おっさん、ピクニックへ行く2
「け、剣の稽古だって……?」
ルイスはオウム返しに呟いた。
なんか面倒なことになってしまったようだ。
ルイスも剣士の端くれだし、稽古に付きやってやりたい気持ちはある。
けれど――彼は素のステータスでは弱い。
レベルも3しかない。
帝国でも最弱なのではなかろうか。
もちろん《無条件勝利》を使えばその限りではないが、正直言って心配なのである。古代魔獣すら一撃で殺してしまうようなスキルだ。それを一般人に向けてしまえば――最悪、殺人事件に発展する。
これもまた、《無条件勝利》の不便な点といえるだろう。強力すぎるがゆえに、使用する際には相手を選ばねばならない。
アルトリアとの試合時には一瞬で決着をつけたが、それでは稽古といえないだろう。
以上、これらの思索を踏まえて、ルイスはお断りの文言を口にする。
「申し訳ないが、今日は気分が乗らなくてな。悪いが他を当たってほしい」
「そ、そうですか……なら仕方ないですね……」
残念そうに肩を落とす青年。
なんだか思った以上に落胆してしまったようだ。表情がかなりしょぼくれている。
「…………?」
アリシアが一瞬だけこちらを見やると、青年に目線を戻した。
「なにか事情がおありなんですか?」
「いえ……そういうわけでは……」
「いいんですよ。遠慮しないでください」
アリシアの笑顔に、青年ははっと目を見開くと。
視線を地面に固定したまま、暗い声で話し始めた。
「実は……。僕、見習いの冒険者なんですが、Eランクから全然上がれないんです。同期はどんどん出世していってるのに……」
「あ……」
アリシアが口をつぐむ。
「それで薬草採取の依頼とか、簡単な仕事だけでもやろうとしたんですけど……それもダメダメで……。前なんか、ギルドに直接クレーマーが来てしまったみたいなんです……」
「…………なるほどな」
ということは、彼こそが薬草採取と見せかけて《雑草》を持ってきた張本人か。
いや。
本来、新人冒険者にはベテランが付き添うのが習わしだ。
だから彼が仕事ができないのも無理はない。非はギルドマスターのライアンにある。
「……もしかして、ギルドで嫌な目に遭ってるのか?」
「いえ。帝都に魔王が現れてから、みなさん、僕みたいな人にも優しくしてくれます。昔と違って仕事も教えてくれるようになってますし……」
「ほう……あいつらがねえ……」
その意味ではギルドも成長したということか。
魔獣退治の依頼も減っただろうし、そろそろ本腰を入れて人材育成に力を注いでいるんだろう。
「だからこそ、僕、情けないんです。みなさん僕に優しくしてくれてるのに……僕は、僕だけが全然成長できない……!」
「…………」
「ですから、休日を返上してでも修行したくて……そしたらルイスさんがいて……思わず話しかけてしまったんです。でも気分が乗らないんじゃ仕方ないですよね……。くつろいでたところ、申し訳ございませんでした……」
そうしてトボトボと歩きだそうとする青年に、ルイスは声を投げかけた。
「――名はなんというんだ?」
「へ?」
ゆっくりと振り向く青年。
「ロン。ロン・フォートといいますが……」
「よし。ロンだな」
ルイスはゆっくりと立ち上がると、鞘に手を添えながら、ロンの隣に並んでみせた。
「訳あって、直接の稽古はできねえんだ。だが、魔獣との共闘なら問題ない。俺が前に出るから、動きを見て盗め。いいな」
「え。い、いいんですか……!?」
「ああ。強くなりたいんだろが。……諦めなんなよ。どんなに辛くても」
「はい! ありがとうございます!」
弾けたような笑顔でついてくるロン。
そんなやり取りを見て、アリシアも微笑みを浮かべているのだった。
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