おっさん、ピクニックへ行く4
「なるほど……ロンさんの修行ですか……。それは確かに放っておけませんね……」
フレミア・カーフェイは神妙そうな表情でロンを見やると、一歩前に進み出るや。
――ぎゅっ。
彼の両手を優しく包み込んだ。
「心中、お察し致します。さぞお辛いでしょう」
「…………っ!?!?」
「私でよろしければ協力させてください。一緒に強くなりましょうね?」
そしてトドメの、天使の笑顔。
ロンは完全に恐慌を来してしまったようだ。ボフンという爆発音が、彼の顔面から発せられる。フレミアほどの美人に手を握られたのだ、若い男なら動揺するのも無理はない。
――ま、フレミアは既婚者なんだけどな。間違っても二人が結ばれることはない。
だが、ロンの初々しい反応を見るに、なんだかそれも言いだしづらかった。
「で、ででで、でも、いいんですか!?」
ロンがぎょっと目を剥き、辿々しく言う。
「あなたのような女性に剣の手ほどきなんて……。たしかに僕は弱いですけど、一応冒険者ですよ?」
「心配はご無用です。私は以前に正規軍に所属しておりましたので……多少、戦いの心得はあるのです」
「な、なるほど……。それなら……」
「私の心配をしてくださるなんて。優しいんですね?」
そしてまたニッコリと微笑むフレミアに。
「ううっ……」
ロンが急によろめきだす。
自身の胸を抑えながら、
「こ、これが一目惚れってやつか……! か、可愛すぎる……!!」
などと呟いている。
「ロンさん? どうかしましたか?」
「はっ! いえっ! なんでもありませんっ!」
――やれやれ。
ルイスはもう、黙って成り行きを見守ることしかできなかった。
ロンには後で、フレミアに旦那がいることを教えてやろう。たぶんもう、本気で恋心を抱いているように見える。
ロンはふうと深呼吸すると、後ろ向きに歩き、フレミアから距離を取った。
ある程度離れると、そのまま鞘から剣を引き抜いてみせる。
フレミアもにっこり笑うと、懐から武器――大斧を片手に持った。そのあまりのおぞましさにロンは一瞬だけ目を見開くが、すぐに表情を引き締める。
「おいアリシア。あれがフレミアさんのエモノなのか」
「はい。……ほんと、前はすごい大活躍だったんですよ」
「ほう……」
ルイスも実は気になっていた。
――正規軍に所属していた、凄腕の戦士フレミア・カーフェイ。その戦いっぷりを、この目で見てみたい。
ざわわわわわ、と。
両者の間を、穏やかな風が通り過ぎていく。
この緊迫感を察してか、魔獣が寄ってくる気配もない。
油断なく構える二人に、アリシアが声を投げかけた。
「もしロンさんが大怪我をしたら、私が治します。ですから心配しないでくださいね」
「え……大怪我……?」
ロンが呟き返した、その瞬間。
いままで天使のようににっこりしていたフレミアが、一転して悪魔のごとく表情を歪ませた。
「ククク……血がたぎる……ざわめく……。私の戦闘本能を呼び覚ますのは誰だぁ……?」
「へっ!?」
びくんと背を伸ばすロンに、フレミアは斧の切っ先をねっとりと舐め回しながら言った。
「ロンよ。この私に稽古を申し込む、その意気やよし。戦うからには全力でくるがいい。……さもなくば殺すぞ?」
「へっ!? へっ!?」
「動きを止めるな! ここは戦場だぞ!」
フレミアは声を張り上げるや、片足で地を蹴り、猛然と駆け出した。大斧を持っているのにすさまじいスピードだ。《無条件勝利》を使用していないルイスには、正直まったく動きが見えない。
「わあああああっ!?」
対するロンは完全に取り乱してしまったようだ。慌てて剣を持ち直し、防御の体勢を取る。だが元正規軍の兵士はその動きを先読みしていたようだ。
「ぬるいわっ!」
ロンの剣をかいくぐり、斧――ではなく、回し蹴りを胴体に見舞う。その攻撃は防御の裏を掻き、見事に直撃した。
「かはっ……はっ!」
「エモノを振りかぶったからとて、その武器を使うとは限らない! 判断を見誤るな! ここが戦場だったら死んでたぞ!」
「はぁ……はぁっ……!」
フレミアの一撃はかなり重かったようだ。
ロンは数秒間、腹を抑えて苦しそうな呼吸を繰り返していたが――それでも前を向いた。
「そうだ……! 僕は、強くなるために……ッ!」
そして、ふらつきながらも剣を構え、フレミアに向き直る。
「ほう……? 私の蹴りを喰らってもなお立つとはな……」
「お、お願いします、フレミアさん……! 僕、強くならなくちゃいけないんです!」
「ククク、それでこそ殺し甲斐があるというもの。簡単に死ぬんじゃアないぞ?」
「ぼ、僕はッ! 死ねません!!」
新しくアンケートを設置しました……!
よろしければご回答をお願いします(切実)
リンクは下部にございます。




