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おっさん、初めて歓迎される

「は!? な、なんでっ……」


 フラムはもう、吃驚仰天びっくりぎょうてん、いっぱいに目を見開いた。ごしごしと慌てたように両目をこするが、しかし母が回復したのは現実そのものだ。


「う、う……」

 そして彼女はでっかい声を響かせる。

「うっそお!?」


「うるさいわねぇフラム。耳が痛いじゃないの……」


 対して母の反応は実にのんびりしたものだ。娘と違い、マイペースな人なのかもしれない。


「あ、あんたたち、本当は何者よ! 薬草の知識とか、とんでもない回復魔法とか……《新人》だなんて、とんだ嘘っぱちじゃないの!」


「あはは……。まあ色々ありまして……」


 恥ずかしそうに後頭部をさするアリシア。人の役に立てたことで、彼女も嬉しそうだ。


 完全回復エターナルヒール

 まさかとは思ったが、やはり試して正解だったようだ。古代に伝わる回復魔法は、重病さえいとも簡単に治してしまう。


 さらに。

 古代魔法により膨大なMPを消費したにも関わらず、アリシアはだいぶ元気そうだ。汗ひとつかいていない。


 スキル習得時は古代魔法をひとつ使用するだけで辛そうだったが――いまは大丈夫そうだ。


 スキル自体の熟練度が上がっているのだろう。ルイスの《無条件勝利》と同様、今後どんどん彼女は強くなっていくと思われる。


「あら。あなたたちは……帝国の方なんですねぇ……」

 いまさら気づいたのか、母親があくびしながら言う。実に呑気だ。

「よろしければお食事などいかがでしょうか? 久々に料理したい気分でして」


「い……いいんですかい? 俺たちゃその、俗にいうテイコーってやつで……」


「いいんですよぉ。夫はなぜか帝国をひどく嫌ってましたけど、肝心なことをわかってませんでした。出身はどうあれ、私たちはみんな同じ人間なのです」


「は、はあ……」


 ルイスが返答に窮していると、代わりにフラムが言った。


「私からもお礼がしたい。先ほどはひどいことを言って申し訳なかった。母の料理はうまいのだ。ぜひ、ゆっくりしていってほしい……」


 懇願するように見つめられたら適わない。


 ……それに。

 朝からなにも食べてないから、すごく腹が減っているところだった。


「……じゃ、お言葉に甘えて、いただきましょうかね」


 ★


「さーて、どんなご飯にしましょーかっ」


 母がるんるん言いながら台所へ消えていくのを見届けて、フラムはふうと息をついた。さっきまでの悲痛な表情が嘘のようだ。


「夢を見ているようだよ……。まさか、あれほどの重病を一瞬にして治すとは……」


 そう呟くなり、フラムはきりっと表情を引き締めた。ルイスとアリシアを交互に見つめ、再び頭を下げる。


「改めて自己紹介しよう。私はフラム・アルベーヌ。Sランク冒険者だ」


「「え、S……!?」」


 ルイスとアリシアは同時に素っ頓狂な声をあげた。

 彼女が冒険者だったこともお驚きだが、まさかランクSだとは。アルトリアやフレミアをも凌ぐ、とんでもない実力者だということか。


 ……まあ、ランク付けの基準まで帝国と同じかは不明だが、彼女のしなやかな肢体を見るに、腕前は確かだと思う。


 ルイスたちの反応に、フラムは頬を赤らめ、照れるようにうつむいた。


「はは。そう驚かれるとくすぐったいね。Sランクといっても、実は昇級したばっかりさ。まだまだ私は自分に満足していない」


「なるほど。ストイックなお人のようだ」


 隣のアリシアが、あんたがそれ言う? というような目を向けてきたが無視する。


「改めてこちらも名乗ろう。ルイス・アルゼイド。訳あって共和国に訪問している身だ」


「アリシア・カーフェイと申します。よろしくお願いします」


 そうして順番に握手を交わしていく。アリシアの手を握るとき、フラムは「で、でかいな……!」と呟いていた。


 ルイスはこほんと咳払いすると、話を本筋に戻す。


「しかし、Sランク冒険者の依頼を無視するたぁ……なかなか不思議なことが起きてるみたいだな」


「……ああ。まあ、な」


 フラムは不愉快そうに口を尖らせた。

 口調が強い割に幼い仕草を繰り出しているので、なんだかとんでもないギャップを生み出している。


「仕方ないさ。私の父親は過激な右翼集団に属していて、そして……あんたたちの国でテロを行った。到底許されることじゃない。迫害されて当然だよ」


 そしておそるおそるといった表情でルイスを上目遣いで見る。


「……もしかして、あんたたちがユーラス共和国に来たのも、それ絡みなのかい?」


「…………」


 ルイスは数秒だけ迷ったが、一部の情報を隠すことにした。

 もしかすれば、自分が彼女の父を殺めてしまったかもわからない。いったんは様子を見て情報を小出しにしていこうと思う。


「ま、そんなようなもんだな。こう言っちゃなんだが、帝都はかなりのダメージを負ってる」


「そうか……。それは申し訳ないことを……」


「いやいや。実際に罪を犯したのはあんたたちじゃない。そのへんはわきまえてるから、妙に小さくならないでくれ」


「……そう言ってもらえると助かる……」


 またも涙目になるフラム。


 話を聞く限りでは、母もフラムも、父とはまるで関わることがなかったようだ。ある日を境に父が神聖共和国党しんせいきょうわこくとうに入り浸るようになり、それからほとんど家に帰らなくなったという。





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