おっさん、一波乱に巻き込まれる
「ええっ……!」
ギルド室内で大きなどよめきが沸き起こった。
「おいおい、マジかよ……」
「テイコーがうちの冒険者に……そんな前例あったか?」
ヒソヒソ話は次第に増長し、室内は途端に騒がしくなった。誰もが驚きを隠せないようすで、ルイスとアリシアを見ては何事かを話し込んでいる。
驚かれることは予想がついていたが、ここまで騒ぎになるとは……
ルイス自身も苦笑を禁じえない。
「どうだ。帝国人……そっちじゃテイコーだったか。テイコーがギルドに加入しちゃいけない取り決めはあるのかい?」
「え、えっと……そういうわけでは……」
新人の受付嬢はもう完全に狼狽してしまったようだ。
視線をあちこちに巡らせ、周囲の先輩らに助けを求めているが、誰もなにも言わない。
むしろ逆だ。
「クスクス……」
新人の慌てっぷりを、楽しそうに遠目から眺めている。
「あう、えっと、そのう……」
新人の受付嬢は顔を紅潮させ、呂律もまわっていない。こりゃ駄目だ。
「ふう……」
ため息をついて、ルイスは後頭部をがりがりと掻いた。
「すまなかったな。迷惑をかけた」
「え……」
「じゃあな。おまえさんも、仕事頑張れよ」
そう言って受付嬢に背を向け、手をひらひらと振る。
「え、ルイスさん、いいんですか?」
アリシアが慌てたように声をかけてきた。
「ああ。俺のワガママはこの子に迷惑をかけちまうようだ。他の方法を探そうぜ」
「で、でも……。そうですね……。そうするしかなさそうです……」
なおも納得いかなそうだったが、黙ってルイスの後ろをついてくる。
弱者の気持ちは二人とも痛いほどにわかっている。
だからどうしても、この受付嬢に感情移入してしまうのだった。
きっとこの子も、職場で迫害に近いなにかを受けているだろうと――直感的にわかってしまったのである。
「あ……!」
受付嬢が申し訳なさそうになにかを言いかけたが、二の句が思い浮かばなかったか、口をもごもごさせる。相手とコミュニケーションを取るのが苦手なタイプなんだろう。
そうして、ルイスらが受付から退散しようとしたとき――
「おお、なんて可愛そうな子なんだっ!」
ふいに、新たな人物が姿を現した。
一見して冒険者。
腰のあたりに剣をぶらさげている。
長い金髪を後ろで束ね、すらりとスマートな顔立ちはいかにも女受けしそうだ。やや吊り目の瞳に、手入れのされた白い肌。彼の姿を見て、さっきまでは沈黙を保っていた他の受付嬢がキャーキャー騒ぎ出す。
「オルス様ー!」
「今日も素敵です!」
「はっは。恐縮だよレディたち」
オルスと呼ばれた男は、受付嬢らに気取ったように手を振ると、改めて、新人の受付嬢に顔を寄せた。
「可愛そうな子だ。テイコーにいじめられたんだろう? ふん、本当に卑怯な民族だ」
「え、ち、違……!」
「だが安心するといい。こんな馬鹿者は、この俺が成敗してくれよう!」
すると。
さきほどまで傍観者を貫いていた他の受付嬢が、いきなり態度を豹変させ、その受付嬢に歩み寄っていく。
「大変だったね? ごめんね、私たち、なにもできなくて……」
「なにか困ったことあったらいつでも言ってね?」
「え……そ、その、そうじゃなくて……」
「はっはっは! やはり我が国の人間たちは美しい! うす汚れたテイコーと違ってな!」
そう叫びながら、オルスはルイスを指さす。なんとも演技かかった言動だ。
「はあ……」
ルイスは再び後頭部を掻くと、オルスに対しても背を向けた。
「んじゃ、そういうことでいいよ。じゃあな」
「あ、馬鹿おまえ! 逃げる気か! 卑怯者め!」
「ちょっと! 言わせておけば!」
さすがにアリシアに限界が訪れたようだ。強い視線でオルスを睨みつける。
「ルイスさんは卑怯者じゃありません! 勝手なこと言わないでください!」
アリシアの眼力に、オルスは一瞬だけたじろぐ。
「うお……。テイコーにも美人が……」
「撤回してくれません? さっきの発言を」
「ぬぬぬ……」
オルスはしばらく歯をギリギリさせていたが、ふとなにを思いついたか、受付嬢たちを振り向いた。
「そうだ諸君! こいつらは冒険者になりたいんだろう? ならば《アレ》を頼んでみてはどうかね!?」
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