一斉に話し出した。聞き分けられなかったので一人づつ話してもらって質問に答えた。
「俺等は外国生まれ、つまり帰国子女だよ。菖蒲は双子、俺が上で菖蒲は下。好きな人はいないでど、なんでこの質問なのかはスルーするぞ。趣味はゲームとカラオケとか?一応五ヵ国語喋れるけど、菖蒲は語学苦手だから三だったよね?さっき読んでた本も外国語。」
これで全ての質問に答えた。最初は不安心しかなかったけど、意外と大丈夫なんだなと思って安心した。俺達はチャイムが鳴るまでそのまま談笑していた。放課後、支度をして妹を待っているとクラスの女子が俺にお客がいると言ってきたので見に行く。このクラス以外に知り合いとかいたっけと思いながら向かうと生徒会長さんと今朝の男子がいた。え、俺何かしましたっけ?
「君、ちょっと話いいかな?」
「え、え、えーと?なんでしょうか?」
「ここじゃ話せないから生徒会室で話そう!お菓子も用意してあるし!!」
俺は菖蒲をちらっ見て彼女が親指を立てたので彼らについていくことにした。嫌な予感しかしねーよと若干震えながら生徒会室までの道のりを歩んだ。教室まで着き、ドアを開けた。
ここから始まる俺等の日常