おっさん、新たなる境地へ
――ざっと二十人ってとこか。
ルイスは高速で頭を回転させ、突如現れた《敵》を観察する。
全員、かなりの手練れのようだ。剣や斧、魔法杖など、それぞれ携えている武器は異なるが、まったく隙がない。また黒仮面のせいで表情が窺えず、そのために動きが読み取れない。
――強ぇな……
無意識のうちに舌打ちをかます。
ひとりひとりが相当の精鋭だと思われる。各が放つ威圧感もすさまじい。
「おい、こいつらはいったい……」
ルイスは、前方で武器を構えるフラムに問いかける。
彼女の獲物は二本の短剣。それらを逆手に持ち、低姿勢で敵の出方を伺っている。
「わからない。私が知りたいくらいさ」
「…………」
ルイスは無言で彼女の隣に並んだ。
「その口ぶりだと、前にも襲われたことがあるのか」
「ああ。こいつらのせいで、私は……!」
憎々しげに歯を食いしばる。
――そういうことか。
薬草を採取しようにも、邪魔者に阻まれては仕様がない。しかも相手はみんな強者だ。いくらフラムがSランクといえど、この大勢に囲まれては分が悪いだろう。
「あんたたちは下がっててくれ。こいつらは強い。生半可な気持ちで手を出したらヤケドするぞ」
「いや、俺も――」
ルイスが手を伸ばした、その瞬間。
フラムは大きくしゃがみ込むと、全身をバネのようにしならせ、猛スピードで敵の群れに駆けていった。
いや。違う。
駆けるというより、飛んでいると表現したほうが正確だろう。フラムは地にほとんど足をつけず、こちらが呆気に取られるほどの速度で敵との距離を詰めていく。
「――手伝う、ぞ……?」
ルイスが最後までセリフを発するのと、フラムの短剣が敵の首を斬り飛ばしたのはほとんど同時だった。
「え……?」
背後のアリシアが素っ頓狂な声を発する。
――速い……!
ルイスも驚きを禁じえなかった。
正直、ほとんど見えなかった。黒い影がかろうじて見えたくらいだ。これほどの俊敏性の持ち主が、果たして帝国にいただろうか。
これがSランク冒険者、人智を越えた存在ということか……
すとん。
フラムは華麗に地面に着地すると、再び地を蹴り、次のターゲットへと剣を差し向ける。
だが、敵もまた油断ならない相手だった。
「…………」
仲間が死亡しても取り乱すことなく、冷静にフラムに武器を突き出していく。そのようすはまるで幽霊だ。いっさいの感情を見せず、ただ機械的に敵を抹殺する奴隷のよう。
実際にも、最初に殺された者のことなど、連中は気にも留めていないようだ。その証拠に、遺体を踏みつけてでもフラムに攻撃をしようとしている。
――ガキン!
「くっ……!!」
フラムが苦々しい表情で、突き出された剣を受け止める。
「おい、あぶねぇぞ!」
思わずルイスは大声を張った。
別の黒装束が、脇から槍を突き出してきたからだ。
「ちっ!!」
フラムは咄嗟の判断で後方に飛び退いた。すんでのところで槍を回避する。
これだけ多くの強者に囲まれては、いくらSランクといえども分が悪いようだ。ルイスの見立てでは、全員、フレミアにやや劣るくらいの実力を持ち合わせている。苦戦するのも無理はない。
「ルイスさん……!」
背後のアリシアが、すがるような声を発す。
「ああ。わかってるさ。アリシアは援護を頼む」
言いながら、ルイスはこつこつと歩きだし、フラムの隣に並ぶ。
「手を貸すよ。さすがにあれをひとりで倒すのはきついだろ」
「な、なにを……!」
フラムがぎょっと目を見開いた。
「いまの戦いを見なかったのか! あいつらは強い! あんたもそこそこ強いだろうけど、いくらなんでも――」
なおも喚きたてるフラムの頭にそっと手を乗せ。
ルイスは久々に、全力を解放した。
スキル発動。
――無条件勝利。
「な……!」
途端、フラムが我を失ったかのようにあんぐりと口を開ける。
「な、なんだよそれ、あんた、何者だ……!」
「聞くまでもないだろ? 嫌われ者の、しがない《帝国人》だよ」
「…………」
なおも唖然としているフラムに薄く微笑むと、ルイスはゆっくりと、敵の群れに歩み寄っていく。
――身体が熱い。
溶けるようだ。
人智を超えた高温にさらされてか、身体から湯気が立ち上り、それがオーラのように全身にまとわりつく。この感触がなんだか心地よかった。
――前代魔王、ロアヌ・ヴァニタスとの激戦後。
ルイスはただ余暇を謳歌していたわけではない。
きたるべき戦いに備えて、《無条件勝利》の強化を図っていた。体力が許せばスキルを使用したし、できるだけ魔獣のいる場所に出向くようにした。
その甲斐あってか、皇帝ソロモアに謁見する直前に、新たな境地を発見するに至った。
「いくぞ。覚悟はいいか、クソ野郎ども……!!」
「…………!!」
ルイスの気迫に当てられてか、さきほどまで一切感情を見せなかった黒装束たちが、すこしだけ怯んだ――ような気がした。
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