おっさん、叩き起こされる
その後、神聖共和国党の生き残りは正規軍によって捕縛された。
すぐに処刑しなかったのは、色々と情報を引き出すためだろう。実際にも、現時点でわかっていないことが多すぎる。ルイスたちも協力し、すべての敵を生きたまま捕らえることに成功した。
そのようにして。
二度目の帝都襲撃は無事に切り抜けることができた。
かつては《不動のE》として馬鹿にされ続けてきたルイスだが、今回の活躍により、誰もが彼の功績を認めることとなった。
――多くの住民が、前代魔王との戦いを見ていたから。
――住民らが絶望しているなかにあって、ひとり、ルイスだけが果敢に戦っていたから。
誰もが信じて疑わなかった。
今回助かったのは、紛れもなくルイスのおかげであると――
このことに対し、帝王が正式に謝礼をしたいとの声明を発表した。帝都を救った英雄に対し、直接、礼を言いたいのだという。
とはいえ、襲撃により帝都はボロボロ、多くの被害者が出てしまった。王が多忙の身ということも相俟って、また後日、改めてルイスを城に呼ぶこととなった。
★
「ということで、今日はピクニックに行きましょーう」
「どわっ!?」
リッド村。カーフェイ家。
まだ朝も早いというのに、アリシアがいきなり部屋の扉を開けてきた。
ルイスはといえば、ボサボサの寝癖頭だ。
当たり前である、だってまだ午前五時だ。
「おまえ……! 朝っぱらからうるせぇよ……!」
毛布を被り直し、恨めしい声を発する。
「だってしょうがないじゃないですか! 遠足の前日はワクワクが止まらないんです!」
「……はぁ」
そんな微笑ましい感覚をまだ持っているとは。ある意味で羨ましい。
ちなみに現在、ルイスとアリシアは仕事を休業中だ。ユーラス共和国に行くまでの間、ゆっくりと身体を休めるように――というアルトリアの気遣いである。
まあ他にも、魔獣が減って平和になったという理由もある。神聖共和国党がいなくなったことで、帝国にも平穏が訪れたのだ。おかげで、カーフェイ家にやってくる依頼はごく少ない。
「……ピクニックに行くのはいいけどよ、朝っぱらじゃなくてもいいだろ? もうすこし眠らせてくれよ」
アリシアとは違い、ルイスはもう四十。
《ピクニックがあるから》という理由で元気が出るほど、瑞々しい年齢ではない。
「むー、仕方ないですねぇ」
アリシアはぷくぅと頬を膨らませると、そのまま部屋に入ってきた。ベッドに背をもたれる形で、ちょこんと座る。
「なら私、ここで待ってます。静かにしてますから」
「……なんでだよ。そんなとこにいても寒いだけだろ」
「…………」
――もう、言わせないでください。
と、アリシアが小さく言った。
「ルイスさんと一緒にいたいんです。それだけでなんだか……安心するんです」
膝を抱えながらそう呟いた。
「はぁ……おまえって奴は……」
ルイスはため息をつくと、ベッドのなかをもぞもぞと移動し、人ひとりが入れるだけのスペースをつくる。
「入れよ。風邪引くぞ」
「え? いいんですか!?」
「ああ。ただし起こすんじゃねえぞ」
「やった!!」
黄色い声をあげてダイブしてくるアリシアだった。




