おっさん、冒険者の使命を忘れない
「《アレ》って……?」
アリシアが目をぱちくりさせ、ルイスを見つめてくる。
ルイスは無言で両肩をひょいと持ち上げた。
むろん、ルイスにもなんの話かわからないが……
もしギルドに登録させてもらうチャンスであれば、話だけでも聞く価値があるだろう。
ルイスはくるりとオルスに向き直った。
「なんの話だ、それは」
「ふっふっふ……寛大な俺に感謝するがいい。テイコーたる貴様らに機会をくれてやるんだからな」
「はいはい……そりゃあどうも」
適当に持ち上げてやる。
実際にも、このオルスという者、実力はそこそこあるようだ。
受付嬢はむろんのこと、他の冒険者たちも真面目な顔でオルスの話に聞き入っている。おそらく、ギルドのなかでもかなりの使い手と見た。
ちなみに、ユーラス共和国における冒険者ギルドは、帝国のそれと同じようなシステムが採用されている。
たとえばランク制度だ。
EからSまでの等級があり、四十歳までにEランクの者は解雇される――という制度まで似通っている。
この理由については諸説あるが、最も強い説では、祖国の初代ギルドマスターがユーラス共和国のギルドを参考にしたと言われている。いずれにせよ、本当のところはルイスにもわからない。
ルイスの見立てでは、オルスの実力はAランク相当だ。アルトリアやフレミアには劣るものの、Aランクとしての腕前は充分にあるだろう。
そのオルスは片手を腰にあてがうと、気障な仕草とともに言った。
「いま、我が国には困った輩がいてね。神聖共和国党……過激な右翼集団だよ」
「…………!」
思わず目を見開いてしまう。
ここでその名が出てくるか……!
「ああ、そういえば、先日も奴らが帝国を襲ったんだってね。困るんだよ。我ら共和国の品位が汚されてはね」
「なるほどな……」
なんという皮肉な話か。
神聖共和国党。
奴らの犯した罪は到底許されるものではないが、彼らはまさに、母国たるユーラス共和国のために戦った。なかには命を落とした者もいる。
なのに……大統領からは見捨てられ、国民には蔑まれている。連中に同情する気はないが、現実とはかくも過酷なものだ。
「それでね、困ったことに奴らの遺族から依頼が来てるんだよ。依頼人はテロリストの娘さんからでね。母親が病気で苦しんでるから、薬草を取ってきてほしいんだと」
「なに……」
ルイスは目をひん剥いた。
「な、なに言ってやがる。緊急案件じゃねえか。早く誰か行かせろよ……!」
「それがそうもいかないのさ。我らは高潔なるユーラス共和国人。テロリストとは関わりたくもないんだよ」
「なんだと……!」
ルイスはぎゅっと拳を握りしめる。
この感じ。
なんとも既視感がある。
「とはいえ、この依頼は人の命がかかっててねぇ……。建前上、そう無碍にできないのだよ。だから誰が依頼を請け負うか、考えあぐねてたんだけど……うってつけの奴が来たじゃアないか」
そこで初めて、オルスは「へへへ」と嫌らしい笑みを浮かべた。
「どうよ? あんたらにとっちゃ、故郷を襲ったテロリストの遺族だ。それでも助けるってんなら、俺は止めはしねえが」
「あ、あなたたちは……!」
アリシアがかつてないほど険しい表情になる。瞳には憤怒を称え、クソにも劣る冒険者どもを見渡す。
「へへへ……」
「どうすんだろ……あいつ……」
ギルド室内はまたもざわめきに包まれた。
まわりの冒険者たちが、卑屈な笑みとともにルイスとアリシアをチラチラ見やってくる。
なんとも嫌な空気だ。
ルイスは吐息をつくと、全身の力を抜いた。
身近な者を助けられない者のどこか《高潔》なのか……反論の余地はいくらでもあるが、いまそれをしたところで何もならない。
ここはいったん冷静になろう。
「……教えろ。その遺族の住所を」
「お? マジかよ。助けにいくのかよ」
再び嫌らしい笑顔を浮かべるオルス。
「はっは、やっぱテイコーには誇りってもんがないようだね。自分のためなら、敵にすり寄ることも厭わない」
「ちげえよ、馬鹿野郎」
クソ野郎のクソみたいな意見を真っ向から否定する。
「誰であろうと、困っている人たちを助ける……それが俺たち冒険者じゃねえのかよ?」
「む……」
瞬間。
さきほどまでざわざわしていた室内が、すこしだけ静まり返る。
オルスも一瞬だけ口をまごつかせたが、負けじと言い返した。
「はっは! 口だけは達者なようだな! ならいってこいよ! 自分の故郷を襲ったテロリストを助けにな!」
「ああ。そうさせてもらおう。……行くぞ、アリシア」
「は、はいっ……!」
毅然と対応するルイスに、嬉しそうに頷くアリシアだった。
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