おっさん、Eランク時代も無駄ではなかったと改めて思う。
周囲の視線に耐えながら、ルイスたちはひたすらに首都を歩き続けた。
道を訊ねようとも思ったが、近づくそばから離れられる。
あるいは、完全に無視される。
誰もが、ルイスら《テイコー》を毛嫌いしているようだ。
「ひどいですね……これは」
ルイスの手を掴みながら、アリシアは悲しそうに言う。
「ああ。ここまで嫌われてるたァな……」
ここまで帝国人の差別が進んでいるのなら――戦争もありえない話ではない。
本当にそう思えてしまう。
ちょっとしたきっかけで、本当に最悪の結末が起きてしまうだだろう。
皇帝ソロモアが慎重になっている理由が、改めてわかった気がする。
まさに世界の危機だ。
そうなる前に俺たちがなんとかしないといけない。
「あ、ルイスさん、あれじゃないですか? ギルド」
「んお?」
ほどなくして、冒険者ギルドと思わしき建物が目についた。
大通りに面する、そこそこ大きな建造物だ。赤茶けた木造の建物で、正面ドアの上部には《guild》という文字がカラフルに明滅している。
思ったより人の出入りが活発なようだ。さっきから多くの人々が忙しなく出入りを繰り返している。そのためか、入り口の扉も二つ設置されていた。
「ずいぶんと立派な建物ですね……。帝都とは全然違う」
「だろうな。ギルドの歴史は、こっちのほうが断然長い」
「へ? そうなんですか?」
「ああ。ま、後でじっくり教えてやるさ」
良くも悪くも、Eランク時代に勉強していて良かったと思う。
敵国――表面上は同盟国だが――に乗り込むにあたって、なんの知識もないのでは心許ない。そういう意味では、あの辛かった時代もそう無駄じゃなかったと思う。
「さ、入るぞ。アリシア」
「は、はい……!」
ルイスから手を離し、きりっと表情を整えると、アリシアは一人前の冒険者の顔になった。
外観と同様、冒険者ギルドの内装は祖国と比べてしっかりと作られていた。
広々とした室内の奥には長いカウンターがあり、複数の受付嬢と冒険者がそれぞれビジネスの会話をしている。
依頼掲示板やソファーが等間隔で並べられており、多くの冒険者があちこちを行き交っていた。
だいぶ賑わっている。
やはり帝都のギルドとは規模がまったく違うようだ。
「お、いらっしゃ――って、あれ?」
そんなギルドに入った瞬間、受付の女が固まった。ルイスたちの姿を見て、ひどく顔つきを歪ませる。
それにつられて、室内にいた冒険者らもルイスに視線を集めた。
「わはは……。どうもー」
後頭部に手をあて、精一杯に笑ってみせるが――
やばい。
この空気はやばい。
全員が、冷めた顔でルイスとアリシアを交互に睨んでくる。
普段なら愛想よく挨拶してくれるであろう受付嬢も、ルイスたちにはなんの言葉も投げかけなかった。さっきまでの爽やかな営業スマイルが見る影もない。
「…………」
冒険者たちは警戒心もあらわにルイスたちを睨みつけてくる。武器の一本でも取り出しそうな雰囲気だ。
だが、ここで負けてしまっては元も子もない。
隣で萎縮しているアリシアの肩をぽんと叩くと、ルイスは意識して背筋をまっすぐに伸ばし、受付へ向かった。こういうときのメンタルの立て直し方は我ながら天晴れだと思う。
「なんの……ご用でしょうか?」
受付嬢が、おそるおそるといった表情でルイスを見上げる。おそらく新人だろう。誰も助けにこないことを見るに、たぶん損な役を押しつけられた形だ。
多少の罪悪感を抱きながらも、ルイスも動じぬままに言う。
「ああ。悪いな。ここのギルドに登録したくてね。できるかい?」




