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おっさんの知識とアリシアのチート能力

 ――フラム・アルベーヌ。


 それが少女の名だった。

 受付嬢からは《二十歳》と伺っているが、外見上はそれより幼く見える。マイナス五歳くらい偽っても違和感ないだろう。


 まず、身長がかなり低い。

 アリシアが抜群のスタイルを誇っているのに対し、フラムは別の意味で可愛いと表現すべきだろうか。


「入れ。母はこのなかだ」


「あ……ああ……」


 口調だけはやたら強いが、小柄すぎるためか、逆に愛嬌さえ感じてしまう。当の本人は威厳を出しているつもりらしいが。


 フラムはこくりと頷くと、後ろを振り向き、なかへと歩いていく。


 その後ろ姿に、ルイスは別の意味で驚いた。


 なんともしなやかな肢体をしている。

 ……いや、別に嫌らしい意味ではない。

 純粋に冒険者として驚いたのだ。あそこまで鍛え抜かれた肉体はそうそう作りだせるものではない。


 それだけ、身体に無駄な肉がないのだ。

 なおかつ筋肉がすらっと引き締まっているのだから驚きだ。


「邪魔するぞ」

「お邪魔しまーす」


 挨拶を述べてから玄関に入り、先導されるままに進む。


 ギシィ……と。

 建築から何年経っているのか、木造の床が鈍い悲鳴をあげた。

 どこからともなく木材の湿ったような香りが漂ってきて、家の古さを伺わせる。


「ここだ」


 フラムがスライド式のドアを開けたその先に、くだんの母はいた。


 聞いた通り、重い病気にかかっているようだ。布団のなかで仰向けになり、ややテンポの早い呼吸を繰り返している。顔も白い。ルイスは医者ではないが、これは危険な状態だと直感した。


 意識も朦朧もうろうとしているのだろう。テイコーが入ってきたというのに、なんの反応もない。


 これは思った通り――いや、それ以上にひどい容態ようだいだ。一日かそこらでここまで重病になるなんてことはない……


「言いたいことはわかるさ」


 フラムは母の顔の前で胡座をかくと、むすっとした表情で言った。瞳には涙を溜めたままだ。


「ギルドにはもう、ずっと前から依頼を出し続けてる……。だが、連中にとっては、私の依頼など……」


「そうか……なるほどな……」


 これほど危険な状態であれば、おいそれと外出できるものではないだろう。医者を呼ぼうにも、このぶんだと金銭もろくに持っていまい。結果的に、低賃金でギルドに薬草採取を依頼するしかないわけか。


 フラムは両手を地面につけると、小さく頭を下げる。


「頼む。あんたたちの出身はこの際どうでもいい。母を助けてほしい……」


「ああ。わかった。必要な薬草はカイドウシとリュウラだな。任せておけ」


「……なんだ。必要な薬草がわかるのか?」


「まあな。――だが場合によっては、薬草を採取するまでもないかもしれない。ちょっと試してもいいか」


「へ?」


「アリシア。できるか?」


「わかりませんけど……やってみます」


 アリシアはこくりと頷くと、母の手前でひざまづいた。そのまま両手を病人にかざす。


 スゥゥゥウ……と、ほのかな輝きが、アリシアの手から発せられた。


 完全回復エターナルヒール

 古代に伝わる、文字通りなんでも回復してしまうチート回復魔法だ。


 フラムが目を見開いて立ち上がる。


「な、なにしてんだよっ。魔法でこんな重い病気が治るわけ……!」


「あ、フラム……?」


「――へ?」


 フラムはぎょっとしたように動きを止めた。


 さっきまで意識もなかった重病人が、なんでもなかったかのように目を開き、娘の名を呼んだからだ。

 

 


 

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