おっさん、いくつもの謎に直面する
グツグツと。
台所から食材を煮込んでいる音が聞こえる。
同時になにやらジューシーな香りが漂ってきて、ルイスの食欲を刺激した。自分たち帝国人のために、腕によりをかけてくれているのだと思われた。
ルイスはこほんと咳払いをして意識を切り替えると、テーブルの向かいに座るフラムに視線を戻した。
「ということは……あんたは父親の件について、なにも知らないのか?」
「そうだな。神聖共和国党についてはある程度掴んでいるが……」
そう言って視線をさまよわせる。
迷っているな、とルイスは思った。
彼女が知る神聖共和国党の情報を、異国人たるルイスたちに話していいものか。いくら母の恩人とはいえ、彼女らにとって、帝国人とはつまり怨敵のようなものだ。
そうそう簡単に話していいものではあるまい。
そしてその判断は間違ってはいない。Sランクともあろう者が、ぽろっと情報を横流ししたら事である。
と。
「失礼しますねぇ」
ふいに扉の奥から、皿を持った母親が現れた。色とりどりの野菜サラダが盛られているようだ。アリシアがごくりと唾を飲んでいる。
母親はそれらをテーブルに置きながら、あくまでものんびりとした口調で言った。
「フラムはですね……。お父さんのためにギルドに入ったんですよ」
「ちょ、ちょっとお母さん!?」
フラムがぎょっと目を剥き、一転して幼い口調になる。
「お父さんが過激な右翼団体に属していて、しかも怪しい活動をしている。止めたいけど、どうすればいいのかわからない……。だからギルドに入ったんですよ」
「ち、違うって! だ、誰があんな父親なんか……!」
そう言いながらムスっと拗ねてしまうフラム。
ルイスは苦笑して言った。
「まあまあ……それで結果的にSランクになれたんだ。良かったと思うぞ」
「……いや」
そこでフラムは再びそっぽを向く。
「たしかに剣には自信がある。けど……ひとりで薬草の採取もできないし、剣の他にこれといった知識もない。なのに……はっきり言って、Sランクは分不相応だよ」
「…………」
それはルイスも感づいてはいた。
たしかにフラムは強いだろう。彼女の身体つきを見るだけでもそれはわかる。
けれど――その他の部分が正直未熟だ。
薬草採取の件もそうだし、レスト・ネスレイアのように、強いメンタルを持ち合わせているわけでもなさそうである。
もちろん、こちらのギルドのランク基準は故郷とは違うだろう。
だがどうしても、そこに違和感があった。そしてそれは本人たるフラムも感じているのだという。
それだけじゃない。
さきほど、なぜかAランクの冒険者――オルスがギルドを仕切っていた。ギルドマスターの意向もなしに、勝手にルイスの身の振りを決めていたのである。ここも正直、不思議だった。
通常、冒険者登録の決定権はギルドマスターにあるはずだ。少なくとも帝国のギルドではそうだった。
ここは異国のギルドだし、違うところもあるか――そう思ってさっきは受け流したが、やはり違和感だらけである。
そして。
フラムはSランク冒険者にも関わず、スラム街に追いやられ、こんな貧相な家に住んでいる……
Sランク冒険者ならばそこそこの金はあったと思われるが、もしかして財産を丸ごと奪われたか……。それも気になるところではあったが、さすがにそれを聞くのは気が引ける。
謎だらけだ。
ユーラス共和国の裏を探りにきたつもりが、また新たな謎に直面してしまった。正直モヤモヤする。
お読みくださいましてありがとうございました……!!
ブックマーク、評価、レビューや感想などいただけると、とっても励みになります……(ノシ 'ω')ノシ バンバン
ぜひすこしでも心が動いたらお願い致します。
評価、レビューのページは、このページの下部を探していただければ見つかります。




